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ダンジョン配信(2)

中層からは先ほどまでとは打って変わって、あたり一面が真っ白の雪原が広がっていた。


「寒っ」


 輝夜はアイテムボックスから厚手のコートを二着取り出して羽織り、もう一着を凛華に渡す。


「ほ、本当に中層を一人で? 中層なんて行った事もないんですけど……あ、あったかい」


 輝夜から受け取ったコートを羽織りながら、自信なさげにそう言う凛華。


「大丈夫大丈夫。とりあえず、ゴブリンと戦ってみてよ。危なくなったら助けるからさ」


 輝夜の指差す先には、獣の皮に身を包んだゴブリンが二匹、獲物を探して彷徨いていた。ゴブリンも輝夜達に気づいたのか、棍棒を振りかざして近づいてくる。


「うぅ……本当に危なくなったら助けてくださいよね?」


 凛華はサバイバルナイフを抜いてゴブリンを迎え撃つ体制を整える。


『ひどいわね』

 

 ゴブリン二匹と試しに凛華一人に戦わせてみたものの、その酷さにナディは呆れてしまう。

 弓も持っていない棍棒だけのゴブリン二匹。初心者でも軽くあしらえる程度の相手だが、それでも凛華は苦戦していた。

 彼女の得物はサバイバルナイフ。接近して胸か首を一突きするだけで良いのだが、極端にモンスターを恐れているのか、自分から相手の懐に飛び込もうとはせず、一定の距離を保ったまま防戦一方になっている。


《うーん、見事なへっぴり腰》

《得物もあってない》

《これは流石にパーティ組もうとは思えんよな》

 

 その様子にコメント欄でも言われ放題な始末。


「……うん。大体わかった」


 しばらく観戦していた輝夜だったが、一言そう言うとゆっくりとゴブリンへ近づき、ゴブリンの腹を思い切り蹴り飛ばす。

 もう一匹のゴブリンが驚く間もなく、銃口をゴブリンに向けて頭を打ち抜く。


「これ貸したげる」


 一呼吸のうちにゴブリンを片付けた輝夜は、呆気に取られている凛華の方を振り向くと、アイテムボックスから黒一色のルービックキューブを取り出して凛華に渡す。


「……これは?」


 凛華は輝夜の手にあるそれを訝しげに見ながら、輝夜から受け取る。

 

「たしか、アカシックレコード? っていう遺物」


 さらっと言う輝夜の言葉を聞いた凛華は、ギョッとして思わずアカシックレコードから手を離す。落とさないように慌ててお手玉しながら空中で掴み、落として壊さなかった事に安堵する。


「い、いきなりなんてものを渡すんですか!? これ、ハンター協会の公式サイトで見た事ありますけど、国宝級の性能のやつですよね!?」

「へー、そうなんだ」


 魔法がからっきしな自分でも魔法が使える玩具としか思っていない輝夜は、国宝級と聞いても興味なさげに答える。


「知ってるなら説明はしなくていいよね? とにかく、それ使って戦ってみてよ」


 輝夜はそう言いながら、背後で蹴られた腹を抑えながら、よろよろと立ち上がるゴブリンを指差してそう言い、道を空けるようにその場を退いて少し離れた場所から凛華の様子を見守る。

 

「……よし」


 凛華は小さく頷くと、アカシックレコードをゴブリンに向けて記憶された魔法を放つ。

 アカシックレコードから放たれる鎌鼬。そしてそれは、いとも容易くゴブリンの胴体を切り裂く。

 ウィンドカッター。ナディがよく使う魔法の一つである。


「……すご」


 その威力を目の当たりにした凛華は驚いて腰を抜かす。

 ナディや夕香のように威力が高いわけではない。平均的なハンター程度の威力しかないが、魔法を使えない凛華にとっては世界が変わるかのような衝撃だった。


「ナディ、彼女、魔力量的にはどう?」

『悪くはないわね。ただ……アンタみたいに全く才能がないわけじゃなさそうだけど、自力で魔法を使う素振りがなかったし、魔法使いとして大成するには時間がかかるでしょうね』

