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新カリキュラム導入(3)

「これがダンジョンかぁ!」

「お宝見つかんねぇかな」

「そんなのあるわけないっしょ。何人ものハンターが来てるんだから」

「夢くらいは見ていいだろ」


 初めてのダンジョンで興奮が抑えきれず、周囲をキョロキョロと見たり、意味もなく洞窟の岩盤に手を当てたりとはしゃぐ様子を見せる学生達。


「どうしよう、緊張してきた……」


 夏美も緊張した面持ちで、腰に帯刀した剣の柄を握りしめる。

 初めてのダンジョンで浮かれて、はしゃぐ学生らを取りまとめて、周囲を警戒しながら進まねばならないが、その役を担う筈の夏美は緊張で肩に力が入りそれどころではなさそうである。

 今居る場所はダンジョン。いつモンスターに襲われるかわからず、常に命が懸かった状態であるのだが、片や浮かれて遠足気分で片や緊張でガチガチに固まってしまっている。


「目的地は中層ですし、体力がある内に行きましょう芦屋先輩」


 輝夜は初めてダンジョンに来れば無理もないかと思いつつ、夏美の緊張をほぐすために声をかける。


「はひっ!? なんだ、赤羽さんか、おどかさないでよ」


 夏美はいきなり話しかけられて驚いたのか、素っ頓狂な声をあげて目をぱちくりさせながら、輝夜を見てほっと胸をなでおろす。


「ほら皆陣形を組んで先に進みましょう! 赤羽さんは一番安全な中央に居てね」


 少しは緊張がとれたのか、夏美が全員に指示を出す。

 先頭に剣を持った二人が立ち、その後ろに輝夜、その後ろに魔法使いの二人、そして一番後ろに槍を持った学生の順で並び、ゆっくりと先に進んでいく。

 

「なんか、迷路みたいだな」


 モンスターに出会う事もなく順調に進んでいたが、次第に道が複雑になっていき、それに合わせて進行ペースも落ちていく。


「地図上では、ほとんど一本道みたいなもんなんだけど」


 輝夜の後ろで地図を開き、下の階層に降りるまでの道のりを指でなぞりながらそう言う霧島和成(きりしまかずなり)


「一本道って、めちゃくちゃ分かれ道多いぞ」


 地図上では途中で分かれ道はあるものの、迷うほど複雑な構造ではない筈だが、ここの洞窟は複雑に入り組んでおり、地形が地図と一致しない。

 輝夜はダンジョン内にあらかじめカメラを設置してモニタリングをすると聞いていたが、周囲にくまなく目を向けてもそれらしい物は見つからない。

 流石におかしいと思った輝夜は、こっそりとスマホで夕香に連絡を取る。


《今ダンジョンに入ったんですけど、モニタリングできてますか?》


 夕香のスマホにメッセージを送った直後に既読が付き、ほどなくして返事が送られてくる。


《いえ、こちらではまだ確認出来ていませんが》

《そういえば、ゲートの周りの柵って撤去しましたか?》

《今の質問でそちらの状況は把握しました。こちらも急いで対応します》


 夕香の文面から伝わる焦りの感情。


《原宿に新しいゲートが出現しています。おそらく間違えてそっちに行ってしまったのだと思います。まだどんなモンスターが居るかもわからないので、それとなくダンジョンの外に出るように誘導してください》


 新しいダンジョンとなれば、遺物やスキルシードが眠っている可能性も高い。有用なスキルシードや遺物、男に戻る手掛かりが得られるかもしれないと、夕香からのメッセージを見た輝夜は思った。

 

