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ダンジョンに潜ってたらTSしたんですけど~有名配信者の配信に映りこんでしまい最強ハンター【銀の弾丸】と呼ばれるように~  作者: KIXAN


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ヘッドハンティング1

◇◆◇◆


 暫く車を走らせ、空港に着いた二人は政府専用のジェット機で沖縄へと向かう。本来であればビジネスクラス相当の随行員室しか使えないところ、貴賓室の豪華な室内でくつろぎながら二時間半のフライトを経て沖縄へと移動する。


「まだ暑いねぇ」


 夏も終わろうかという季節であるにも関わらず、真夏かの様に照りつける太陽。

 

「沖縄やしな」

「先にどっちの用事をすませる?」

「遺物の方は夜に食事をしながらの予定や」


 氷室は今後の予定を事細かに説明する。

 昼間のうちにめぼしいハンターに接触し、可能そうであれば政府へ引き入れる。夜は夕食の席で、遺物を手に入れるための交渉。

 

「ヘッドハンティングか。場所は?」

「この先、車で三十分くらい行ったところにある、首里城公園ダンジョン、そこでハンターがたむろしとる」

「おぉ、懐かしいな首里城」


 二人は最寄りのレンタカー屋から車を借り、そのまま首里城公園に向かう。

 那覇空港から車で三十分程度の場所にある首里城公園ダンジョン。日本でもトップ10に入るほどに難易度が高いと言われるダンジョンであり、そこにはレベルの高いハンターが多く集まる。

 元が公園なのもあってか、多くのハンターが集まっている。

 ダンジョンゲートから少し離れた所では、数台のキッチンカーが停車しており、ケバブやタコスといった定番のものから、スパムおにぎりシークワサーなど沖縄ならではのものを販売している。

 そして驚くべきは、ダンジョンゲートのすぐ近くに素材の買取り場がある事だ。本来はハンター協会の施設でしか買取はされていないが、それがわざわざゲート近くまで出向いている。


「すごいな。ちょっとしたハンター協会の施設みたいになっとるわ」


 それを初めて見た氷室は、東京と比べて違いすぎる光景に圧倒される。

 

「関西方面はダンジョンゲート周辺で商売が繁盛してるんだよね。特に沖縄は沖縄はここともう一箇所にしかダンジョンゲートがないから出張買い取りが出来るってのもあるみたいだよ。ところでお目当ての人物はどこ?」

「ちょっと待っとれ……確か目星をつけとるのが二人居る。一人は一匹狼(ローンウルフ)って呼ばれとる奴や。このクソ難しいダンジョンにいつも一人で潜っとるっちゅう噂でな。誰も戦っとるところを見たことないらしいがな。とはいえ、今はぱったり見なくなったらしいで、拠点を移したか、もしかしたら既に死んどるかもわからんが……どないした? そんな顔赤くして」


 輝夜の様子がおかしい事に気付いた氷室は、話すのを止めて輝夜に声をかける。

 

「いやえっと……ごめん。多分それ僕の事」


 耳まで赤くした輝夜が、目を伏せてそう答える。

 

「……ホンマかいな。お前が一匹狼(ローンウルフ)なん?」

「いや、なんか、そう呼ばれてる事は知ってたから。あと恥ずかしいから何回も言わないでよ」

「……えぇ」


 輝夜の予期せぬ返答に、氷室は呆気に取られる。


「他は?」

「……もう一人は、えーっと、ああ、こいつや」


 氷室はスマホを取り出し、事前に調査していた人物の写真を輝夜に見せる。

 名前は沢渡剛(さわたりつよし)

 盾と剣を背負った筋骨隆々の大男。いかにも戦士という風貌である。


「基本的に四人グループで行動しとる奴でな。ハンター的が長いベテランやが、最近になってメキメキランキングを上げとる。ダンジョンに潜る時は野良で二人から四人くらい募集してから潜る」