「ナディが時間がかかるって言うくらいだと、僕はお婆ちゃんになっちゃうね」


 内心で興奮している凛華を他所に、輝夜は今の一撃を見て厳しい意見をあげていた。

 近接戦も相手の懐に飛び込む勇気がなく、魔法も才能に恵まれていない。


「銃を薦める訳にもいかないし」


 当てられるようになるまで訓練をしなければならない。日々のメンテナンスや弾代など、手間と金がかかる。その上、ダンジョンでは銃弾が通用しないモンスターも多い。

 相性の良いスキルか、余程の腕と好きな気持ちがなければ使えない。雑魚を手軽に倒せるだけの、護身用程度の代物だ。


「他にノータイムで間合いの外から攻撃できる武器って何がある?」

『そんな都合の良いものないわよ』

「困ったなぁ。このままじゃスキルが伸びる前にダンジョンで死ぬのが……っと!」


 突如、凛華目掛けて飛来する一本の矢。

 輝夜は咄嗟にブーストスクエアで身体を強化し、飛来した矢を掴み取る。瞬間、手の平全体から伝わる冷たさと痛み。

 掴んだ矢に目を向けると、それは氷で出来ており、触れたものを凍りつかせるほどの冷気を纏っており、輝夜の右手には薄氷が張っていた。


「ダンジョンで死ぬのがオチだよねぇ」


 輝夜は矢をへし折ると、手を開いて薄氷を割る。


「えっ……今なにが……」


 何が起こったのか理解できず、呆気に取られる凛華。


「敵だ。凛華さんは危ないから、下がってて」


 輝夜は凛華に優しくそう言う。

 凛華は小さく頷きながら、輝夜の後ろに隠れるようにして下がる。


「さて……出てこいよ。隠れてるつもりだろうけど、殺気でバレバレだ」


 輝夜は矢が飛んできた方向に目を向けると、ドス効いた声でそう言う。


「くっくっく、今の矢を受け止めるとは、中々やるではないか」


 そう言いながら姿を現したのは、淡い水色の肌を持ち、白髪の髪に白濁した目、そして大きく尖った耳が特徴的な人。それも一人や二人ではない、少なく見積もっても三十は居る。

 

「……エルフ? にしては、思ってたよりも青いけど」

『アイスエルフよ。まさか、こんなところに居たなんてね』

「アイスエルフ?」


 エルフにも人種みたいなものがあるのかと思いながら、輝夜はナディに聞き返す。

 

『スケルトンやゴブリンばかりにしては、やけにダンジョンの魔力が濃いと思ったけど、アイスエルフの縄張りなら納得ね』

「……どういう事?」

『コイツらアイスエルフは、エルフの中でもかなり好戦的な一族なのよ。ダンジョンにゴブリンやスケルトンばっかりだったのも、コイツらが原因ね』

「上にあった建物はコイツらの?」

『それは違うわね。上の建物はドワーフのものよ。彼らが持ってる武器もドワーフ製』


 ナディは彼らが持っているボウガンを指さしてそう言う。アイスエルフが持っているボウガンは、彼らの細い体躯に似合わず、大型で重厚感があり、腰に帯びている短剣は、研ぎ澄まされた業物であると直感で理解できる。

 

「妖精とは珍しい。そうだ、そいつの言う通り、この辺りの種族は我々が滅ぼした。タワーの外を我らアイスエルフで支配するためにな」


 ナディの存在に気がついたアイスエルフは、下卑た笑みを浮かべてそう言う。


「ふーん、そういう事か。けど、随分と悠長なんだね?」


 ダンジョンゲートが発生した初日に、ヴィサスは現れた。それから一ヶ月近くが経とうとしている。

 ダンジョンの外を支配するが目的と言いながら、なぜその間何もしてこなかったのか……その答えは聞くまでもなくわかっている。

 

「……チッ、確かに忌々しい竜人が、崩壊の直前に割り込んできたことで、我々の計画に遅れが生じた。だが、それも今日までだ。力を蓄え、あの竜人を殺し、我らは晴れて楽園を手に入れる」


