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ダンジョンに潜ってたらTSしたんですけど~有名配信者の配信に映りこんでしまい最強ハンター【銀の弾丸】と呼ばれるように~  作者: KIXAN


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ダンジョン配信9

「取引しようよ」


 そう言って、しゃがみ込み、銀髪をなびかせながら微笑む少女の美しさに一瞬見惚れる凛華だったが、すぐにハッとなって我に返る。

 

「私、貴女を殺そうとしたんですよ? そもそも、人殺しなんですけど」


 輝夜が何を言っているのか、凛華はその真意が全く読めず困惑する。

 人殺し、ましてや自分を殺そうとしている相手と取引をする理由が思い浮かばない。


「自分で直接殺した人数はそんなに多くないよね?」

「いきなり何を言って」

「大方、ダンジョンで罠に嵌めてモンスターに襲わせたとかでしょ?」


 凛華の言葉を遮った輝夜は、にこりと微笑みながらそう言う。輝夜は凛華と戦っていて思った事が一つだけある。彼女は対人戦の経験があまりにも少ない。

 対人と対モンスターとでは戦い方は大きく異なる。

 輝夜を襲ってきた賞金稼ぎの殺し屋は、人を殺す事に特化した戦い方であった。

 だが、凛華の戦い方はモンスターを相手にする戦い方だ。

 

「……変なところだけ頭の回転が速いですね」


 凛華は大きくため息をついて、上体を起こしてからゆっくりと話し始める。

 

「例のオーガの襲撃の時、私も参加していました」


 当時、スキルを手に入れたばかりの凛華は、パーティの仲間と共に本土の防衛に参加していた。凛華の役割は状況に応じてパーティメンバーに変身し、前衛と後衛を補うというものだった。

 そしてオーガとの戦闘時、後衛のメンバーに変身をし、火力支援を行っていた際に前衛のメンバーがオーガの一撃をもろに喰らってしまった。

 凛華はすかさず前衛のメンバーに変身して、その穴を補った。なんとかオーガが止まるまで耐える事ができたが、そのメンバーは死亡。

 その後、パーティメンバーの持っていたスキルが、変身後も残っている事に気づいた。

 それから先、前衛を失ったパーティは解散。

 凛華は他人のスキルを集める事に専念していた。

 幸い、ダンジョン攻略配信が流行っているので、ターゲットを探すのは難しくなかった。

 ダンジョンでモンスターにやられそうになっているハンターに変身し、殺されるまで身を潜めて見ていたり、時にはあえてモンスターをおびき寄せ、他のハンターを襲うように仕向けたり。モンスターと戦い疲弊している所をモンスター変身して襲撃し、致命傷を与えてからその場を離れて、相手が死ぬのを変身してゆっくりと待つ。

 最初は罪悪感もあったが、スキルがどんどんと増えていく喜びの方が勝り、気がつけば罪悪感は綺麗さっぱり消えていた。


「モンスターに変身して襲えば、配信されていようが足もつかないわけだ」


 輝夜は凛華の手管に、嫌悪感や憎悪といった負の感情が湧くよりも、むしろ感心する。配信者に狙いを絞ったのは悪魔的な発想だ。

 配信中にモンスターに襲われて死んだとなれば、事故として処理される。映像も証拠として残るため誰も怪しむ事はない。誰がどんなスキルを持っているのか、配信を見れば直ぐにわかるし、ネットで探せばまとめサイトもあるだろう。


「それに、試聴回数が少ない配信者を狙ったので、死んだところで話題にもなりにくい」

「ふーん、短い期間でスキルを集められたのも納得だよ」


 数ヶ月でそこいらのプロハンター程度なら相手にもならない程の強さ。もう数年もあれば、世界でも有数の強さになれるかもしれない。


「私自身が手を汚したのは三度だけですが、悪党である事に変わりない。そして、そんな相手と取引だなんて、悪事を企んでると言っているようなものです」

「悪事だなんて人聞きの悪い。ほらあれだよ。しほう? 取引? ってやつだよ」


 意味を理解していない様子で言葉だけ並べる輝夜。

 

