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スタンピード(4)

「来るぞ」


 洞窟の奥から七体のジャイアントオーガが姿を現す。


「下層クラスのモンスターです。一体ずつ処理して行きましょう」


 新見が放った魔法がジャイアントオーガの腹を貫く。怯んだ隙に、周防が力強い雄叫びを上げてジャイアントオーガに突っ込み、強く握りしめた拳でジャイアントオーガの横っ面を殴り付けて体勢を崩す。


「今だやれ!」


 周防が飛び退くと同時にジャイアントオーガに雷が浴びせられる。

 ジャイアントオーガの全身が黒く焼け焦げ、煙を上げて崩れ落ちる。


「よし、次――」

「あ、終わった?」


 三人が他のジャイアントオーガを相手にしようとするも、すでに生きているジャイアントオーガは居らず、代わりに四体分のジャイアントオーガの死体を積み上がっており、その側で輝夜がショットガンに弾を込めていた。


「それじゃあ進むか」


 そう言う芹矢の足元には真っ二つに両断されたジャイアントオーガの死体が二体分転がっている。

 三人で一体倒す間に輝夜は四体、芹矢も二体のジャイアントオーガを倒していた。

 呆然とする三人を余所に、二人はさっさと洞窟の奥に進んでいく。

 それを慌てて追いかける夕香達。


「~♪」

「……ユーロミッション?」

「お、正解。じゃあこれは? ~~♪」

「トーキョードリフト」

「正ッ解ッ」


 先頭を歩きながら、ショットガンを片手で器用に回しながら、鼻歌さえ口ずさむ余裕のある輝夜と、その鼻歌でイントロクイズをする芹矢。


「あの二人は一体何なんですか?」

「銀の弾丸はともかく。わからんのは男の方だろ。あのレベルのハンターが、いままで埋もれていたなんておかしいぞ」


 そんな二人の様子を見ながら、新見と周防は小声で夕香に尋ねる。


「芹矢さんはあまりダンジョンに潜らないのと、輝夜さんは素材を売らずに溜め込んでいるので、二人ともハンターポイントが少ないんです」


 夕香の言葉を聞いた二人はハンターポイント制度のせいで、強いのに埋もれてしまっているハンターが他にも多く居るかもしれないと思った。


「ハンターポイント制度が悪いとは言いませんが、他にも何か制度があった方が良いのではないでしょうか」

「確かに、そうだな……ところで、これ俺達が付いて来た意味あるか? 香川で防衛戦に参加してた方が良くないか?」

「それについては同じ意見ですが、政府は彼女を(いた)く大事にしてるようですからね」


 輝夜の国内での人気は支持率に影響を及ぼす程に高く、またナディの存在は国内だけでなく海外からの注目度も非常に高い。輝夜が居るというだけで、政府へもたらす恩恵は大きい。そのため、かなりの好待遇での契約をしていた。


「しかしハンターである以上、危険な仕事をやらねばならん時もあるだろ。現に氷室も彼女も単独でダンジョンに潜ってるじゃないか」


 彼女の実力であれば単独で戸塚エミの救出もオリヴィエーロの確保も可能だろうと周防は言う。


「あなたも配信を観たんでしょう。ギガワームに飲み込まれた一件で上層部は神経質になってるんですよ」


 新見は人的資源の無駄使いだと言わんばかりに肩を竦めてそう言う。


「頭の固い連中だな」


 周防はそう言うと嘲るように鼻を鳴らす。

 夕香にとっては自分への悪口にもなる発言だが、新見や周防の言う事もよくわかると内心で同意して苦笑を浮かべる。

 それから暫く進むと、分かれ道に行き当たる。


「オッケーナディ、エミさんを探して」

『わかりました。戸塚エミを探します……って、アレクサじゃないわよ』


 ナディは洞窟内の風の流れから、全体の構造を把握する。


『こっちね、奥に人が三人が居るわ。左はゲートがあるわね』


 ナディは右の通路を指差してそう言う。


「クソガキッズとエミさんと、あと一人は誰?」

『知らないわよ。百足旅団の仲間じゃないの?』

「まぁいいや、道中までの敵の数は?」

『いないわ』


 あからさますぎて罠としか思えないものの、他に手段もないので洞窟の奥へと足を進める。

 ナディの言った通り、途中オーガに襲われる事もなく無事に最奥へとたどり着く。


「おっ、ようやく来たぜ」

「男も三人いるじゃん」

「女以外はさっさと殺そうぜ」


 洞窟の奥には戸塚エミもオリヴィエーロの姿もなく、三人組の男達が待ち構えていた。


「手配書で見た覚えがあります」


 頭頂部まで染まりきっておらず、プリンのような色合いになっている金髪の男、上賀布顚(かみがふてん)。強盗、強姦、殺人で全国指名手配をされている男である。

 鍛えた肉体を自慢するかのようにタンクトップを着込み、短い金髪を逆立てた白人の男。鋼鉄の異名で知られたフョードル・ドストエフスキー。モスクワでの大量虐殺により国際指名手配をされているロシアの元プロハンターである。

 そして最後に目元を隠すようなマッシュルームヘアに黒色のマスクで顔の大半を覆い隠した男、茸上不織(たけがみふしょく)。各国で魔法による殺人と強盗を繰り返し、国際指名手配をされている。