 輝夜の言葉に、顔を顰めて不機嫌そうに答えるアイスエルフ。一人だけ纏っている雰囲気が異質。おそらくは彼がリーダーで間違いない。


「……あ、意外と素直に答えるんだ」


〈あの竜人ってなんの事?〉

〈もしかしてニュースで言ってたヴィサスって奴?〉

〈確かに竜っぽいっちゃ竜っぽいけど、流石に考えすぎじゃね?〉


「……何でもいいけど、話が通じる相手とは、できれば戦いたくないんだけど」


 アイスエルフの言葉に、勘繰りを始めるコメント欄を見て、不味いと思った輝夜は露骨に話題を逸らす。


「そうか。では無抵抗に殺されるのを待つといい」

「君らの為に言ってるんだよ。向かってくるなら容赦はしない。死にたくなかったら大人しく引き返して欲しいんだけど」

「面白い。たった一人と一匹でこの数に対抗できると思って居るのか?」

「三人だよ。ねぇアリア」


 輝夜がそう呼ぶと、指輪から血が滴り、雪を赤く染めていく。そして出来上がった血溜まりの中からゆっくりと姿を表すアリア。

 

「アイスエルフの血、一度飲んでみたいと思っていた」


 アリアは舌なめずりをし、品定めをするかのようにアイスエルフを見つめる。


「何カッコつけた登場してるの? 普段やらないよね?」

「……契約者よ、せっかく配信の前で格好つけたのだから、そう水を差すのはやめよ」


 アリアは恥ずかしそうに頬を染め、明後日の方向に目を向ける。


「ヴァンパイアか。奇怪な組み合わせだが、一人増えたところで何になるというのだ」

「量より質だよ」

「面白い。ならばその力、見せてみろ!」


 一斉にアイスエルフがボウガンを構えて矢を射る。


「凛華さん、隙を見て僕の援護してみて」

 

 輝夜は凛華にそう言うと、その矢の合間を縫うようにして掻い潜り、瞬く間に距離を詰める。その後、一瞬の内に三人のアイスエルフを斬って捨てる。

 

「言うだけはある。貴様は俺が相手をしてやろう! お前たちはあの妖精と吸血鬼をやれ!」


 冷気を纏った短剣を抜き、輝夜へと襲いかかる異質な雰囲気を纏ったアイスエルフ。


「やっぱり君が頭か」


 輝夜はアイスエルフの短剣を真正面から受け止める。

 彼が持つ短剣が纏った冷気のせいか、輝夜のナイフが徐々に氷で覆われていく。


「……ナディ! アイテムボックス!」


 輝夜はアイスエルフの短剣を押しのけ、その場を飛び退くと、刃が氷漬けになり、使い物にならなくなったナイフをポケットにしまいながら大声で叫ぶ。


『はいはい』

 

 ナディは面倒くさそうに返事を返しながら、輝夜のすぐ側にアイテムボックスを開ける。


「……ふー」


 輝夜は深く息を吐きくと、雪で濡れた手で前髪を後ろへ撫で付ける。

 それからアイテムボックスに腕を突っ込み、一本の鉄パイプを取り出す。


「容赦はしないって、ちゃんと忠告したからね?」

 

 それを軽く横に振るう。業物の刀を振ったにかと錯覚するような鋭い風切り音が上がる。


「ほぉ、面白い」

 

 鉄パイプを握った輝夜の姿を見たアイスエルフは、ゾワっと身の毛もよだつ悪寒に身震いする。しかし、怖気付いているわけではなく、むしろその表情は恍惚としていた。


「我はアイスエルフ族長、グレゴリオ」

「朱月輝夜」


 輝夜はその場で二、三度鉄パイプを振るい、感触を確かめる。

 ナディと出会い、銃とナイフを扱う今のスタイルになる前に使っていた武器。長らく触っていなかったが、感覚は忘れていない。


「よし」


 輝夜は一気に駆け出す。そしてグレゴリオの手前で跳躍する。


「動きが単調だ!」


 フェイントすらない直線的な動きに、グレゴリオはニヤリと笑みを浮かべて輝夜の跳躍に合わせて拳を突き出す。

 その直後、風の刃がグレゴリオを切り裂く。


「!?」


 何が起きたのかと驚くグレゴリオ。

 視線の先にはアカシックレコードを構えてへたり込む凛華の姿。


「雑魚が、よくも邪魔を……だが、この程度で俺を倒せると思うなよ!」


 グレゴリオはそう叫ぶと、怪我を気にも留めずに輝夜へと襲いかかる。

 グレゴリオの拳が当たる直前で体を翻し、鉄パイプを地面に突き立て跳躍の軌道を変え、一瞬にしてグレゴリオの視界から姿を消す。


「消えた……?」


 そのあまりにも人離れした反応速度と動きに驚き、思考が止まる。


「後ろだよ」

 

