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G7サミット(2)


「一刻も惜しいので、早急に本題に入らせてもらおう。まず、ダンジョンタワーの勢力について知っている事を全て教えてくれ」


 会議室に入り各々が用意された席に座るや否や、ジェームズが口火を切る。

 

「ふむ、それは私から答えよう」


 アリアが姿を現すと、室内が一気に騒めく。突然現れたアリアに驚く者、アリアを警戒して要人を守ろうとする者や、それを静止しようとする者とで、落ち着きを取り戻すまでに少し時間がかかる。


「……もう話して良いか?」


 静けさを取り戻した辺りで、アリアは会議室全体を見渡してからそう言う。

 

「ああ、話してくれ」

「よかろう。まずは一口にタワーの勢力と言ってもそれは多岐に渡る。ゴブリンやオークといった知能の低い連中、貴様らがモンスターと呼んでいる者共から、エルフの様に知能の高い種族。吸血鬼やドラゴンの様に個の武力に秀でた種族。皆が一様にタワーの下層部を目指していると言うのは既知だろう」


 誰も喋る事なく、アリアの話を食い入る様に聞く。


「最下層には何があるんでしょうか?」

「知らん。誰も行ったことはない」


 尾形の問いに対して即座に首を横に振るアリア。


「……さて、話を戻すが、貴様らがタワーについて知らぬ様に、我々もこの世界については何も知らぬ。今は様子を見ているのだろう」

「共存を望む者、支配を望む者、殺戮を望む者、端から興味などない者。貴様らに様々な思惑があるように、我らにも様々な思惑がある」

「共存を望む者というのは? 具体的にどの種族が何を目的としているのかを教えてくれ」

「それは知らん」


 ジェームズの問いにアリアは首を横に振る。

 長年封印されていた為に、アリアも今のダンジョンの勢力図は把握しては居ない。


「しかし、大まかになるが答えてやれん事もない」

「それで構わない。聞かせてくれ」

 

 アリアは種族毎の文化や性質から、どの種族が友好的な態度を取るか、敵対的な態度を取るかを事細かに説明し始める。


「……僕らは必要なさそうだねナディ」

『私も生態については詳しいわよ?』

「そこで張り合おうとしないでよ。ねぇ夕香さん」


 輝夜は小声で夕香に話しかける。

 しかし夕香からの反応はなく、輝夜はあれ? と思い彼女の方に目をむける。

 

 「……はい、わかりました。いえ、こちらはまだ何ともありません……はい、こちらも状況を見て動きます」


 夕香は深刻な表情を浮かべて無線でやり取りをしていた。

 何かトラブルでも起こったのだろうかと気になり、夕香の方を見ていると、その視線に気づいた夕香が小声で輝夜に耳打ちをする。


「都内のいくつかの場所で爆破テロが起こりました。ここからそう遠くない場所です」


 夕香はそう言って無線のチャンネルを切り替え、都内で起こったテロを他の要人の警護に当たっている者達に伝える。

 動揺してすぐに避難をしようとする者、気に留めずその場に残りアリアの話を聞こうとする者、椅子から少しだけ腰を浮かせて他の参加者らの様子を窺うように周囲に目を向ける者と、様々な反応を示す。


「してやられました」


 夕香は無線で都内の状況を探りながら、自分の失態だとばかりに額に手を当てる。

 今朝言っていたC4の目的はG7サミットではなく日本の都市でテロを起こすためのもの。G7サミットへのテロ行為を警戒するあまり、脇が甘くなっていた所を突かれた形である。

 しかもサミットの会場からさほど遠くない場所で行われた事で、こちらは要人の警護に人員を費やさざるを得ず、都内への対処が一歩出遅れる。


「さっきの振動は爆発か……それで、被害はどんな感じ?」


 輝夜は夕香にそう尋ねる。

 

「……相当数の負傷者が出ているようです。そして爆破テロだけでなく、体に百足の刺青を入れた集団が暴れているとのこと。犯行が行われる二時間ほど前から百足の刺青の入った人物を目撃したとの通報が複数件寄せられている事からも、犯人は百足旅団と見て間違いないでしょう」

「うわ久しぶりにその名前聞いたよ」


 輝夜は心底、面倒くさそうに肩を落としてため息混じりにそうぼやく。

 

 「ヴィサスの一件で大人しくなると踏んでいましたが、むしろこの様な行動に移るとは……」


 百足旅団の目的はダンジョンタワーをこの世界に出現させる事。タワーの崩壊が進み、この世界にダンジョンが増えれば形は異なろうとも彼らの目的は達成されると夕香は考えていた。

 故に、百足旅団はタワーが完全に崩壊するまでの間、地下に潜り正体を現す事はしない……そう考えていた。


「百足旅団の目的は、ダンジョンタワーを完全な形で出現させる事? 目的はダンジョンではなくタワーそのもの……?」


 だとすると、それはおそらく最下層に関係しているのではないか? 夕香はそう思った。

 百足旅団の目的の輪廓が朧げに見えたように感じる夕香だが、すぐにそれはないと思い至る。

 もし自分の推理が当たっていれば、百足旅団の上層部、少なくともボスに関してはダンジョンタワーの最下層になにがあるのかを知っているという事になる。

 アリアほどのモンスターですらタワーの最下層を知らないと言うにも関わらず、一個人がタワーの最下層に何があるのかなど知っていようはずがない。


「……いや、今考える事ではないですね」

「何が?」

「すいません、こちらの話です……どうやら、大半の方達はここに残るみたいです。ここの護りは盤石なので、私は都内の鎮圧に向かいます」


 輝夜や氷室にいい様にあしらわれているが、百足旅団の強さは侮れない。テロの鎮圧には民間のハンターも協力しているだろうが、下っ端はともかく幹部レベルになると並みのプロハンターでも太刀打ちできないだろう。

