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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
99/159

1-B.74

 逃走を開始したM3中戦車を、相次いで着弾する機関砲が追いかけます。伴って、A42V本体も移動を開始したようです。のどかな田園風景を完膚なきまでに破壊しながら、M3中戦車にとっては鬼ごっこ、カヴェナンターにとっては隠れんぼ又はだるまさんが転んだが開始しました。

「マップ更新まで、あと15秒です」

 リアシュの言葉に、ウドミが静かに頷きます。村落エリアを東西に横断しCRSTの方へ向かってくるM3中戦車との距離は、約500。きっかり15秒経って、肩越しにリアシュの差し出した板状情報端末の上で位置情報更新のバーが村落エリアを通過していくのを確認したウドミが、レバーを握る腕に力を込めます。

「まず東へ全力移動です。もちろん、姿は見つからないように」

「かしこまりましたわ」

 これから次の位置情報更新までの一分の内にカヴェナンターはM3中戦車とすれ違わなければいけません。

 カヴェナンターが通れるギリギリくらいの狭さの路地を、巧みな操縦でフルスロットルで駆け抜ける車上で、アコはハッチを開いて周囲を見回します。建築物によって、ありがたいことに左右に視線はほとんど通っていないのですが、困ったことに視界がほとんどないということでもあります。

 左を特に監視していたアコは、瓦葺きの屋根と屋根の間に一瞬見えた奇妙な砲塔を見逃しませんでした。

「今、M3中戦車とすれ違いました!多分、三つ向こうの通りです」

「まあ!であれば、ひとまずは安心ですわね」

 心なしか、ウドミの背中も力が抜けたようです。その背筋を再び叩き伸ばすような轟音の雨が、直後始まりました。そして、ズシンズシンという地鳴りのような音が響き渡ります。A42Vが移動を始めた音でしょう。M3中戦車を追っていることは間違いありませんが、もしも見つかれば追われるのはカヴェナンターに交代です。

 運転中のウドミにも見えるよう、体を低くしたリアシュが、腕の中のマップを左手の指でなぞります。

「北方のA42Vが、先ほどまでの私たちの位置へ移動するM3中戦車を目掛けて動くということは、軌道はこのようになるはずですわ」

 細くて小さい指が描く直線は、北東、CRST達が村に入った地点から南西へと伸びる、袈裟斬りのような軌跡です。リアシュは、その動きをだいたい四分の一くらいの位置で止めました。

「次のマップ更新まであと20秒ですから、その時点での三者の位置は……このよう」

 マップ上から指を引いたリアシュは、そのまま左手を口元に持っていき数瞬の思案をしました。

「では、更新の直後に北へ向かいましょう」

 その結論に驚いたのはアコです。

「なぜですか?目的地は南のトンネルですし、北にはA42Vが!」

「アコ、この状況で一番の安全地帯はどこか分かるかしら」

 リアシュの被せ気味の反問に、アコは言葉を詰まらせました。詰まらせついでに少し落ち着き、改めてマップを見下ろします。先ほどのリアシュが恐らくしていた思考、即ち十数秒後の三者の位置の予測というのをトレースしてみましょう。

 A42Vが村の中まで南下してきて、M3中戦車が南西へ、カヴェナンターはきっと南東まで移動できるはずです。仮に、その後カヴェナンターが北へ移動したとしてさらに一分進めてみます。M3中戦車はいつの間にかすれ違っていたカヴェナンターに驚いて踵を返すでしょうか。となると、A42Vの軌道は南下のままと思われます。すると。

「一番の安全地帯は……A42Vを挟んで、M3の反対側ってことですか?」

「その通りですわ。常にその位置取りをキープしながらもう半周すれば、A42Vの視界の外で安全に南へ抜けることができます」

 村落エリアの南方は、トンネル周辺の木々が生い茂る地帯までの数百メートルに渡って遮蔽物の少ない開けた地面が続きます。そこを安全に通り抜ける為にA42Vの目を北に向ける必要があり、その為にはM3中戦車を北に誘導しなくてはならないということです。

「ウドミ、左折!」

 一秒を惜しみ、バーが通過した瞬間に声を上げたリアシュに従ってウドミがちょうど真横に伸びる路地へ直角カーブで滑り込みます。角に置かれていた立派な鉢植えが無惨を晒しました。

 マップ上からは、リアシュの目論見通り村落エリアの南西まで移動したM3中戦車の当惑まで伝わってくるようです。その北方、A42Vは、確かにM3中戦車の方へと進んでいます。

「イイ感じですね」

「ええ。このまま、A42Vとすれ違います」

 幾何が得意なアコの見立てでは、あと二十数秒でA42Vとの最接近ポイントです。

 そろそろか、とハッチを開けたアコは、ちょうど跨いだ、村落の東西を横切る大きな通りの真っすぐ左向こう、西200mほどにA42Vの巨体を認めました。頭は向かって左手で、明らかに南を向いています。そんな一瞬開けた視界も、カヴェナンターと同じ速度で後ろへ飛び去って行きました。

「A42V、躱しました!」

 リアシュはそれを聞き、不敵に微笑みました。

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