 全員が元ハンターの犯罪者だと夕香は話す。


「一人、雑魚が混ざっとるやん」


 夕香の話を聞いた輝夜はショットガンを地面に落とすと、ゆっくりと三人組の方へと近付いていく。


「ねぇ君達、エミさん知らない?」

「ンなの聞いたって無駄だろ!」


 三人組の内の一人、上賀(かみが)がポケットからナイフを取り出して襲いかかって来る。

 輝夜は一番弱い奴が真っ先に突っ込んで来るのかと思いながら銃を抜く。

 上賀が三歩ほど距離を詰めた所で、輝夜の放った弾丸に足を撃ち抜かれる。彼は撃たれた所を抑えて悶絶する。


「エミさんはどこに居る?」


 額に銃口を押し付けてもう一度聞く。


「はっ……知るかよ……」


 上賀(かみが)は地面に蹲り額に脂汗を浮かべながらも、輝夜を挑発するように舌を出してそう答える。


「足を撃ったくらいじゃ、口を割るには足りなかったか」

「フレイムミーティア」


 輝夜は死なない程度に痛め付けようと拳を振り上げた時、天井を埋め尽くす程の炎弾が現れ、輝夜達目掛けて一斉に放たれる。

 芹矢は右手を振るい、空間をねじ曲げて炎弾をかき消し、ナディも両手を前にかざして炎弾を構成している魔力を分解し、炎弾を消していく。

 新見と夕香は周防の側で魔法で障壁を張り、炎弾を防ぐ。

 その間にフョードルが足を撃たれた上賀(かみが)を担いで後ろに飛び退く。


「ヒール」


 茸上は上賀の被弾した足に回復魔法をかけて治癒する。


「バカなッ! 回復魔法だと!?」

 

 それを見た新見が驚きの声を上げる。新見だけではなく、その場に居た誰もが驚いていた。

 回復魔法を使えるというだけで、人生は安泰といっても良い。

 

「鑑定」


 芹矢はスキルを使い、三人組の男達について詳しく調べる。

 年齢、性別、名前、服を含む装備品といった基本的な情報の他に所持しているスキルや遺物が記載されたウィンドウが現れる。

 そのなかでも芹矢の目を引くのは茸上の持っている遺物。左手に握られているアカシックレコードという名称の黒一色のルービックキューブ。


「良い遺物持ってんな」


 その詳細を見た芹矢は思わずそう呟く。


「どんな遺物?」

「魔法をラーニングして自由に使うことができる遺物だとよ」


 輝夜の質問に芹矢が答える。

 魔法を使うには膨大な知識と地道な努力が必要である。その過程を肩代わりしてくれる遺物など、国宝級の代物である。


「……ランニング?」

「ラーニングだよバカ。学習するって意味だ」

「それって、つまり、誰でも魔法が使えるって事?」


 パッと目を輝かせてそう聞く輝夜。


「そゆこと。つっても、消費する魔力までは肩代わりしてくれねぇけど」

「十分でしょ。めっちゃ欲しいんだけど、奪っちゃダメかな」


 輝夜が冒険者になって間もない頃、魔法を使いたいと思いって独学で魔法について勉強していた頃を思い出す。

 魔法を使うために最も重要ファクターである数学、物理、化学は輝夜が最も苦手とする分野。中学一年生のレベルで止まっている輝夜の学力では魔法の習得は到底不可能であり、早々に諦めたものだが、魔法を使う事には未だに憧れがある輝夜は、魔法を自由に使える遺物は喉から手が出る程欲しい代物であった。


「良いんじゃねぇか? 相手は犯罪者なんだしよ」


 輝夜はニッと笑うと拳銃を構えて、アカシックレコードを握っている左手に照準を合わせて引き金を引く。

 銃口から放たれた鉛弾が一直線に飛んでいくが、直前でフョードルがアカシックレコードと弾丸の間に腕を伸ばす。

 金属同士がぶつかり合う鈍い音が響き、銃弾が弾かれ明後日の方向に飛んでいく。


「そう簡単には、手に入らないってことか」


 スキルで強化していないとはいえ、900Jのエネルギーを持つ弾丸を素手で弾いた事に驚きつつも、嬉しそうに口元に笑みを浮かべる輝夜。


「あのタンクトップ外国人と売れないバンドマンも僕が貰う」


 輝夜はフョードルと茸上を指差してそう言う。


「おい、付け合わせだけ残すんじゃねぇよ。遺物はくれてやるから、売れないバンドマンは俺にやらせろ」

「……わかった」


 輝夜は嫌そうな表情を浮かべ渋々ながらも頷くと、ブーストで身体能力を強化し、フョードルへと突っ込んでいく。その勢いのまま横蹴りを放ち、フョードルの体を蹴り飛ばす。


「聞いてたろ。アンタらの相手はあのプリン頭だ」

「えっ、ちょっ」

 

 芹矢は夕香ら三人にそう言うと、彼女らの制止も聞かずにスキルで茸上の背後へとテレポートすると、彼の肩に手を置いて少し離れた場所へテレポートで移動する。

 輝夜の相手はロシアのプロハンターであり、芹矢の相手も強力な遺物を持っている。人数で勝っているのだから、わざわざ一対一で相手をする必要はない。


「仕方ないか」

「そうですね」

「はい、仕方ないです」


 今さら止めたところで聞く耳を持つ筈もなく、むしろ一人で三人をまとめて相手にすると言い出さないだけマシだと話ながら、残された三人は上賀に近づいていく。


「プロ三人を一人で相手にしろだとよ」


 拳の関節を鳴らし、上賀の眼前立って拳を振り上げる周防。


「えっ……と……」

 

 プロでもなければ、強力な遺物やスキルを持っている訳でもないただの元ハンターが、三人を相手にできる筈もなく、周防の振るった拳一発で白目を剥いて気絶する。

 


毎日投稿してる人、本当にすごいと思う。

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