「原宿に二つ目のゲートが出現しているみたいです。おそらく間違えて入ってしまったと思われますから、一度外に出ましょう」


 学生達が出た後にゆっくりと探索しよう。そう思った輝夜は先頭を歩く二人にそう言って引き返すように言う。


「確かに地形は地図と一致しないし、本当に間違えて入った可能性はあるわ」


 夏美は地図とダンジョンの地形を照らし合わせ、輝夜の意見に同意する。


「ちょっと待てよ。今朝出現したばかりっていうなら、まだ他のハンターも来てない手付かずってことだよな?」

「もしかしてスキルシードとか遺物があるかもしれないよな?」

「行ってみる価値はあるな」


 しかし、他の学生達は手付かずのダンジョンと聞き、上手く行けば莫大な利益を得られるかもしれないと思い引き返そうとはしない。


「なんの情報もありません。どんなモンスターが居るかもわからないダンジョンに挑むのは無謀だと思います」

「それ、あーしらの実力を見くびってるって事?」

「そうではなく、シンプルに危険だという意味です」


 眉間に皺を寄せて不機嫌そうにそう詰め寄る明日香を手で抑えながらそう答える。


「任せといてよ赤羽さん。俺らその辺のハンターよりも強いからさ」

「そうそう、それに上手く行けば大金持ち、一生働かなくて良いかもしれないんだぜ?」

「戻りたいなら戻ってもいいよ」


 完全に目先の欲にとらわれた学生達は、夏美と輝夜を置いて先に進もうとする。


「まるで話を聞いてくれない……まぁ僕も高校生のときは教師の言うことなんて聞かなかったけどさ」


 今なら教師の気持ちがよくわかると、溜め息混じりに呟く。

 いっそのこと腕ずくで連れ帰そうかとも思う輝夜だったが、ダンジョン内で仲間割れを起こすのは自殺行為。アリアが周囲を監視しているとはいえ、下手に騒げばモンスターが寄ってくるかもしれない。


「行きましょう夏美先輩。ここで別れるよりは一緒に行動した方が安全です」

「そうね。はぐれないようにしてね赤羽さん」


《ごめん夕香さん。忠告はしたけどこのまま進むって言って聞かないや》

《そうですか……まぁ、そうですよね。わかりました。すぐに応援に向かいますから、学生の安全を最優先に動いてください》


 輝夜は夕香にメッセージを送ると、念のためにアイテムボックスから拳銃のホルスターを取り出して腰に巻き付け、見えないように上着を羽織って先に進んだ学生達の後を追いかける。


「ナディ、実際のところこのダンジョンってどれくらい危険?」

『かなり』

「……あの子らがやばそうだと思ったら遠慮なく魔法使ってよ」


 初心者には些か厳しいダンジョンかもしれないと思った輝夜は、いざという時は学生達を守るように伝える。


「皆止まってくれ」


 先頭に居た宮田啓一が左手の拳を上げて、その場に立ち止まってしゃがむ。

 先頭を歩く宮田が立ち止まった事で、自然と後ろを歩いている後続の足も止まる。

 少し先の方からカラカラとやがて軽い音が聞こえてくる。


「この音……スケルトンか。よし、戦闘体勢だ。いつも通り俺と芦屋で前衛、ただし帯島の槍はここじゃ使えないから後衛を守りつつ中間からサポートをしてくれ、林と霧島は魔法で援護」


 宮田が小声で全員に指示を出す。


「……僕は何をすれば?」

「赤羽さんは背後の警戒を。後ろから敵が来たら林か帯島に知らせて欲しい」


 分かれ道があったものの、ほとんど一本道の洞窟で道中モンスターが潜んで居ないのは確認している。そんな状況で後ろから襲われる事はまずあり得ない。


『お手並み拝見といったところかしら』

「そうだね」


 特にやることがない輝夜は学生達の後ろに下がり、岸壁にもたれ掛かって彼らの戦い振りに目を向ける。


「よし、行くぞ!」


 宮田と夏美が武器を持ってスケルトンの群れに斬り込んでいく。向かってくる二人に気付いたスケルトンは、両手を彼らの方へと伸ばしてワラワラと群がっていく。


「オラァ!」


 宮田が剣を鈍器のように振り回してスケルトンの頭蓋を砕き、夏美は柄が黒く刀身の赤い剣を巧みに扱い、スケルトンの骨を容易く切断して一体づつ仕留めていく。


「あの剣どこかで見たような……いや、似たような武器なんて沢山あるか」


 夏美の持つ剣に見覚えがある気がする輝夜だったが、すぐに気のせいだと結論付ける。


 スケルトンの群の中央で暴れる二人に、林と霧島が魔法による援護射撃を行う。

 帯島は前線を突破してきたスケルトンを槍で突き、肋骨の隙間に槍を通して壁に叩きつけて倒す。 

 そうして各々が自分の役割をしっかりと果たし、危なげもなくスケルトンを全て討伐する。


「その辺のハンターよりは強いって言うだけはあるね」


 怪我一つ負う事なくスケルトンを倒した学生達を見て、このままこのダンジョンで予定どおり続行しても問題ないのではないかとさえ思う輝夜。


『たかがスケルトンじゃない。さっきも言ったけど何が出てくるかわからないんだから、油断は禁物よ』


 ナディはそんな輝夜の楽観的な考えを窘めるようにそう言う。


「懐中電灯で地面を照らしてくれない?」

「ん? ああ、わかった」


 夏美の指示で宮田が懐中電灯で地面を照らす。地面に赤黒い液体がベットリと付着していた。

 

