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ダンジョン配信7

「もしかして、凛華さん?」


 頬から流れる血を拭う輝夜。先の一撃、完全に防いだと思っていた輝夜だったが、僅かに受け損なっていたらしい。

 

「あ、もうバレました?」


 輝夜の姿であっけらかんとした様子で答える凛華。

 

「さっき、一撃を加える瞬間、僕に変身して、ブースト使ったでしょ。真似するのは見た目だけじゃないんだね」


 攻撃する一瞬だけブーストで身体能力を強化した。それ故に輝夜の予想よりも攻撃が速く、受け損なったのだ。

 

「はい、私は変身した人物の能力もコピーできる」


 凛華は隠そうともせずに素直に答える。

 

「初めから敵だったってことか」


 思えば、グレゴリオに化けている凛華と刃を交えた時に気づくチャンスはあった。ゴブリンに苦戦する程度の実力であったのに、輝夜と戦っているふりが出来ていたのだから。


「目的はこれ?」


 輝夜は瀕死のアイスエルフの王を指差して尋ねる。


「いえ、特には。私が欲しいのはあなたの力の方ですね」


 凛華は上機嫌な様子でそう語りながら、輝夜に刃を向ける。

 

「なら、目的は達してるんじゃない? なんでわざわざ戻ってきたのさ。というかよく戻って来れたね?」


 戻ろうとしてもアリアが腕づくで止めそうなものだがと思いながら輝夜は立て続けに質問をする。

 

「トイレに行くので先に行ってくださいと言ったら、案外すんなりと……戻ってきた理由の方は輝夜さんの御命を頂戴したく思いまして」


 凛華はそう言い終わると、ナイフを軽く振り、姿勢を屈めて地面を蹴る。

 一瞬にして輝夜の懐まで潜り込んだ凛華は、逆手に持ったナイフを勢いよく突き上げる。


「ブーストスクエア」


 輝夜はスクエアで身体強化をし、ナイフが触れる直前に顔を逸らして避ける。刃は避けたものの、ナイフが纏う冷気により、顎の皮膚が裂けて血が滲む。


『このっ!』

「手を出すな」


 ナディが反撃しようとするのを静止する輝夜。


『なんでよ』

「できれば殺したくない」


 凛華のスキルは輝夜が男に戻る可能性でもある。凛華を殺してしまえば、その可能性は潰える。出来れば味方に付けておきたいという欲からである。

 殺しにきている時点でそれは無理だとわかってはいるものの、それでも唯一の可能性をみすみす捨てる事は出来ない。


「ちなみになんでこのタイミングで来たの? もっとあったと思うけど?」

 

 こんなことになるなら、グレゴリオの武器を渡すんじゃなかったと、輝夜は後悔する。


「ずっと配信してたじゃないですか。だから配信が終わるまで待ってたんです」


 ダンジョン前には配信で状況を知ったマスコミや国関係者が集まっているだろう事は明白。

 輝夜を殺して彼女に成り代わり、適当にその場を凌げば、適当な人間に成りすまして逃げおおせればいい。


「それはそうと、変身して思ったんですが……どれほどの化け物かと期待していた割には、案外普通なんですね」

「バカにしてる?」


 普通と言われ、遠回しに弱いと言われているように感じた輝夜は、少し不機嫌になり、ぶっきらぼうに答える。

 

「あれだけ持ち上げられてるんですから、期待するのは間違いではないでしょう?」

「そんなもんかね」


 凛華の攻撃を大きく動いて躱しながら、凛華を観察する。


「(速い……それに単純なパワーが僕と同じくらい……)」

 

 凛華はスクエアを使っていない。長年ブーストを使ってきた輝夜にはわかる。

 武器の性能は凛華の方が高いが、近接戦に持ち込んでもスクエアを使ってこないと言う事は、スキルの熟練度は輝夜の方が上という事になる。

 しかし、そうなれば凛華のパワーの説明がつかない。

 身体能力が同じであれば、ブースト単体の凛華がスクエアを使っている輝夜に及ぶはずがないのだ。


「他にも何かやってるな?」

「流石にわかりますか……ええ、私のスキルは対象の見た目と能力をコピー出来るだけじゃないんですよ。コピーした対象が死ぬ事で、その人のスキルを完全に自分のものにする事ができる」