「僕の言う事を聞いてくれるなら、凛華さんのした事は全部水に流すよ。警察に突き出したりもしない」

「それは脅しと言うんですよ」


 輝夜本人は、さも良い提案でしょといった様子で笑っているが、逆を言えばこの取引に応じなければ警察に突き出すと言っているのと同じ。


「ですが、それでは取引材料になりませんね」


 警察に捕まったところで、簡単に出られる。そして姿を変えれば追われることもない。


「取引は諦めて早く殺したらどうですか?」

「だから殺さないよ……せめて話くらいは聞いてほしいんだけど」


 輝夜は悲しそうな顔をしながらそう言う。


「聞くだけなら」

 

 凛華は胡座をかいてから、さも条件次第だといった態度でそう言う。

 

「本当? よかったぁ。それじゃあまず、凛華さんにはスキルを鍛えてほしいんだよね」

「先に言っておきますが、私のスキルは殺した相手のスキルを奪えるようになった時点が限界で、これ以上のポテンシャルはありません」


 スキルは使えば使うほどに、より強力な力を引き出せるようになる。スキルを持っていれば、それがどの程度か感覚で把握できる。

 凛華の場合、元はただ姿だけを真似できる程度のスキルを、変身した相手の能力も真似できるようになり、そこから死んだ相手のスキルを永続的に使えるようになった。その時点でスキルが持つポテンシャルの全てを引き出している。

 ゲームで例えるならばスキルレベルが最大値で、これ以上強くなることはない。


「付け加えるなら、私が奪えるスキルはトータルで10まで。それ以上は容量不足なので、それ以上奪うなら、今持っているスキルを捨てなければならない」

「……そっか」


 スキルの成長限界の話は輝夜の理解しており、残念そうに肩を落とす。

 凛華のスキルで男の姿に戻ろうと思っていたが、それは叶いそうにない。


「じゃあ、それはいいとして、ドワーフの橋渡しはやってもらいたいんだけど、どうかな?」


 ドワーフ達は地球の社会について何も知らない。逆に、地球に住む人々はドワーフについて何も知らない。

 このまま政府に放り投げて任せるという手もあるが、アイスエルフに騙されて奴隷として飼われていたという事実がある以上、それをすれば、また同じ事をされてしまうのではないかと、彼等の警戒心を強めてしまう事に繋がりかねない。

 だが、両者とも繋がりのある輝夜が間に入れば、両者は知り合いの知り合いという立場になり、最低限、話合いのテーブルに着く事はできるだろう。

 その仲介役を代わりにやってほしいと輝夜は言った。

 ドワーフ達も輝夜の仲間で、危ないところを救ってくれた一人だと知れば、信用するだろう。仲介の代役は充分に担える。


「ああ、さっき言ってたやつですね。ただ、私に務まるとは思いませんが」


 凛華は眉を顰めてそう呟く。

 輝夜はドワーフもちゃんと話ができれば、すぐに社会に溶け込めるようになるだろうと、楽観的な考えだが、凛華はドワーフ達の立ち位置は、微妙なところにあると思っている。

 ドワーフの存在は既に世界中に知られている。

 友好的な関係を結べる可能性のあるダンジョンの種族であると。

 加えて、卓越した鍛治技術。凛華が今持っている短剣も、全世界のハンターが大金を叩いてでも欲しがるような業物である。ドワーフが作った武器を使えば、熟練のハンターなら簡単にプロにもなれるだろう。

 ともすれば、世界各国から「お誘い」の声が掛かるのは明白。お誘いだけで済めば良いが、単なるダンジョンの情報源であったヴィサスの時とは違い、今度は本気で狙ってくるだろう。

 そして、その仲介役はもっと面倒な立場に立たされる事になる。ドワーフを直接狙うよりも、その窓口を狙う方が容易いからだ。


「え? なんで? ただ間に入るだけだよ?」

「そうは言いますけどね……」


 輝夜の反応を見た凛華は面倒だと思いながらもドワーフ達の微妙な立ち位置と、世界がどういう反応をするか、思っている事を説明する。


「別に守んなくていいよ。それは国のお仕事だからね。凛華さんはあくまでも仲介人。ドワーフとの橋渡しには欠かせない人なんだから、守る側じゃなくて守られる側でしょ」

「……ああ、確かにそうですね。その考えはありませんでした」


 政府の働きを見た事がない凛華は、ドワーフの護衛も自分でしなければならないと思っていた。しかし、政府関係機関の人間は非常に優秀だ。そもそも、仲介役と言っても、凛華は両者の間に立っているだけで何もする必要はない。交渉の場に居るだけで良いのだ。