 氷室はヴィサスの監視で動けないため、ここは自分が行くしかない。


「僕も行こうか?」

「ダメです。百足旅団の狙いが輝夜さんである可能性十分に考えられるんです。わざわざ自分から姿を晒すのは愚策です。そうでなくても、連中はあなたの命を狙っているんですからね」


 夕香はそう言うと、ジャケット内側から三段ロッドの様に折り畳まれた杖を取り出すと、それを軽く振って伸ばす。

 

「絶対に動かないでください。後の事は室長にお任せしていますから」


 夕香はそう言うと会議室のドアを開けて外へと飛び出す。


「ナディ」

『……サポートしろって言うんでしょ? 嫌よ。アンタ以外に手を貸すだなんて』


 腕を組んでそっぽを向くナディ。

 輝夜は悲しげな表情浮かべて、ナディを見つめる。

 

『……あーもう、わかったわよ』


 その視線に耐えかねたナディは、降参だと言わんばかりに両手をあげてそう言うと、夕香が開けたドアから外に出て彼女を追いかける。


「頼むよナディ」


◇◆◇◆


「なんてこと……」


 テロが行われている現場についた夕香は、あまりに悲惨な状況に言葉を失う。一体どれほどの爆弾が使われたのか、摩天楼が並び、人の往来で賑わっていた街並みは、廃墟の様な有様で、一部では激しい火の手が上がっている。

 焦げ臭い匂いと混ざった鉄の匂いが鼻の奥を刺激し、炎で熱せられ、乾燥した空気が肌を撫でる。あちこちから聞こえてくる悲鳴や怒号が心をざわつかせる


「……よくも」


 悲惨な現状を五感全てで感じた夕香は心の底から怒りが込み上げてくる。

 今にも百足旅団を一人残らず殺してしまいたいという気に駆られるが、それをグッと飲み込んで無線で連絡取る。


「状況報告を」

『有楽町、新橋、東銀座付近で百足旅団と思われる集団が破壊活動を行いながら北上中、現在その鎮圧に当たっていますが状況は不利』


 報告を聞いた夕香は深刻な表情を浮かべる。

 百足旅団は公共交通機関の施設を破壊しながら、日比谷公園へと向かっている。

 そして日比谷公園の目の前にはG7サミットの会場である帝王ホテルがあり、そのすぐ側には皇居がある。他にも日比谷公園のすぐ近くには政府の主要な施設が多数ある。そこに手を出されたら終わりだ。


「わかりました。現在こちらは有楽町駅付近にいますのでそれは私が対処します。他はそちらに任せます」

『承知しました』


 無線を切った夕香は一目散に有楽町駅へと向かう。百足旅団が暴れている三ヶ所の内、有楽町駅は皇居と目と鼻の先。何としてでも真っ先に潰さなければならない。

 有楽町駅までの距離は五百メートル。魔法で障害物を飛び越えて最短距離で突っ込む。そして向かい始めてから十数秒後、遠目からでもフードを深く被って顔を隠した連中が好き放題に暴れているのが見えてくる。

 人数は見える範囲でも六人。駅の内部や建物で死角になって見えない分も含めれば軽く三十人は居るかもしれない。


「初手で出来るだけ墜とす」


 杖を軽く振り、空中に巨大な魔法陣を展開する。其処から放たれる(いかづち)。無数に枝分かれして、旅団のメンバーらにまとわりつくように広がって彼らの体を穿つ。

 一人を残して、大きく痙攣して泡を吹いて地面に倒れる百足旅団達。

 殺してはいない。本当は此処で殺してしまいたいというのが本音であったが、彼らからは事態が収拾した後に話を聞かなければならない。


「お話、聞かせてもらえますか?」


 仲間が倒れて戸惑っている旅団メンバーの近くに降り、ゆっくりと近づきながら話しかける。


「えっ、あっ、えっ」


 突然倒れた仲間、そして突然現れた夕香に戸惑い、状況を飲み込めずその場でオロオロと後退りする旅団メンバー。

 大きめのパーカーで体型を隠し、キャップとフードで顔を隠しているが、声から察するに女性。それもまだ若い。

 夕香は険しい顔になり杖を振り上げる。

 キャップを弾き飛ばし、フードが外れ少女の素顔が顕になる。少し茶色味のあるボブヘアーに、学生らしい幼さの残る顔立ち。


「やっぱり学生……」


 周りで失神している者らに目を向けると、彼らも皆一様に学生であった。

 頭では理解していた。治安の悪さが子供達にも伝播している事。だが、実際にこうして目の当たりにすると世も末だという気になる。

 


 

大体4000字くらいです

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