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ヴィサス

 空間全体を押し潰すかのような魔力の密度に、学生達は立っていられずに地面に膝を付く。


「契約者! とてつもない奴が来るぞ!」


 どこからともなくアリアが現れ、焦った様子でそう言う。


「えっ!?」

「あれ……」


 突然現れたアリアを見た学生達は驚きの声をあげる。


「わかってる。皆は早くここから逃げ……」

「何百年待ったことか。ようやく、外の世界に出られる」


 輝夜の言葉を遮るようにして現れたのは、返り血を浴びた鱗で覆われた体に漆黒の鎧を纏い、ドラゴンの翼、身の丈ほどの長さの尻尾、額には一本の角が生え、まるで竜と人間が混ざりあったような、竜人と形容するのが相応しい男。


「(……かなり強いな)」


 目の前に立つそれを見た輝夜は、死霊王やアリアと対峙した時以上の威圧感に思わず生唾を飲み込む。


「人間と妖精に吸血鬼ときたか……随分と奇妙な組み合わせだな」


 竜人の男は膝をついている学生、アリアと順に視線を向けた後に輝夜を見据える。


「夕香さんがこっちに向かってきてるから、学生をそこまで連れていって」


 輝夜の言葉にアリアは小さく頷くと、学生達を一ヶ所に集める。


「待って赤羽さん、一体どうするつもり!?」

「それに彼女、朱月輝夜さんの配信に出てた……」


 学生達の疑問に答えるかのように、輝夜はネックレスを外す。黒の髪は鮮やかな銀髪へ、瞳も金色へと戻る。


「朱月……輝夜……?」

「ウソ……そんな、本物……?」


 驚く学生達を余所に、アリアは彼らを血のベールで覆いそのまま連れて行く。竜の男は身動ぎ一つすることなくただその様子を眺めるだけであった。


「……見逃してくれるんだね」

「これから戦うというのに、雑念が入っては困るだろう」

「そういう感じね」


 このまま何事もなく終わるかもしれないという淡い期待はあっさりと崩れてしまう。


「なら、戦う前にもう少しだけ準備してもいいかな?」

「ああ、入念にな」


 まともにやりあったところで勝てる保証はない。そう思った輝夜はアイテムボックスからドローンを取り出して配信準備を始める。

 戦いながら少しでも多くの情報を集めて対策を立てる為だ。

 配信準備を終えた輝夜はドローンを飛ばす。


《こん~》

《待ってた!》

《なんかいきなりヤバそうな状況……》


 ほどなくして配信が開始され、続々と閲覧数が増えていく。多くのコメントが送られてくるが、今の輝夜にコメント欄に目を向ける余裕はない。


「行くよナディ」


 輝夜はスクエアで身体能力を引き上げ、銃を抜く。


「お、ではやるとしよう。我が名はヴィサス」

「戦う前に名乗るタイプ? 僕は朱月輝夜」


 輝夜が名前を名乗るや否やヴィサスが一直線で襲いかかる。瞬きをする間もなく輝夜の眼前まで迫ったヴィサスは膝を曲げて飛び上がり、輝夜の顔を狙う。

 輝夜は体を傾けて最小限の動きで攻撃を流しながら、ヴィサスのこめかみに銃口を押し当てて引き金を引く。

 三度の発砲音が響き渡るも、ヴィサスには傷一つ付いていない。外した訳ではなく、強化されていない弾丸ではヴィサスの硬い体を撃ち抜く事ができないのだ。

 