「……とすると、なるほど、考えようによっては悪くない」


 ドワーフと繋がり持とうと思えば、まず接触するなら仲介役だ。金を握らせるなりして、ドワーフと取引できるように裏工作をするのが一番手っ取り早い。

 そうなれば莫大な金が入ってくる。そして金を受け取った後に、自らドワーフに変身して顔合わせをすれば良い。

 後は適当な理由をつけて交渉を破断にする。

 そうなれば、良い返事が貰えるまで、何度も話し合いの場を作ろうと金を渡し続ける。

 とはいえ、やり過ぎれば、痺れを切らして武力で無理やりドワーフを自国に招こうとするだろう。精鋭かつある程度の規模の部隊を送り込んでくるのは明白。

 そうなれば、護衛のハンター、もしくはブッキングした他国のハンター同士で確実に争いになる。

 両者とも精鋭であれば良いスキルを持っている者も多いはず。ともすれば、金と力、その両方が手に入る。

 仮にそれを突破して凛華とドワーフに辿り着くハンターがいたとしても問題ない。

 凛華のスキルは一対多で使ってこそ、その真価を発揮する。

 敵になりすまして混戦に持ち込み、同士討ちさせる事ができるからだ。

 タイマンの戦闘でも、スペック上は優位に立てるので、輝夜のように魔力が少なくスキルが使えないといった場合を除けば、少なくともその場から逃げるくらいはできる。

 

「……良いですよ。仲介役の件は引き受けます」


 熟考の末、凛華はドワーフの仲介役を引き受ける。

 凛華にとってメリットがあまりにも多い。


「オッケー、それから最後に一つ」

「まだあるんですか?」


 一体いくつ要求するつもりだと、凛華はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。


「百足旅団、一緒に潰さない?」

「構いませんよ」


 輝夜の誘いに、間髪入れる間もなく凛華は快諾する。

 

「……即答だね。なんで?」


 もう少し渋るかと思っていた輝夜は、予想外の反応に少しばかり驚く。

 

「私のパーティメンバーの仇ですから」

 

 オーガによって凛華のパーティメンバーは命を落とす羽目になった。そしてそのオーガを操っていたのは百足旅団。凛華が百足旅団に対して復讐心を持つのは当然の事だろう。


「ふーん、仲間殺されて怒るのに、自分は他のハンター殺すんだね」

「え? 仲間は好きなので死んだらいやですけど。他人が死のうが別にどうでもいいでしょう?」

「……ははっ」


 凛華の返答を聞いた輝夜は、そのあまりにも自己中心的な回答に返す言葉もなく、ただ乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 凛華の言っている内容、それ単体で聞けば頷けるのだが、彼女の背景を知った後では、なんだこのクソヤバ女という感想しか出てこない。

 手にかけたハンターにも、同じように悲しむ仲間や友人、家族がいるかもしれない。自分が復讐の標的になるかもしれない。自分が復讐したい相手と同じ事をしている。そういったことは考えないのだろうかと、輝夜は内心で思いながらも口には出さないでおいた。


「嘘ですよ。仲間の死については正直どうでもいいです」


 輝夜の反応を見た凛華は、表情を変えることなく興味なさげにそう答える。

 

「どうでも良いと言い切れるのもどうかと思うけど……」

「ダンジョン内で揉めて、一方しか帰ってこないなんて事は割と良くある話でしょう? モンスターを他人に押し付けるとかも普通にりますし、そもそも、モンスターに負けるハンターが悪いみたいなところあるでしょう? モンスター殺して生計立ててるんだから、モンスターに殺されても文句は言えません」

「知らないよ、そんな風潮。最後の言葉は同意するけど」


 ハンターがモンスターに殺されてしまうのは仕方がない事だという部分だけは同意できるが、それ以外については聞いた事もない。最も、輝夜はこれまで、最下層や深層のように他のハンターが来られないような場所でしか活動してこなかったため、他のハンターとの交流が極端に少なく、ハンター間の常識や暗黙の了解というものについては、ほとんど知らない。