「うへぇ、典型的じゃん」


 一人の強いハンターと、その取り巻き。野良に対しての態度は露骨に悪くはないものの、ナチュラルに格下扱いしてくる。


「ベテランで最近になってって事は、なんか強力なスキルでも手に入れたんだろうけどさ、そういうのって大抵は力に酔いしれてるんだよねぇ……」


 輝夜は気乗りがしないのか、ため息をつく。


「会う前からため息ついてどないすんねん。会うてみたら、意外と気のええ奴かもわからんやろうが」

「まぁ、それはそうだけどさ」

「頼むでホンマに。昨日のうちにSNS経由でパーティを組むように手筈を整えとる」

「準備がいいね。で、設定は?」


 正体を隠すのであれば、戦闘スタイルも大きく変えなければならない。

 氷室の事だろうから、どうせ事前にその辺りを考えているのだろうと思った輝夜は、単刀直入に尋ねる。


「ワイが前衛でお前が後衛の魔法系。沖縄に来たついでに首里城のダンジョンを見てみたいという事になっとる。上手い事話を合わせてくれよ」


 氷室はそう言うと、荷物の中から二振りの剣を取り出す。

 

「魔法ね。頼んだよナディ。魔力は節約気味にね。ポーションがぶ飲みする訳にはいかないからさ」

『ま、仕方ないわね』

『……私は?』


 ナディだけ頼りにされている事が不満なのか、アリアは指輪の中から声をかける。

 

「アリアの出番はないよ。血なんて操ってみなよ。一瞬でバレちゃう」

『それもそうか』


 氷室と輝夜が準備をしていると、一人の男が声をかけてくる。

 

「もしかして、SNSの募集に応募して来てくれたハンターですね。名前は確か室井さんと神楽坂さん」

 

 盾と剣を背負った筋骨隆々の大男。氷室の見せた写真に写っている人物だ。

 

「ああ、そうや。アンタは沢渡剛(さわたりつよし)ハンターやな? ワイら沖縄は初めてでな。まぁ、お手柔らかに頼むで」

「ええ、そうです。今日はよろしくお願いします」

「……全員が前衛なの?」


 剛の後ろに控えている三人のハンターの装備を見た輝夜は、彼にそう尋ねる。

 三人とも剣や槍を背負っており、いかにも前に出て戦うといった格好をしている。

 

「ええ、私達は前衛の四人パーティです。野良でたまに後衛の方とも組みますが、基本的には前衛オンリーで潜る事が多いですね」


 人数が少なければ前衛だけでも問題はない。だが、人数が増えれば、それだけモンスターからも狙われやすい。

 三人に一人の割合で後衛のハンターが居なければ、背後からの奇襲や、集団で襲われた時に対処が遅れ、最悪の場合は全滅に繋がりかねないため、前衛か後衛、どちらかに偏った編成は嫌厭されがちである。

 

「大丈夫。いつもそれでやってますから、安心してください」

 

 剛はそう言うと右手で拳を作り、ドンと胸を強く叩く。

 余程腕に自信があるのだろう。そこまで断言するのであれば、別に良いかと思った輝夜はコクリと素直に頷く。


「それよりも、早速潜りませんか? 案内するので、お二人は私達の後ろから着いて来てください」


 剛を先頭に続々とダンジョンに入っていく。


「……思ったよりは気の良い人そうだった」

「ほれ見ぃ、お前の考えすぎやって言ったやないか」


 ホッとする輝夜を他所に、氷室は彼らに警戒心を向け、持って来た二振りの剣を両腰に装備する。


「正体がバレへんように頼むで」

「わかった」


 輝夜達も剛の後を追うようにしてダンジョン中へと入る。


 ダンジョンの中は静かだった。首里城のダンジョンは広く、厳しい環境である。

 土壌がほとんど形成されておらず、固い岩盤が地表に直接現れている露岩地。乾燥し、植物も殆ど生えておらず、あるのは砂埃と岩のみ。

 その代わり、珍しい鉱石が多く、魔力を含んだ魔含石(まがんせき)と呼ばれる鉱石は日本ではトップの採掘量を誇っている。


「昨日説明しましたが、採掘道具は持って来ていますか?」

「ああ、一応な」


 氷室は背負っている荷物から、少しはみ出ているツルハシを親指で指す。

 