「あー、やだやだ。このレベルになるとマグナム効かないのが当たり前になるんだもん」


 半ば呆れたようにぼやく輝夜。

 ブーストで強化すれば通用するだろうが、身体強化を解けばヴィサスの動きに対応することができなくなる。

 銃をホルスターにしまい、これ見よがしに指の関節を鳴らす。

 両者が同時に地面を蹴り、至近距離での打撃戦が始まる。


 ヴィサスは輝夜の攻撃を避けようとはせず、両手を広げて迎え入れるかのように彼女の一撃を受ける。

 大岩や鉄塊を蹴ったかのような重たい感触が伝わり、ヴィサスの体が僅かによろめく。ヴィサスの顔に驚愕の色が浮かぶが、すぐに笑みへと変わり鋭い反撃を返す。

 輝夜はそれを紙一重で避けながら、的確に打撃を叩き込む。

 しかし、いくら打撃を打ち込んでも効いている様子はない。

 逆手でナイフを抜き放ち、ヴィサスの首目掛けて一閃する。ヴィサスの首を正確に捉えたナイフの刃は表面を撫でるだけ。


「頑丈な刃物だな」

「頑丈な首だな」


 ヴィサスと輝夜の声が重なる。


「ナディ!」

 

 輝夜の攻撃に合わせて、風の刃がヴィサスを襲うも、頬に浅い切り傷が付く程度で殆どダメージは与えられない。


『硬いわね。何で出来てんのよ』

「ナディの魔法であの程度か」


 輝夜は一度、後方に大きく飛び退いて距離をとる。


「まさか、傷をつけられるとは……外の世界の戦士は強いな」


 ヴィサスは傷口の端から流れる青みがかった血を親指の腹で拭い、愉しそうに歪んだ笑みを浮かべる。


「ナディ以上の火力となると、もうこいつしかないんだよな……」


 輝夜はホルスターにしまった銃をそっと撫でる。


「隙、作るか」


 素早く走り出した輝夜は、ヴィサスの脇をすり抜けて背後を取る。

 ヴィサスが振り返る前に彼の顔に蹴りを入れる。大岩や鉄塊を蹴ったかのような重たい感触が伝わり、ヴィサスの体が僅かに浮き上がる。

 この好機を逃すまいと、銃口をヴィサスの顔に向け、身体強化に使っていたブーストの効果を銃の強化に移し変えてから引き金を三度引く。


「マジか」


 輝夜から驚きの声が漏れる。

 至近距離で放たれた弾丸をヴィサスが躱した為である。ブーストを銃の強化に回していた事で、ヴィサスの動きに反応することが出来ず、輝夜はなす術もなく腹部を強打された。

 輝夜の体が宙を舞う。

 地面に強く叩きつけられてから、その反動で跳ね返り壁に激突する。


「かはっ」


 背中を強く打ち付け、肺の中の空気が血と共に強制的に押し出される。


『輝夜っ!』

 