「じゃあ、なんで協力する気に?」

「百足旅団が持ってるスキルってなんか凄そうじゃないですか」

「まぁ、そうかも。遺物も色々と持ってるみたいだし」


 動機はなんにせよ、思いもよらぬ掘り出し物である。

 スキルで元の姿に戻るのは無理だったが、それを差し引いても申し分ない強さ。伸び代も十分にある。

 性格に難がありそうなものの、良い仲間を手に入れたと内心で喜ぶ輝夜。


「それで、潰すと言いましたが、拠点はわかってるんですか?」

「それは夕香さん次第だね」

「……誰?」


 ◇◆◇◆


「……目が覚めましたか?」

「飲み水に眠剤混ぜたのね」


 椅子に縛り付けられた状態で目が覚めたら火乃香は、周囲を見まわし、そこが夕香の自室である事を理解する。

 

「はい。ぐっすり眠っている間に貴女を移送しました。これまでの様に、百足旅団の刺客に殺されてはたまりませんからね」

「あっそ。で、元同級生の犯罪者を家に招いてどういうつもり?」


 魔法を使おうとしても、何も起こらない。魔力を封じる遺物かなにかを使われているのだろうと思った火乃香は、諦めて天井を仰ぎ見る。

 

「私の家じゃないですよ……どうするつもりかについては、決まっているでしょう。尋問です」

「拷問の間違いでしょう」


 夕香の言葉を嘲笑うかの様に答える火乃香。

 

「そうですね。グロ系メンタル系エロ系、全部やります」


 夕香は誤魔化す事なく淡々と告げる。

 

「……アンタ、そんなキャラだっけ?」


 火乃香の記憶にある夕香はストイックながらも、周囲には優しい優等生だったが、目の前に居るのは、鉄仮面を被った冷徹な女。

 そのギャップに面食らった火乃香は、内心驚きながらそう尋ねる。

 

「自分で何したか忘れたんですか? G7サミットが行われている会場でテロ行為。世界に堂々と喧嘩を売っておいて、無事で済む筈ないでしょ」


 そりゃそうだと火乃香は思った。

 時代が時代なら見せしめに晒し首。現代でも、即刻死刑は免れない。捕まった時点で百足旅団からは足切りされ、すぐにでも刺客が送られてくる。

 どちらにせよ死ぬ以外の未来はない。

 完全に詰みの状況に置かれてしまうと、むしろ冷静になる。自分でも驚くほどに平然としている。


「いいわ。知りたい事、何でも教えてあげる。その代わり、私を殺した事にして逃しなさい」


 火乃香はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、目の前で冷たい視線を向けてくる夕香にそう言う。

 

「交渉できる立場じゃないですよ」

「なら何も教えない。どっちにしろ死ぬなら、何も話さず死んで嫌がらせするわよ」


 夕香の魔法によって、火乃香の首には蛇の刻印が刻まれている。嘘を付けばその刻印が光る。それが光っていないという事は火乃香は本気で言っているという事だ。どうせ死ぬなら、最後に嫌がらせをして死ぬと本気で思っている。


「貴女が話す内容次第では考えてあげます」

「いいえ、先に私の自由を保証してもらうわ」

「……では、貴女は百足旅団の刺客によって殺害された。その後、刺客は私が殺した。そういう事にしておきます。その代わり、死体を用意するのは手伝っていただきます」


 夕香は暫く考えた末に、死を偽装する算段を話す。

 自身の頬に魔法で刻印を施し、嘘を言っていない事も証明する。

 

「それくらいなら容易い事よ。で、何が聞きたいの?」


 自分の自由が保障されるとわかるや否や、火乃香は態度を大きくし、足を組んでそう尋ねる。


「嘘を付けば貴女の首の刻印が光ります。なので嘘は付けないと思ってください」

「わかってるわよ」


 火乃香は早く質問しろと言わんばかりに顎をしゃくる。

 

「では、百足旅団のアジトはどこですか?」

「聞かれたから答えるけど、それを知ったところで無意味だと思うわよ」

「そうですね。百足旅団の本拠地は中国辺りでしょう。バックについているのも。韓国も一枚噛んでいる様ですね。となると、地理的に北側は大体グルなのでしょう。そうなれば、日本は危機的状況に置かれている事になります」