 輝夜はグレゴリオの後頭部を掴むと、腕力任せに押し倒して、鉄パイプを後頭部に思い切り叩きつける。

 頭の後を鉄の棒で叩かれたことで、視界は一瞬だけ閃輝暗点を起こす。

 不意打ちで一撃入ったとはいえ、ただの鉄パイプでは有効打にはなり得ず、むしろ殴りつけた勢いで鉄パイプの方がくの字にへし曲がる。

 鉄パイプで殴られた痛みより、何が起こったのか理解できない事に戸惑うグレゴリオ。

 だが、輝夜は彼が状況を理解するのを待たず、追撃を加える。鉄パイプが曲がるのを気にせずにグレゴリオの顔目掛けて鉄パイプを振り上げる。

 そして鉄パイプを投げ捨てると、彼の体にのし掛かり、無防備になった顔に拳を振り下ろす。


「ガッ……」


 グレゴリオは自分の顎が砕ける音を聞いた。顎だけではない、頬骨も折れているだろう。

 自分の顔が液体にでもなったかのような感覚。そして遅れて襲ってくる経験したことのない激痛。様々な感覚に同時に襲われ、何が起こったのかも理解できず、ただ一方的に殴られ続ける。


「このっ!」


 輝夜を殺そうと、手に持った短剣を突き刺そうとするが、あっさりと輝夜に手首を掴まれる。


「刃に直接触れなきゃ大丈夫ってところか」


 グレゴリオの手首を捻り、彼の手から溢れた短剣を拾う。


「これ、貰うね」


 輝夜はそう言うと、短剣の柄でグレゴリオの額を強打する。

 

「(なんだこれは……なんなんだ……なぜ俺はやられている……? なんなんだこいつは……一体なんだというのだ……こんな……)」


 もはや抵抗する力も残っては居ないグレゴリオ顔の前で両腕交差させ、恐怖から身を守る子供のように縮こまる。

 輝夜はそんな彼の腹を踏みつけて動きを封じ、鉄棒を振り上げると躊躇うことなく相手の胸目掛けて振り下ろす。一度だけではない、何度も何度も鉄棒を上下に振るう。その度に血が飛び散り、骨が砕ける音が響く。


「よへ! はへへふへ」

 

 やめてくれと必死に訴えるグレゴリオだったが、輝夜は構わずに続ける。


「ひっ……」


 殺される。ただ殺されるのでは済まない。最大限に恐怖と苦痛を与えられた上での惨殺。そう悟ったグレゴリオはなりふり構わず、暴れて輝夜の下から抜け出すと、背を向けて地面を這うようにして逃げようとする。


「全員、この女を射掛けろ!」


 必死の形相でグレゴリオが叫ぶ。しかし、輝夜に向かって飛んでくる矢は一本もない。


「無駄だよ。量より質って言ったろ」

 

 輝夜は逃げ出そうとする彼の背中を踏みつけ、動きを封じる。


「君の手下はとっくに全滅」


 輝夜は顎でアリアとナディの方を指す。

 そこにはものの数分で全滅したアイスエルフと、その中心で血を飲むアリア。


「バカな……たかがヴァンパイアと妖精に……」


 目の前の現実を受け入れられずに愕然とする。

 

「最初に言ったはずだよ。向かってくるなら容赦はしないって」


 輝夜はグレゴリオの腹を蹴り、頭を踏みつける。

 