「では、採掘ポイントへ向かいましょう。このダンジョンが初めてなら、最初は魔含石掘りが良いです」


 定番の採掘ポイントがあるのか、剛達の足取りは迷いなく先へと進んでいく。

 暫くの間、何事もなく順調に進んでいたが、突然、後ろを歩く輝夜と氷室の足が止まり、氷室が武器に手を伸ばす。

 その気配を感じたのか、剛の足も止まり、氷室を一瞥だけすると、そっと武器に手を伸ばして身構え、正面を見据える。


「モンスターが来るぞ! 戦闘態勢!」


 ダダダダダと地面から微かに振動が伝わってくる。

 やがて大型犬ほどはあろうかという大きさの(さそり)が、群れを成して迫ってくるのが見える。


「よりによって大蠍(おおさそり)とは……」


 硬い外殻と毒のある鋭い尻尾、そして岩すら容易く砕く鋏。前衛にとっては戦い辛いことこの上ないモンスターである。


「お二人は私達の援護を! 大蠍は他のダンジョンでは下層に近い中層に出てくるモンスターです。一階層だからと侮らないようにしてください!」


 剛はそう言うと、盾を構えて前に出る。そして大きく息を吸い、あらんばかりの大声を上げる。


「こっちだ! 虫ケラども!」


 その声に、示し合わせたかのように大蠍の群れは剛へと襲いかかる。

 その全てを、身の丈ほどの盾で受け止める。魔力で強化された盾は、大蠍の鋏でも砕く事はできず、大蠍の足が止まる。


「今だ! やれぇ!」


 剛の気迫のある声と共に、他三人のハンターが一斉に大蠍への攻撃を開始する。

 一人が大蠍の外殻にヒビを入れ、残りの二人で集中的に攻撃を浴びせる。息のあった連携で、ものの数秒程で大蠍を一匹仕留める。


「ナディ、軽くね」


 輝夜の合図でナディが魔法を放つ。研ぎ澄まされた風の刃が剛達の脇をすり抜け、大蠍を二匹まとめて両断する。

 それにより、一人で大蠍の攻撃を凌いでいた剛も攻撃に参加する事ができ、一気に攻勢へと転じる。


「岡田! 石井! 大塚!」


 剛が盾で大蠍の体勢を崩した所に、名前を呼ばれた三人が両側から斬りかかり、素早く確実に大蠍を仕留める。


「弱いな」


 氷室は彼らの戦いぶりを見てそう呟く。

 大蠍の動きには隙が多い。そこを付けば一人でも倒すのは容易い。この程度の群れに苦戦しているようでは、期待していた実力とはほど遠い。

 強力なスキルを手に入れ、それで一気に強くなりランキングを駆け上っているのかと思っていたが、戦闘でスキルを使う様子は見受けられない。

 

「(見立て違いか? せやけどランキングを上がっとるのは事実やしなぁ)」


 どういう理屈でランキングを上げているのか、どんな裏があるのかと考えながら剛の動きに目を向ける氷室。

 しかし剛達の動きを見れば見るほどわからなくなる。

 連携自体は悪くない。個々も動けている。歴が長いだけあってか、並のハンターよりは練度が高い。だがあくまでも並程度。ランキングを駆け上がれる程の実力があるようには見えない。

 

「(せめて夕香くらいは欲しいところやが、高望みしすぎか)」


 夕香も対人戦の経験は浅いが、魔法の技術と魔力量に関しては世界基準で通用する。

 それほど強いハンターが、そうそう見つかる筈がないなと思いながら、隣で暇そうに突っ立っている輝夜に視線を向ける氷室。


「ん?」


 その視線に気づいた輝夜が、何か用でもあるのかと言いたげな表情で氷室を見上げる。


「そう簡単にダイヤの原石は落っこちてへんなと思ってな」

「そんなもんが、その辺に落ちてるわけないじゃん」

「……まぁ、せやな」


 その辺に落ちてたダイヤが言ってもな……と内心で呟く氷室。

 一度は見つけてしまった以上、それ並のものをと高望みしてしまうのは致し方のない事だ。


「っていうか、そろそろ加勢しなよ。あ、ちゃんと手加減するんだぞ」

「わかっとるわ」


 氷室は剣を抜くと、一気に駆け出す。剛達が戦っている横を抜けて、彼らに向かって威嚇をしている大蠍との距離を一瞬で詰め、上段からの一振りで大蠍を両断する。

 氷室が戦闘に参加し、輝夜の的確な援護もあってか、ものの数分程で大蠍の群を殲滅させる。

 