「なんだ、聞く前からわかってるじゃないの」

「どうにかしようにも、中国や韓国には簡単に手を出せない……なので、まずは日本の旅団を潰します。ある筈です日本にも拠点が」


 日本での百足旅の動きは他の国と比べても活発。日本にもいくつか拠点としている場所があるのは考えるまでもない。

 

「拠点……と言って良いかはわからないけど、あるにはあるわね」

「なんだか歯切れが悪いですね」

「まぁ、拠点というか、団員はアカデミーと呼んでいるわ」

「アカデミー?」


 予想だにしていない単語が出てきて、訝しむ夕香。

 

「隠語よ。犯罪者にとっては裏社会のスクールみたいなものでもあるのよ。犯罪の手口とか、暗黙の了解とか、そういうことを知れるからね。そこが一応のアジトになるかしらね」


 火乃香はアカデミーについての詳細と場所を、丁寧に説明する。

 表向きは単なるオフィスビル。だが、その地下では犯罪者に殺しと戦いを教えている。そうなると、百足旅団は単なる犯罪者の集団ではない。犯罪者を集めて教育し、駒として利用する。もはや悪の秘密結社である。


「百足のように幾つもの手足があり、それを世界中に張り巡らせている。たかだか手足を一つ二つ潰したところで意味はないわよ。そもそも、日本に居る旅団を統括している人物は謎。アカデミーを潰したところで、そこに居るかもわからない。末端の団員には匿名アプリを通じて一方的に指示を出すだけだもの」


 そう言う火乃香の刻印は光らない。全て本当の事を言っている。

 

「百足の足が一本千切れたところで、差したる支障がないのと同じですか。まぁ、やってることは闇バイトの延長ですけど」


 日本を統括している人物とやらをどうにかしない限り、百足旅団が国内で暗躍するのを止めることは不可能という事だ。


「では、そのアカデミーはどうやって人を集めているんですか?」


 正面から攻撃を仕掛けるという手もあるが、それでは問題の先送りにしかならない。

 内部に潜入し、統括している人物の情報を手に入れ、その人物を捕縛、もしくは殺害。その上でアカデミーを完全に破壊しなければ問題は解決しない。

 そう考えた夕香は、アカデミーに潜入する方法を尋ねる。

 

「スカウト。ある程度の札付きにならないと声がかからないわよ。一応、受験って手もあるわよ。それで入ってくるのは、年に数人くらいしか居ないみたいだけど」

「何にせよ、私では無理ですね」


 氷室や輝夜ほどではないが、政府所属のハンターとして、かなり顔が知られている。先に述べた二人は言わずもがな、夕香ですら、近づいただけで警戒されるだろう。

 だが、輝夜の伝手で、ほとんど顔が割れておらず、尚且つ裏社会に詳しく、その上かなり腕の立つ人物が一人居る。

 その人物であれば、怪しまれずにアカデミーに潜入できる。


「連絡先を聞いておいてよかったです」


 夕香はスマホを取り出して一本の電話をかける。


「お久しぶりです。そろそろカジノも飽きた頃では?……ええ、仕事をお願いしたいのです……はい、詳細は追って連絡します」


 短い会話を交わし、交渉が上手くいって満足したのか、微笑みながら電話を切った夕香は、火乃香に向き直る。


「受験はいつ何処で行われるんですか?」

「化学美術館と国立図書館の間にある公衆電話から、今からいう番号に電話をかけて5コールで切る。その後もう一度かけて8コールで切る。30秒後にその公衆電話が鳴るから、3コール目で電話に出る。そうすればわかる」


 火乃香は電話番号を夕香に教える。その後も夕香からの質問に、素直に答え続ける火乃香。旅団の人員、能力。知る限りの事を数時間に渡って全て話す。

 

「……概ね想像通りですね。捕まっていない凶悪犯罪者ばかり。それも元ハンターであったり、ハンターでなくとも魔力に覚醒した者のみ。といっても、殆どは大した事ないですが」


 大半の連中はそこらのハンターにも劣るような、アマチュアに毛が生えた程度の能力だが、中にはプロのハンターとしても十分に通用するようなスキルや遺物を持っている者も居る。


「とはいえ、旅団もかなり人材には困っているようですね。実力だけで言えば、貴女は旅団内でも上澄みだったのでしょう?」

「幹部なんだから当然でしょ」

「ちょいちょい幹部を自称する団員が居ますが、なんか多くないです?」


 これまでにも何人も幹部を捕まえているが、一向に黒幕に辿り着く気配がない。アメリカに収監されている幹部からも、目ぼしい情報は上がっておらず、もはや幹部を自称しているだけなのではとさえ思えてくる。