「血……か……?」


 鼻の奥に突き刺さるような鉄に似た匂い。


「かなり最近にここで戦闘があったみたい」

 

 指先でそっと血に触れ、まだ乾いていない事を確認した夏美がそう言う。

 

「かなりの量だが、何の血だ?」


 しばらく進むと、再び地面に残された血痕を見つける。今度の血痕は地面一帯に広がっている。


「わからないけど、少なくとも人じゃないと思う。死体がないから」


 血痕は地面に広範囲に及んでいる。

 それだけの広さを作るほどの出血。人であれば間違いなく死んでいる。

 しかし、その場に死体が残って居ない事から、血の主はモンスターだろうと夏美は予想する。

 懐中電灯で先を照らすと、その先には通路が続いていた。血痕もまるで線を引くようにその通路の奥に続いている。


「……確かに何かあれば知らせろとは言ったけど、他にも連絡方法あるでしょ」


 それを見た輝夜は、血痕はこの先にモンスターが居る事を知らせるためにアリアが残したものだと思い、ナディに目を向ける。

 ナディは輝夜の考えている通りだと言わんばかりに、ウィンクして答える。


「けど、ここに居たのはスケルトンだろ? スケルトンより弱いモンスターなんてそんなに多くはないぞ?」

「なにかの罠じゃないのか?」

「罠だとしたら、こんな目立たせるかよ」


 警戒する必要のない単なるメッセージなのだが、血痕について真剣に議論する学生らを見て少し申し訳ないという気持ちになる輝夜。

 暫くの間、話し合っていたものの結局は血痕だけでは何もわからないという結論に至り、罠に気を付けながら先に進む事になる。

 警戒しながら先に進むと、また開けた空間に出る。そこで待ち構えていたのは、巨大な斧を持った三メートルを越える巨体をもつ牛頭人身のモンスター。ミノタウロスであった。


「ミ……ミノタウロス……」

「嘘だろ。下層で出てくるモンスターじゃん。ここはまだ上層だぞ」

「勝てる相手じゃないわ! 全員すぐに引き返っ」


 夏美が言いかけた時、風を引き裂くかのような音と共に飛来してきた斧が洞窟の天井を粉砕し、崩れ落ちてきた瓦礫により退路が塞がれてしまう。

 戦うしかない状況に追い込まれ、勝てる筈がないと顔が曇る。


「わぁお」


 絶望する学生達とは対極的に、輝夜は両手で頬を抑えて目を輝かせる。

 ミノタウロスの肉は美味い。以前氷室と共に倒したミノタウロスを輝夜は味わうことが出来なかった分、再び訪れたチャンスに思わず頬が緩む。


「この状況で何で笑ってるの赤羽さん」

「おっと、いけない」


 夏美に言われ、弛む頬を抑える輝夜。

 状況としては最悪の一歩手前。パニックを起こしてさらに状況が悪化しようものなら流石に守りきれないと思った輝夜は、学生が安心できるように希望を持たせようと右手をミノタウロスに向ける。


「ナディ、軽めの威力で頼むよ」


 輝夜は小声で呟く。


『エアカッター』

「エアカッター」


 自分が魔法を使ったかのように見せかけるために、ナディの後に続いて魔法の名前を口に出す。

 ナディの放った風の刃がミノタウロスの胸を切り裂く。ミノタウロスは傷口から血を吹き出して数歩よろめく。

 一撃を与えた事で周囲からおぉと感嘆の声が漏れる。


「相手は武器を手放しています。距離さえ詰めさせなければ倒せる」


 倒せるかもしれないという希望が見えた事で、学生達の士気が上がる。


「近接三人で掻き乱してヘイトを集めましょう。遠距離はとにかく魔法を撃ち込んで」


 夏美の言葉に宮田と帯島が背負っていた荷物を捨てて武器を持って駆け出す。

 夏美も荷物を地面に落として剣を抜くと、ミノタウロスに向かって行く。


「フレアロード」


 林明日香の放った火炎放射のようにミノタウロスまで一直線に伸びる炎は、ミノタウロスの皮膚を焦がし、怯ませる。


「帯島、宮田は左右に回り込んで!」


 夏美がミノタウロスの正面に陣取り、二人に指示を出して三方向から取り囲む。夏美が注意を引き付けた隙に、両脇から宮田と帯島の二人が攻撃を仕掛ける。数瞬遅れて夏美が斬りかかる。