「でも安心してよ。殺しはしないからさ」


 輝夜はそう言うと、グレゴリオの頭から足を退かし、横腹を蹴り上げる。立て続けに二度、三度と、執拗にグレゴリオを痛ぶる。

 その度に悲鳴をあげていたが、次第に声が弱々しくなっていくも、輝夜は無視して暴力を振るい続ける。


〈容赦ない……〉

〈ここまでやる必要ある?〉

〈一応、俺らを支配しようって敵だからな〉

〈なら尚のこと、さっさと楽にしてあげた方がいいんじゃないか?〉

〈けど、会話できるモンスターって今の所殆ど居ないし、殺さず生捕りしようとしてるんじゃね?〉

〈ここで徹底的にやって、上下関係をハッキリさせておかないと、後々面倒になる〉

 

 やがて悲鳴も懇願もなくなり、何の反応も返ってこなくなる。

 そうなってようやく、輝夜は上げた足をゆっくりと下ろす。


「ここまでやれば、流石に大丈夫だろ」


 輝夜は辛うじて息をしているグレゴリオを担ぐと、ナディの元へと連れて行く。


「ナディ、コイツ治してあげて」


 暴れられないようにグレゴリオの腕を拘束し、彼の腰から短剣の鞘を取り外して自分のベルトに装着する。


『アンタ、また敵を助けるような真似して』


 ナディは渋々ながらもグレゴリオの治療に取り掛かる。


「気になる事があるからね。コイツらがドワーフ製の武器を持ってるって事は、少なくともドワーフと関わりがあるって事でしょ?」

『そうね。ドワーフとエルフって犬猿の仲の筈なんだけど……はい、死なない程度に治療したわよ』


 輝夜はグレゴリオの頬を軽く叩いて彼を起こす。

 

「……ぐ」


 グレゴリオは苦しそうに呻き声を上げると、目を覚まし、周囲を見渡して自分の状況を理解する。


「わざわざ助けて、なんのつもりだ」

「さっきまで無様に逃げようとしてたのに、随分と強がるね」

「……」


 痛いところを突かれ、グレゴリオは何も言えずに押し黙る。


「ねぇ、ドワーフってこの近くに居るの?」

「……ドワーフは、我が領地で奴隷として飼っている」


 グレゴリオは歯を食いしばりながら、声を絞るようにして答える。


〈ドワーフ!〉

〈ドワーフまで居るのか〉

〈居る可能性は示唆されてたけど、マジで実在するのか〉

〈エルフとドワーフって対等な力関係だと思ってたけど、ドワーフの方が弱いのか?〉

〈ドワーフ!〉

〈寒さに弱いとかじゃね? ここで戦ったならアイスエルフに地の利もあるだろうし〉


「オッケー、じゃあその領地とやらに案内してもらおうかな」

「……断る!」


 グレゴリオは一瞬だけ目を逸らし、覚悟を決めたかのように

 

『今、自分の領地の事考えたでしょ? 目線がそっちの方を向いてたわよ』


 ナディは、グレゴリオが一瞬だけ逸らした目線の先の方を見てそう呟く。

 彼女の言葉に、驚いて目を見開くグレゴリオだったが、すぐにカマをかけられたと気付き、彼女の言葉に反応してしまった事を悔いる。


『ふぅん、適当にカマかけたつもりだけど、当たってたみたいね』

「ナディは機転が効くね。それじゃ行こうか凛華さん」


 輝夜はそう言うと凛華に声をかけ、グレゴリオの服を掴んで引きずり、近くの岩陰に向かう。


「くっ、離せ! 貴様らの思い通りになるくらいなら死んだ方がマシだ!」

「うるさいなぁ。だったら舌でも噛み切ればいいじゃん。手間が省けるからさ」


 どうにか逃げようとするグレゴリオだったが、ナディ治療したとはいえ、それでも喋るのがやっとの重傷の身体では、到底輝夜の手から抜け出す事などできない。

 岩陰の近くにグレゴリオを放り投げ、銃をホルスターから抜いてシリンダーの弾を詰め替える。


「ブーストスクエア」


 グレゴリオの額に銃口を向け、躊躇う事なく引金を引く。重たい銃声が響き、グレゴリオは糸の切れた人形のように、力なく横たわる。


「殺しちゃったんですか?」


 銃声を聞いた凛華が、おそるおそる輝夜に尋ねる。

 