「うっひょー、大量だな」

「大蠍の素材がこれだけ取れるなんて、これだけで今日潜った甲斐があるってもんだ」


 大蠍の大群を前に、ハンター達は目を輝かせ、さっそく大蠍の解体に入る。


「先ほどは助かりました。かなりの腕ですね。それに私よりも先に大蠍に気づいていた」


 大蠍の死体を解体する中、剛が二人に声をかけて頭を下げる。


「ただの勘や」

「その勘に救われました。大蠍はこの辺だと一番強いモンスターです。それが居ると言うことは、近くにかなりの魔含石があるはずです」


 モンスターはより魔力の密度が高い場所を好む。

 魔含石はその名の通り、魔力を多く含んだ鉱石である。その分、周囲の魔力の密度は高くなる。

 魔含石の多い場所にはそれだけモンスターも多く存在しているという事だ。


「お二人もかなり戦える様ですし、もっと奥に進んでみましょう。この面子ならきっと問題ない筈です」


 大蠍が来た方向を目指して進んでいく。奥に行くにつれ、数匹の大蠍が襲ってくるが、最初に遭遇した群れ程の規模はなく、危なげなく倒していく。

 やがて、巨大な岩にトンネルの様な穴が空いている場所に辿り着く。


「こんな穴ありましたっけ?」

「まるで岩を掘り進んで洞窟にしたみたいだ」


 剛の後ろを歩いていた岡田と石井が、その穴に近づき中の様子を探る。

 中は暗く、外からではうっすらとしか見えないが、内部は洞窟のような構造になっている。

 風が鳴る音が微かに聞こえているため、かなり先まで道が続いている事だけはわかる。


「大蠍の数が増えていますし、この先に何かあるはずです。行ってみましょう。ともすれば一攫千金のチャンスかもしれません」


 懐中電灯の灯りを頼りに洞窟の中へと入っていく。

 大蠍の襲撃はなく、ひんやりとした空気と静寂に包まれながら、一本道をまっすぐ進んでいく。

 だが、その静寂も束の間。


「おぉ……」


 メンバーの一人から簡単の声が漏れる。

 懐中電灯で照らされた先には、壁一面を埋め尽くす程の魔含石。ジオードの内側の様な光景に、誰もが言葉を飲み込む。


「凄いですね。これ全部売れば一体幾らになることか」

「その前に、あっちをどうにかせなアカンな」


 氷室が指差す方向。そこを懐中電灯で照らすと、黒い艶のある壁がある。僅かに動いており、よく観察してみると、まるで呼吸をしているかのように規則的に動いていた。

 それが巨大な蠍の外殻であると全員が理解するのに、そう時間は掛からなかった。


「今は眠っとるみたいやけどな」

「下手に刺激して起こすのは得策ではないでしょうね……しかし、我々だけでこの大蠍を倒すのは難しいでしょう」


 剛はしばらくその場で考える素振りを見せてから、ゆっくりと口を開く。


「私達は一度外に出てから他のハンターに応援を要請をしてきます。皆さんはここで大蠍を見張っていてください。もし何かあれば救助信号を出してください」


 剛はそう言うと武器をしまって荷物を纏め始める。


「ワイらが残る必要は?」

「寝ている間に最大火力で一気に削りたいので、他のハンターが偶然見つけても、こいつを刺激しないように見張っていていただきたいのです」

「なるほどな。まぁええで」


 剛の説明を聞いた氷室は納得したように頷き、近くの魔含石に腰掛ける。


「ではできるだけすぐに戻ります」


 剛達はそう言うと荷物を持ってその場を離れる。

 そしてその数分後――。

 

「おい、入り口を完全に封鎖しろ」


 剛の指示を皮切りに、大蠍の寝床の入り口が爆破し、大量の瓦礫が道を塞ぐ。これで救助信号が外に届くことはない。


「あいつら、やりよったな。ランキングのからくりはこれか」


 氷室はため息混じりにそう呟くと、面倒くさそうに立ち上がり、魔法で光の球を生成して周囲を照らす。

 

「入口閉じちゃったね。事故かな?」

「故意に決まっとるやろ。これでランキングを駆け上がっとるからくりがわかったな」


 野良で入った味方を罠にかけ、報酬を自分たちだけで独占する。そうして効率よくポイントを稼いでランキングを上げてきたのだろう。

 

「で、あの人らどうする?」


 輝夜はアイテムボックスから拳銃を取り出しながらそう尋ねる。

 

「向こうの出方次第やな。ないとは思うが、第一声が謝罪なら現行犯で逮捕、向かってくるなら痛い目あわせたるわ」

「できれば穏便に済ませてあげたいけど……まぁ、無理か」


 その様子を見ていた氷室と輝夜は、爆発の衝撃で大蜘蛛が目覚め、背後から近づいているにも関わらず、呑気に会話をしている。

 大蠍が二人を噛み殺そうと口を開けた瞬間。氷室が凄まじい速さで剣を抜き、一振りで大蠍の片側の足を全て切り落とす。


「ブーストスクエア」


 バランスを崩して倒れる大蠍の頭を、スクエアで強化された弾丸が貫く。大蠍の頭は弾丸のエネルギーに耐えきれず弾け飛び、胴体は筒状に抉れ、細かくなった肉片が壁や天井にこびりつく。