 宮田と帯島の刃は岩でも叩いたかのようにあっさりと弾かれる。夏美の攻撃も表面を斬っただけで大したダメージは入っていない。


『武器が悪いわね』


 輝夜の耳元でナディがそう呟く。

 学生の実力はハンターで食べていくには十分なものである。しかし、彼らの所持している武器は二、三万円で買える安物の量産品。それではミノタウロスに傷を付けることはできない。


「エッジアップ」


 宮田は自身の剣に魔法をかけて、再びミノタウロスに斬りかかる。先程は弾かれた刃だったが、今度はミノタウロスの横腹を浅く斬り裂く。

 

「よし、行ける! 霧島、二人の武器に強化魔法だ!」


 霧島は夏美と帯島の持つ武器に宮田が使用した魔法と同じものを使い、武器の切れ味を強化させる。


「ありがとう!」


 夏美はそう言うと、剣を構えて正面に立つミノタウロスを見据える。

 彼女の持っている剣はダンジョンで得られた鉱石を鍛錬したオーダーメイドの逸品。そこに魔法でさらに切れ味が増した。


「やあぁぁっ!」


 その剣でミノタウロスに斬りかかる。

 ミノタウロスは上に跳んで回避し、落下の勢いを乗せて夏美を踏み潰しにかかる。

 夏美は体勢が乱れながらも横に跳んで回避する。避けてから武器を構えるまでに生じる僅かな時間。一秒にも満たないその隙をついて、ミノタウロスは大木のような腕を振り上げて夏美に襲いかかる。


「ナディ、あいつの注意をこっちに向けさせて」

『はいはい』


 ナディはそう返事をすると、小さな空気の塊を飛ばす。それはミノタウロスのこめかみに当たり、風船が破裂するような音を立ててはじける。

 ミノタウロスの動きが止まり、ゆっくりと輝夜に視線を向ける。そのタイミングでナディはミノタウロスの顔に向けて立て続けに空気の塊を撃ち込む。

 ダメージではなく不快感を与えるだけの嫌がらせのような攻撃。それに怒ったミノタウロスは、夏美を無視して雄叫びを上げて真っ直ぐに輝夜の方へと向かっていく。


「足を削る」

『了解』


 輝夜もミノタウロスに向かって行きながら、ナディにそう言う。

 ミノタウロスの拳を掻い潜り、懐まで潜り込んだ輝夜は自分で魔法を放つ振りをしてナディに魔法を撃たせる。

 放たれた風の刃はミノタウロスの左足を容易く切断する。


「てぇやああああぁぁっ!」


 片足を失い体勢を崩したところに夏美が背後から飛びかかり、ミノタウロスの首に剣を突き立てる。喉を貫かれ、苦しみのあまり悶えるミノタウロス。


「俺らを無視してるんじゃねぇ!」


 宮田と帯島がミノタウロスの横腹に刃を突き刺す。


「ナディ……トドメだ」


 三人が飛び退くと同時にナディの放った風の刃がミノタウロスの首を切断する。


 少しの静寂の後にミノタウロスの巨体が揺らぎ、力なく倒れる。

 