 焦った表情のナディが輝夜に近づき、回復魔法をかける。

 内臓が損傷しているのか、尋常ではない痛みが輝夜を襲う。歯を食い縛って耐えなければそのまま気を失ってしまいそうであった。


「痛ぇな……あの野郎……」

『治すから喋らないで』


 ナディの治療を受けながら、視線を前に向ける。

 ぼやける視線の先には、ゆっくりと近づいて来るヴィサスの姿が見える。


「なるほど。武器や身体機能を強化するスキルか」


 輝夜に蹴られた頬をさすりながらそう言うヴィサス。


「だが、武器か肉体か強化出来るのは一つだけと言ったところか」

「概ね正解」


 ナディの回復魔法によって全快した輝夜はゆっくりと立ち上がる。

 フィジカルはほぼ互角、むしろ身のこなしは輝夜の方が上である。しかし、輝夜の攻撃が通用しない防御力。

 魔法や搦め手を使おうとする素振りは見せないものの、これだけの魔力で魔法が使えない筈はない。

 ただでさえ手詰まりなのに、魔法まで使われたらいよいよヤバイ……と、輝夜の表情に焦燥の色が見え始める。


「底が見えてないのに使うのは、気が進まないんだけど……ナディ、アレやるよ」

『オーケー、頑張りなさい』


 ナディの無限に等しい魔力を手にした輝夜から魔力が迸る。


「凄いな。魔力で気圧されたのは始めてだ」

「ブーストクインタプル」


 光を屈折させて可視化できるほどに濃密な魔力が全身から立ち上り、空気がビリビリと震える。


「ブーストエクステンド」


 さらに銃をブーストで強化する。

 地面が砕ける程の踏み込みをする。

 雷が落ちたかと思うほどの轟音。

 その音を置き去りにして輝夜の姿が消え、周囲に突風が吹き荒れる。

 次の瞬間、輝夜の拳がヴィサスの顎に突き刺さる。


「がっ……」


 ヴィサスの背が伸びきり、がら空きになった横腹に膝が突き刺さる。体を覆っている鱗が割れ、その奥の骨が折れる鈍い音が響く。

 ヴィサスの体が宙を舞う。

 すかさず輝夜は銃口を向けて引き金を二度引く。

 銃口から放たれた弾丸がヴィサスの腹部を貫く。


「ぐっ……」


 ヴィサスの顔が苦痛に歪む。しかし、それはすぐに笑みへと変わる。


「単純なスキルだからこそ、魔力でのごり押しがここまで強力とは……」


 思わぬ反撃により深手を負わされた事で、ヴィサスは久しぶりに本気を出せると思った。

 本気を出しても良いと思える相手に出会えた事に喜びを感じていた。


「やはり、そうこなくてはなァ! 朱月輝夜ァ!」


 ヴィサスの体から輝夜にも匹敵する高密度の魔力が溢れる。瞬きすらも許さない一瞬で空中に無数の魔方陣が展開され、そこから無数に放たれる灼熱の光線。

 当たれば骨すら残らぬ熱線の雨の中、輝夜は顔色一つ変えることなくその合間を縫うようにしてヴィサスに肉薄して殴りかかる。

 ヴィサスは反射的に距離を取る為に地面を強く蹴って後ろに飛び退く。

 だが、ヴィサスはそれが悪手であるとすぐに気が付いた。


「逃げたな?」


 輝夜は銃口をヴィサスに向けて引き金を引く。

 ヴィサスは急所に当たるのを避けるため、空中で無理やり身をよじる。

 反動で大きく跳ね上がる銃口から放たれた弾丸がヴィサスの右肩を撃ち抜く。周囲の肉や骨を巻き込み、肩から先を弾き飛ばす。

 今の一発を撃ったことで銃は弾切れ。リロードをする時間が惜しいと思った輝夜は銃を手放し、ナイフを抜いて一気に距離を詰める。

 起き上がろうとするヴィサスの首にナイフを突き立てる。

 ナイフが触れる寸前で、ヴィサスは輝夜の手を掴んでナイフの軌道を反らし、無防備となった輝夜の額に頭突きを入れる。


「……っ!」


 額が割れて派手に血が流れる。

 ヴィサスは怯んで一歩下がる輝夜の腕を引いて輝夜の体勢を崩し、腹に膝を入れる。


「うぐっ……てめぇ、この野郎!」


 輝夜は奥歯を噛んで吐き気と痛みを堪え、怒りに任せてヴィサスの横っ面を殴る。

 掴まれた腕を力任せに振りほどき、両手でヴィサスの頭を掴んで顎に膝蹴りを喰らわせる。


「調子乗ってんじゃねぇよ!」


 体を半回転させ、遠心力をのせた回し蹴りをヴィサスの腹に叩き込む。

 ヴィサスは蹴られた勢いそのままに岩壁にまで飛んでいき、全身を強く打ち付ける。壁が崩れて土煙が巻き上がる。


「ふふっ……ハハハ……アハハハハハ!」

 