「スクエアまでは要らなかったか」

「ま、強さ的には中層クラスのモンスターやろうしな」

「っていうかさ。こういう手の感じって多いの?」


 凛華も言っていたが、ダンジョン内での揉め事は多いと聞く。

 ずっとソロで潜っていた輝夜にとってはあまり馴染みのない事で、いまだに罠にかけられたという実感が湧いてこない。

 

「ん? ああ、まぁ、少なくはないな。ダンジョンの事は外に漏れん。それに自分で直接手を下すわけとちゃうから、殺したっちゅー実感が少ないからな。目先の利益を優先する奴は居るな」

「でも、なんでわざわざ他のハンターを殺そうとするわけ? 普通に協力した方がよくない?」

「分前を独占するためや。他のハンターの装備を売って金にするため、まぁ、理由は色々ある。今回のは前者と、ワイらが大蠍の体力を削って、後から弱っとるところに奇襲かけて楽に倒すためってとこやろな」

「ふーん」


 輝夜は理解できないと呟くと、その場に座り込む。

 

「あれ、大蜘蛛の方が死んでるじゃん」


 それから暫く待っていると、入り口を塞いでいた瓦礫が崩れ、四人が戻ってくる。


「まさか、あの大蜘蛛を二人で倒すとは……だが……」


 剣を抜き、ニヤニヤと笑いながら構える。

 人数有利であり、大蠍と戦った事で消耗している今であれば、容易く二人を殺せると思っているのだろう。


「やっぱ謝罪はナシか。そうなると、こっちも遠慮なくやらせてもらうとするわ」


 氷室は面倒臭そうに立ち上がりながら剣を抜く。

 

「何をごちゃごちゃ言ってんだ!」


 岡田が襲いかかる。しかし、次の瞬間には肩口と首筋から血を吹き出し、悲鳴を上げていた。


「何っ……」


 剛の目が泳いだ。

 何が起こったのか全く理解できなかった。

 襲いかかったと思ったら、次の瞬間にはやられていた。

 

「傷は浅くしとる。直ぐには死なへん」


 痛みにもがく男の側で、氷室は淡々とそう言う。

 それを見て、目の前の男がやったのだと、剛は理解し、ゴクリと唾を飲み込む。


「うおおぉぉぉぉ!」


 剛は雄叫びを上げて気合いを入れ、盾を正面に構えて氷室に向かって真っ直ぐ突進する。


「遅いわ」


 氷室は向かってきた剛の鼻先に剣先を突きつける。

 剛は目の前に突き出された切先を避けようとして、バランスを崩して尻餅を着く。

 そのまま恐怖に染まった顔色で氷室を見上げる。

 そして気付く。

 目の前に立っているのが誰なのかを。


「ま……魔葬屋……」


 震える声でそう呟く。

 

「ん? なんや、バレてしもうたか。やっぱ対面で集中されると見破る奴は見破るな」


 正体がバレた事に気づいた氷室は、遺物の効果の弱さに思わずため息を吐く。

 

「なんで……こんなところに……」

「ヘッドハンティングや。優秀そうなハンターに近付いてスカウトしよ思うてな。せやけど、お前は不合格や。強い弱い以前に、人間性がなってへん」


 マズイ……非常にマズイ……。剛は内心で大いに焦る。

 とんでもない大物に手を出してしまった後悔、ここで捕まれば確実にこの先の人生は詰んだも同然という絶望から、剛は武器を捨てて戦う意志が無いことを示し、対話での解決を図ろうとする。


「ま、待ってくれ! 俺の話を聞いてくれ!」

「いや、待たん」


 氷室は剣を肩に担ぎ、剛に向かって歩いていく。

 

「誤解なんだ! 本当にただの行き違いで、そんなつもりは全くなかったんだ!」


 氷室が迫ってくるのに合わせて、剛は一歩づつ後ろに下がっていく。

 