「戦意のない相手は殺さないよ。それに、死なせちゃうと夕香さんに怒られそうだし、麻酔で眠らせただけ。


〈正直、殺したかと思った〉

〈流石にこの流れで殺すのはサイコパスが過ぎる〉

〈ここで殺すのは意味がわからなさすぎるわな〉


「これで暫くは起きないから、今のうちにドワーフに会いに行こっか」

「あのぉ、どうしてそんなにドワーフに会いたいんですか?」


 これまた、おそるおそる尋ねる凛華。

 

「会いたい理由? 特にないけど……まぁ、強いて言うなら、ドワーフって物作りが得意そうだし、奴隷から解放されたら僕らと友好的な関係になってくれそうだし、なんか良い事ありそうだなって思ってさ」


 ヴィサスといい、アイスエルフといい、人間に害を及ぼす相手ばかりだったから、友好的な関係を結べる相手が居れば皆が喜んでくれそうだと思っただけで、輝夜はドワーフ自体には大して興味がない。

 

「それだけですか?」

「そうだけど……あ、凛華さんの武器とか作ってもらえるかもよ」


 ドワーフ製の武器。そう聞いた凛華の表情がパッと輝く。


「良いんですかね。ドワーフ製の武器なんて、オークションにかけたら何億いえ、何十億って値段が付きますよきっと」


 それだけのお金があれば弟の治療費も支払い、生活も随分と楽になる。危険なハンターを続ける必要もなくなり、安全な日々を過ごす事ができる。

 凛華はの頭はドワーフの武器が幾らで売れるだろうかという皮算用で埋め尽くされる。

 

「売らずに自分で使ってほしいんだけどな」


 輝夜の声も既に凛華の耳には届いてはおらず、輝夜は余計な事を言うんじゃなかったと後悔する。

 

「まぁ、別に良いんだけど、皮算用の前に一働きして欲しいんだけど」

「ん? 何をすれば?」

「このアイスエルフに変身して」


 凛華は輝夜の意図がわからなかったが、言われた通りにグレゴリオの姿に変身する。


「それで、そのままそいつの振りをして欲しいんだ」

「……え、いや無理です。見た目は真似られてもあんな怖そうな雰囲気なんて出せませんよ」


 凛華はそう言いながら首を横に振る。

 凛華のスキルは姿を変えられるだけで、魔力量や強さまで変わるわけではない。一般人に変身するのであればまだしも、アイスエルフではすぐにバレてしまう。

 

「大丈夫大丈夫。適当に偉そうにしてればなんとかなるって」

「本当に無理です。第一、なんでそんな事を?」

「ドワーフを奴隷として飼ってるって言ってたから、勝手な想像だけど牢屋とかその変に幽閉されてると思うんだよね。知らんけど」

「で、グレゴリオに化けた凛華さんが、僕を捕まえたって事にして里に帰る。僕は牢屋に入れられる。そしてそこでドワーフと仲良くなってドワーフを解放する……完璧でしょ」

「……どこがです?」


 グレゴリオに化けたとして、強さまでは模倣できないのでメッキどころではなもはやただのハリボテ。

 ドワーフが奴隷だからと言って牢屋に居るとは限らない。そもそも牢屋があるかすらも怪しい。

 輝夜を捕まえた体で里に入れたとして、輝夜が牢屋に入れられる保証はない。最悪、その場で殺されそうになる可能性も十分に考えられる。

 仮に全て輝夜の目論見通りに転んだとしても、ドワーフが輝夜に同調するかもわからない。


〈確かにガバではある〉

〈個人的には良い案だと思うけど〉

〈周りくどい。根絶やし一択〉

〈五分五分くらいかな〉

〈そこの凛華ちゃん次第〉


「仮にすぐにバレても、その時は強行手段に出ればいいだけだけだから平気だよ」

「なら最初から強硬手段でよくないですか?」


 わざわざ自分がリスクを侵す必要性は無いのではと言う凛華だったが、輝夜は一向に聞く耳を持たずアイスエルフの里がある方角へと進んでいく。

 

「よーし。作戦決行だー!」

 

先月は投稿できず申し訳ありませモンハン楽しい

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読んで面白いと思うけど、色んな小説とか漫画の名場面的なのがよく出てきてる気がする オークションで宝石出したりとかアイスエルフの矢すでで掴むとことか 気のせいの可能もあるけど
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