 凛華は喋っている間も攻撃の手を緩める事なく、的確に輝夜の急所を狙い続ける。

 

「……もずいぶん簡単にネタバラシするんだね」


 それをギリギリの所で避け続ける輝夜。刃先には触れずとも、纏った冷気により皮膚が裂け、細かい裂傷が徐々に増えていく。

 

「知っていた方がやりにくいでしょう」


 凛華はそう言うと、再び輝夜に襲いかかる。

 確かにと輝夜は心内で思った。凛華のスキルは条件付きで人のスキルを奪えるというもの。どれだけスキルを持っているのかわからない以上、迂闊な真似はできない。


「(早めに片をつけるか)」

 

 輝夜は凛華が振るったナイフを避け、彼女の脇をすり抜けて背後に回り込むと、ステップを踏んで距離を取ると、銃を抜いて構える。

 輝夜が銃に触れた時、凛華の姿が輝夜からグレゴリオへと変化する。


光刃(こうじん)


 輝夜が攻勢に出ようとしているのを察した凛華は、ここが勝負どころだと思い、魔力の多いグレゴリオ変身し、自身のスキルを使う。

 空中に出現する八本の光の刃。それらが不規則に動き、輝夜に襲いかかる。

 輝夜は正確な射撃で片端から撃ち落としていく。刃の強度自体はそこまでなく、ブーストで強化していない銃弾でも容易く砕ける。

 八本の内、六本は砕け、残りの二本を体を軽く反らして避ける輝夜。同時に拳銃のシリンダーから殻薬莢を抜き、クイックローダーで素早くリロードする。


「バックスタブ」


 凛華の姿が一瞬にして消え、輝夜の背後を取り、彼女の肩を掴む。


「ハンドバーナー」


 リロードをする一瞬、輝夜に隙ができる。その隙を突いて確実に仕留めにかかった凛華。

 凛華の手のひらが赤く輝く。輝夜は凛華の手を簡単に振り払い、彼女の手首を蹴り上げる。それとほぼ同時に手のひらから放たれる高温の炎。


「危ないなぁ」

「今のに反応しますかっ! ですがっ!」


 輝夜に蹴り上げられ、仰け反る上体を輝夜に変身し、ブーストで強化した膂力で無理やり止め、反動を利用して輝夜に肉薄する。

 顔が触れる程の距離まで近づいた凛華は、ナイフを逆手に持ち、輝夜の喉を狙って突き刺す。

 輝夜は銃を半回転させながら腕を下ろし、銃口を上に向けながら銃身を重心の一歩外側に置く。小指に引金を引っ掛けて、そのまま握力に任せて引く。

 上を向いた銃口から発射された弾丸は、凛華の持つナイフを直撃し、刀身に当たった弾丸が跳ねて凛華の頬を掠める。


「ほんと銃は上手いですよね」


 冷や汗をかきながらそう言う凛華。その表情には焦りが見られる。


「足が止まってるよ?」

 

 輝夜は距離を取りながら、足元にスタングレネードを捨てる。凛華の意識は落ちていくスタングレネードへと向く。

 一瞬、思考が停止する凛華だったが、すぐにグレネードのピンが抜かれていないことに気づくが、その瞬間、輝夜は足で雪を巻き上げて視界をくらませ、大きく距離を取る。

 銃声が響き、巻き上げた雪に穴を開け、凛華の右肩から鮮血が飛び散る。


「今のを避けるか。流石は僕だ」

 

 輝夜は肩に風穴を開けるつもりで撃ったが、凛華は弾が当たる直前で体を逸らして直撃を免れたのだ。

 

「本当……油断ならない……」


 凛華は冷や汗をかきながらそう呟く。

 裂けた皮膚から流れる血で、ナイフが滑らないように持ち変える。

 

「…………スタングレネードで意識を下方向に向けさせたタイミングで、雪を巻き上げて隙を作る。こればかりは見事と言う他ないですね」


 額から汗を流し、肩で息をしながら言う凛華。

 今なら格好のチャンスだと言うのに、なぜか銃を撃とうとしない輝夜に、凛華は疑問を覚えながらも、呼吸を整えつつ、服を裂いて傷口に押し当てて圧迫して止血をする。

 

「凛華さんさぁ、僕の姿じゃないと僕を殺してもスキルを奪えないんでしょ?」

「……!」


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