「どう見ても現行犯や。よかったな、明日から一躍有名人……と思ったが、テレビも今はこないな事、報道する暇はあらへんか」


 とうとう壁際まで追い詰められ、剛は、恐怖と焦りから額に大量の脂汗を滲ませ、逃げ場が無くなったにも関わらず、それでも逃げようと背中を壁に押し付ける。


「お、おい動くな魔葬屋!」


 剛の取り巻きのハンターである石井と大塚の二人が、輝夜に武器を向けて氷室を脅す。

 氷室は一瞥する事もなく、ゆっくりと剣を振り上げ、側面で剛の頭頂部を叩いて気絶させる。


「お前ぇ! こいつがどうなってもいいんだな!」

「耳元で叫ぶなよ」


 輝夜は迷惑そうな表情で、大塚の顎に銃口を押し当てる。

 

「シモヘイヘとお揃いにしてあげようか?」

「じ、銃……ま、まさか……」


 見たことのある拳銃。魔葬屋との組み合わせ。

 トレードマークとも言える白銀の髪ではなかったため、考えもしていなかったが、取り巻きのハンターは、自分が武器を向けている相手が誰なのかを察する。

 

「お前が武器向けとんの、朱月輝夜や」

「……あっ」


 終わった。という表情で固まる石井と大塚の二人。

 輝夜の戦闘はネットで何度も見たことがある二人にとっては、輝夜は雲の上の存在。天地がひっくり返ったところで勝てない。

 加減をしている魔葬屋と違い、輝夜の銃はどこに当たっても致命傷になるため、魔葬屋と戦った方が何倍もマシだとさえ思える。


「ほら、はやく武器捨てなよ」


 輝夜に言われ、二人は大人しく武器を捨てる。


「あの二人を連れて失せろ。んでもって大人しく自首せぇ。もし、今日中に自首せえへんかったら、そん時は何処までも追いかけて確実に殺したる。お前らみたいな弱いくせに周りに危害を与えるような雑魚は、居らんほうがええ」


 氷室は二人に詰め寄りながら、鋭い殺気を放つ。


「わかったな?」


 氷室に睨まれた二人は、子鹿のように震えながら首がもげそうな程の勢いで頷き、気絶した剛と痛みでうずくまっている岡田を連れて、逃げるようにして走り去る。


「現行犯逮捕じゃなくて良いの?」


 あっさりと見逃した事が意外だと思った輝夜は、氷室にそう尋ねる。

 

「雑魚にかける時間が勿体無いわ。身元は割れとるんやし、後で協会に言ってライセンス停止にでもしといたらええわ」

「それもそうか」

「とはいえ、だいぶ無駄足やったがな」


 そうそうダイヤの原石など転がっているわけないか……と、氷室はため息混じりに肩を落とす。

 

「まぁまぁ、まだ一人目でしょ? 全国探せば一人くらいは良いのが居るって」


 輝夜はそんな氷室の肩を叩いて、慰めの言葉をかける。


「やとええけどな……」


 氷室は肩に置かれた輝夜の手をそっとどかして、持ってきた荷物の中からツルハシを取り出す。

 なんの収穫も無しでは帰れない。せめて魔含鉱だけでも持って帰ろうと、壁一面の魔含鉱を掘り始める。幸い、かなりの量の魔含鉱があるため、全て持ち帰れれば、インフラに利用される魔力を補うことが出来る。

 運搬は輝夜のアイテムボックスがあるため困ることもない。


「ところでお前、ここ拠点にしとった言うたな」


 氷室はツルハシで魔含鉱を採掘しながら輝夜に話を振る。

 

「うん」

「そん時、誰か強い奴おらんかったんか?」 

「居るよ」


 輝夜は氷室が掘った魔含鉱を、片端からアイテムボックスに放り入れながら答える。

 思いもよらぬ発言に、氷室は思わずツルハシを振るう手を止めて振り返る。


「下層の方で暮らしてる時に、何度か会ったけど、結構強そうな感じだったよ」

「ほんで、そいつの名前とか知らんのか?」

「知らない。けど若い男だったね。二十歳くらいかな」


 輝夜は記憶を探るように視線を上の方に向けて、顎に手を当てながらそう答える。

 

「かなり若いな。今でも二十代前半ってところか」

「一度、よく会うねって話しかけた時に、家が近いって言ってたような気がする……多分……あんまり覚えてないけど……」


 顔までは鮮明に思い出せないが、たしかそんな話を一度だけした事がある気がすると、自信なさげに輝夜は言う。


「ほな、まだここをメインに潜っとる可能性もあるな……お前がそう言うっちゅう事は、かなりの腕利きかもしれんし、ちょっと行ってみるか」


 氷室は視線を下に向けてそう呟く。


「夜には用事があるんでしょ?」

「それまでに戻ればええねん。ほな行くで」

 

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