「旅団は、強さと功績に応じて1から10までのランクがつけられる。数字が大きくなるほど上の立場になるわ。で、8から上は幹部扱い」

「……では、貴女のランクは?」

「8よ。まぁ、大抵の連中が4止まり、よくて5って所ね。日本はレベル低いから」

「……ちなみに他の国だと?」

「6から7が当たり前に居るわよ。まぁ、といっても大体は7止まりだけどね」

「どういう意味ですか?」

「8から上は席に限りがあるの。7より上に上がりたかったら、レベル8の席に座ってる奴を殺さなきゃ上がれない。ただ、レベル8に居る奴も並大抵の強さじゃないから、そう簡単には勝てない」

「席の数は?」

「レベル8は百人、レベル9は十人、レベル10は三人、そして頭が一人」


 通りで幹部が多いわけだと、夕香はため息をつく。旅団の規模感からすれば、上位数パーセントの実力者なのだろうが、百人も居るとなると、実際のところは、中間管理職のような立ち位置だろうと推察する。

 

「その内、日本に居るのは?」

「さあ? そこまでは知らない。ただ、ランク9が一人来ているとだけは噂で聞いたわ。そしてそいつが全ての指示を出しているとも」

「ではそのランク9の方を捕まえれば、より詳しい話を聞けるという事ですね」


 言うは易し。だが、ランク8の火乃香でさえ、輝夜とナディの助けがなければ夕香は勝てなかった。ランク9ともなると、まともに相手ができるのは氷室か輝夜しか居ないかもしれない……と、夕香は内心でそう考える。


「これで知ってることは全部話したわよ。拘束はいつ解いてくれるわけ?」

「解きませんよ。貴女の身を保証するなんて言ってないですもん。旅団の刺客に襲われて殺された事にすると言ったんです」


 ランク9の団員を捕えるための策を考えながら、淡々と答える夕香。


「は?」


 その言葉を聞いた火乃香は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まる。

 

「G7サミットでテロを起こした実行犯を野放しにするはずないでしょう」

「あんた、私を嵌めたわね」

「嵌めましたよ。上からも情報を引き出した後は始末するように言われてますからね」


 夕香はそう言いながら、火乃香の胸の下を指先で触れる。

 

「ただ、貴女の戦力は正直魅力的です。なのでこちらに付くのであれば、自由を保証します」


 指先に魔力を込め、火乃香の心臓がある位置にハート型の刻印を刻んでいく。

 

「……何をさせようっての?」

「名前と顔を変えて、全くの別人として、ある人と共に旅団の内部に潜入してください」

「案内役って事ね」


 潜入するにしても、内部の構造を知っている人間が居た方が効率がいい。

 

「ま、端的に言うとそうです。もし裏切ったり、逃げたりすれば、魔法が発動して貴女は死に至る」


 彼女に刻んだ刻印が発動すれば、火乃香の心臓が破壊される。

 火乃香もそれは理解したのか、面倒くさそうに「わかったわよ」と呟く。


「では取引成立です。戸籍は私が用意しておきますので、死体の調達と顔の整形、よろしくお願いします」


 夕香はそう言うと、火乃香の拘束を解く。

 自由になった火乃香は手首をさすりながら、椅子から立ち上がる。

 

「……死体は明日にでも用意するわ。顔の方は三ヶ月ってところね」


 死体の調達は難しくない。旅団の団員を二、三人攫ってしまえば直ぐに用意できる。

 だが、顔を変えるのは時間がかかってしまう。

 火乃香の知り合いの闇医者に頼んだと

 ハンターで傷の治りが早いとはいえ、それでも顔に大きくメスを入れるとなると、目立たなくなるまでにはそれなりの期間を要する。


「構いません。こちらも色々と準備するのに時間が必要ですから。飛ばしの携帯から定期連絡を入れてください。当然、逃げたりすればすぐに殺します」

「わかってるわよ」

「ああ、それから手術代は自腹でお願いします」

「……わかってるわよ」

 

お待たせしました。分割するのが大変なので書き溜めた分を一気に投稿です。

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