 輝夜は心底楽しそうに笑い声を上げながら、ゆっくりとヴィサスの元へと歩いていく。


『タガが外れたわね。ちょっとまずいかも』

「楽しいなァ! いつぶりだろうなァ! 本気で殴り合えるのは! お前もそう思うよなァ!」


 輝夜はよろよろと立ち上がるヴィサスに殴りかかる。


「ああ、最高の気分だ」


 ヴィサスも口元に笑みを浮かべて輝夜に殴りかかる。

 激しい殴り合い。両者とも互いの攻撃を避ける事なく、本能のまま力任せに殴る。

 そんな原始的な戦いが数秒続き、先にヴィサスが膝をつく。

 しかし、トドメを刺す前に、輝夜にも限界が訪れる。


「はぁ……はぁ……」


 輝夜の視界が大きく歪み、ブーストが解除される。

 身の丈を越えた魔力を限界を超えて行使したことで身体が悲鳴をあげているのだ。


「ちっ……オーバーしたか……」


 輝夜はその場に腰を下ろして息を整える。体の関節が軋み、割れた額がズキズキと痛む。


『その程度で済んで良かったわね。下手したら全身弾け飛んでたわよ』


 ナディはそう言って輝夜に回復魔法をかける。傷の痛みはすぐに治癒しても、時間オーバーによる反動の方はナディの魔法でも時間がかかる。


「……片腕ではこんなものか」


 ヴィサスはよろよろと立ち上がると、地面に転がる右腕を一瞥して、一言そう呟く。

 右腕を失い、傷口からおびただしい量の血を長しながらも倒しきるには至っていない。


「まだ動けるの? もうタフ過ぎて怖いくらいだよ」


 輝夜は視線だけをヴィサスに向けてそう言う。

 奥の手を使っても仕留めきることが出来ず、許容される時間を越えた反動で暫くは動く事ができない。


「見ての通り重傷だがな」


 だが、ヴィサスの方もかなりの深手を負っている。


「……ここまで追い込まれたのは始めてかもしれん」


 ヴィサスは壁にもたれ掛かるようにしてそう言う。


「なら、ここら辺でやめにしない? 続きはまた今度ってことで」

「それは出来ない相談だな」


 ヴィサスはそういうと、空中に無数の魔方陣を展開する。


「……そっか、じゃあ連戦で大変だと思うけど頑張って」

 

 輝夜がそう言った瞬間、ヴィサスの真横から血の槍が飛んでくる。


「貴様、私の契約者を随分と可愛がってくれたようだが、あまり調子に乗るなよ」


 飛んできた方向に目を向けると、眉間に皺を寄せて怒りを顕にしたアリアが立っていた。


「さっきの吸血鬼か」

「蜥蜴風情が! 生きて帰れると思うな!」


 ヴィサスは壁にもたれ掛かったまま動こうとはせずに、代わりに展開した魔方陣をアリアに向けて熱線を放つ。アリアも負けじと血の槍を放ち、血の槍と熱線の応酬が繰り広げられる。

 アリアの側を抜けて夕香が輝夜の元に駆け寄ってくる。


「輝夜さん、ご無事ですか?」


 夕香は輝夜の体を抱きかかえる。


「ヘーキヘーキ。少し休めばすぐに動けるよ」


 輝夜はそう言うと、四肢を投げ出して大の字になって寝そべる。


「無茶しすぎです。配信を観てどれだけ焦ったかわかりますか!? 私だけではありません。皆心配したんですから!」


 夕香にそう言われ、輝夜はナディに目配せをしてドローンを持ってこさせると、コメント欄を遡って確認しつつ、ヴィサスとの戦闘を観返す。


《俺たちの輝夜ちゃんが!》

《嘘だろ……輝夜ちゃんとまともにやり合うって、どんな化物だよ……》

《というか、普通にまずいんじゃないか?》

《誰か助けに行った方がいいだろ》

《助けるって、どうやってだよ》


 コメント欄は阿鼻叫喚に包まれており、多くの視聴者が輝夜を心配している様子であった。


「……大袈裟だよ。ハンターなんだから、これくらいのピンチなんてよくあるでしょ」


 配信を観返した輝夜はそう言って立ち上がると、ポーチからマナポーションを取り出して一気に飲み干す。

 

「これがラス一か。ナディ、今の僕の状態でアレやるとしたら、何秒行ける?」

『一秒』

「オッケー」


 輝夜はそう言うと、拳銃から空薬莢を排出し、アイテムボックスから取り出した弾丸を装填する。


「輝夜さん、ここは一度引いて対策を立てるべきです」


 夕香はまだ戦おうとする輝夜を止めようと、彼女の前に立つ。


「ここで引いたって、多分あいつ追いかけて来るよ。それにあいつの底は見えたから」


 輝夜は夕香の肩に手を置いて、その横を通り抜ける。


「アリア、交代。そいつは僕の獲物だ」


 交戦中のアリアに声をかけ、下がらせる。


「気を付けろ。契約者に死なれると私は寂しい」

 