「やったのか……?」

「うちらミノタウロスを倒した?」


 横たわるミノタウロスを前に未だに実感が湧かない学生達だったが、完全に息絶えたミノタウロスを見て徐々に喜びの感情が湧き、やがて喚声をあげる。


「すごいよ。下層レベルのモンスターを倒したんだ!」

「ミノタウロスって一体いくらになるんだ?」

「男連中はコイツの解体だ!」


 嬉々としてミノタウロスの解体に取りかかる学生達。


「すごいね赤羽さん。魔法もだけど、それ以上に身のこなしと躊躇いなくミノタウロスに突っ込んでいく胆力」


 嬉々としてミノタウロスを解体する男連中を見ていた夏美が輝夜の方へと近寄った。


「それは夏美先輩も同じじゃないですか?」

「私は剣があるから、丸腰で同じことは出来ないよ」


 夏美はそう言って腰に納めた剣に目を向ける。


「……その剣、他とは少し違いますね」

「うん、もともとは兄が使ってたやつなんだ」


 夏美は少し悲しそうな瞳で剣の柄を撫でる。


「お兄さんが?」

「うん。ダンジョンで命を落として、その時にこの剣も無くなった筈なんだけど、ある人が回収してくれてね」

「……あっ」


 夏美の話を聞いた輝夜はようやく思い出した。彼女の持っている剣はデュラハンが持っていた剣と同じものである。

 芦屋という名字で気付くべきだったと思いつつ、回収した剣がちゃんと遺族に届いて良かったと安心する輝夜。

 しかしその時だった。

 ミノタウロスを解体していた学生の一人が手を振った。


「おい、これ見ろよ」


 その言葉に全員が集まった。


「この痣だ。剣や魔法で出来たものじゃない。それにこっち」

 

 夏美の眉間に皺がよる。


「抉れてるね……何かに食われたような……」


 ミノタウロスの体には無数の痣や噛みちぎられ、抉れた傷痕が残っていた。

 それを見た学生達の表情が固くなる。

 どおりで下層のモンスターであるミノタウロスを倒すことが出来たのか、なぜ上層にミノタウロスが居たのか理解できた。

 ミノタウロスを補食する程のモンスターがこの下に居り、こいつはそいつから逃げてきたのだ。


「俺らと戦う前から死にかけてたのか」

「けど、ミノタウロスを倒したって事に変わりはないだろ」

「引き返しましょう。今ならミノタウロスの素材だけでも利益自体は十分のはずよ」


 夏美はこれ以上先に進むのは危険だと判断し、引き返すように言う。


「ミノタウロスは下層のモンスターだ。ってことは下層から逃げてきたって事だろ? 俺らは中層までしか進まないから、コイツを食うような化物には会わない筈だ」

「確かに、それはそうだな」

「てか宮田はどう思うわけ?」


 林に聞かれた宮田は顎に手を当てて考える。

 ただでさえ予定とは別のダンジョンに入っている上に、ここで引き返せば中層で一週間過ごすという課題もクリアできず、評価を下げられてしまうかもしれない。

 ミノタウロスが逃げ出すほどの化物がダンジョンに居り、もしエンカウントすれば確実に命はないが、中層までであればその可能性は低い。


「よし! ミノタウロスを解体したら先に進もう!」


 宮田はここで引き返すという選択肢を押さえつけるかのように、わざと大きい声でそう言った。

 ミノタウロスを解体し、肉や素材を鞄に詰めた学生達はさらに奥を目指して進み始める。


「自分の実力を過信すれば死ぬ……皆それくらいわかってる筈なのに……」


 夏美は呟くと、彼らの後を追いかける。

 ダンジョンは奥まで続いており、一階層、二階層とモンスターに出会うことなく下の階層へと進んでいく。


「全然モンスター居ないな」

「ミノタウロスが全部倒したとか?」

「それならモンスターの死体が転がってないとおかしくなーい?」


 モンスターが全く出てこず、いつの間にか警戒心すら解いてしまった学生達の間で意見が飛び交う。

 狭く静かな洞窟に大きな声が響き渡る。

 その内静かになるだろうと思い、黙って聞いていた輝夜だったが、いつまでたってもそんな様子は一切なく、やがて話題もダンジョンとは全く関係のないものになる。


「金が入ったら何を買おうかな」

「俺はやっぱ武器を新調したいな、夏美みたいに良い武器があれば戦闘も楽になるからな」

「あーしは新作のバック欲しいかも」


 その様子を見た輝夜は、道理で新人の死亡率が高い筈だと思い、溜め息をつきたくなるのをぐっと堪える。


「ナディ、夕香さん達がどこに居るかわかる?」

『わりと近くまで来てるみたいね。十分もすれば追い付くんじゃない?』

「なら、僕の仕事もあと少しで……っ!」


 そう言いかけた時、凄まじい魔力が空間全体を包み込む。

投稿頻度が低い変わりに文字数は多めで頑張ろうと思います。

文字数分けて投稿頻度上げようかと思ったんですが、自分で納得できるものを投稿したかったので。

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