 寂しいと素直に伝えるアリアに内心驚く輝夜だったが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべてアリアの肩を軽く叩く。


「休憩はもういいのか?」


 ヴィサスは再び向かってくる輝夜に目を向けると、ニヤリと笑みを浮かべてそう聞く。

  

「なんならそっちも休憩してもいいよ」

「不要な気遣いだ」

「そう、じゃあ終わらせようか」

「こっちはお前を倒しても、まだ後がありそうだがな」

「心配しないでいいよ。どうせ僕が勝つから」

「どうやら吠えれる程度には回復したらしい」


 ヴィサスは無数の魔方陣を空中に展開し、輝夜に向けて熱線を放つ。


「ナディ!」


 熱線が当たる直前、輝夜が叫ぶ。瞬間、彼女の全身から魔力が迸る。

 瞬きすらも許さない僅かな一瞬でヴィサスの前から姿を消す。


「何っ!?」


 ヴィサスは輝夜が突然消えた事に驚く。

 身体強化による移動ではない。それならば目で追える。


「ブーストクインタプル」


 輝夜はヴィサスの背中に銃口を押し当てて、引き金を六回引く。

 六発の弾丸はヴィサス背中を突き破り、体内で変形して内臓に大きな損傷を与える。弾は貫通することなく体内に留まり、おびただしい量の血を口から吐き出す。


「なん……だっ……これ……は……」

「エクスパンディング弾って言って、普通の弾を加工したもの。今撃ち込んだのは弾頭に切れ目を入れて変形しやすくしたホローポイント弾。ダムダム弾とも言うね」


 輝夜はそう言いながら拳銃をリロードすると、ヴィサスの額に銃口を向ける。


「……そっちじゃない……どうやって……背後に……」

 

 腹に手を当てたヴィサスは諦めたようにフッと笑う。


「ああ、そっちね……君の魔法、ランダムに撃ってるように見えて、必ず正面から斜めに撃ち下ろす軌道が混ざってから、一度後ろに下がって魔法で姿が遮られた隙に上に跳んで後ろに回った」

「軌道がわかっていたとしても……そう簡単に……出来る芸当では……ないだろうに……」


 ヴィサスはそう言うとゆっくりと地面に崩れ落ちる。


「叶うなら……外の世界を……見てみたかった……」


 ヴィサスはそう言い残すと、ゆっくりと目を閉じる。まだ微かに息はあるようだったが、それも時間の問題だろう。


「運良く生き伸びれたら、見られると思うよ。多分。知らんけど」


 輝夜はトドメを差す事はせずに、銃をおろしてその場に仰向けで倒れる。


「もーダメ。本当に動けない」

『魔力切れね』


 一秒ではヴィサスに弾丸を撃ち込むのにコンマ数秒足りず、輝夜は自分の魔力でブーストクインタプルの維持を行った。その結果、輝夜の魔力は底を尽き、それにより莫大な疲労感が輝夜を襲う。


『マナポーションは?』

「さっきのが最後、予備はアイテムボックスの中」

『ならどうしようもないわね』


 アイテムボックスを開くにしても、ナディの回復魔法使うにも魔力が必要であるため、大人しく横になって休んでいる事しか出来ない。


「無茶し過ぎです。もう少しご自分の立場を考えて行動してください。暫くは安静にしていてもらいます」


 夕香は倒れたまま動けない輝夜の側まで来ると、ゆっくりと横向きに抱きかかえる。


「大袈裟だよ。というか、お姫様だっこはやめてよ」 

「嫌なら抵抗してみてはいかがでしょう?」


 夕香は輝夜が動けないのをわかった上で、挑発するようにそう言う。

 普段であれば言わないような意地悪な夕香の態度に、何も言い返すことが出来なくなり、されるがままになる。


「ごめんって」


 輝夜は恥ずかしさから顔を伏せると、小さな声で謝るとゆっくりと意識を手放した。



 

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