1-B.73
M3中戦車が畦道から村の通りの一つに変わった道を直進していくのを傍目に、カヴェナンターはスパッと右折しました。村落エリアと棚田を隔てる、村の北の辺に当たる道です。このまま真っすぐ進めば、YNGと共にTSHBと交戦した地点にまで続いています。
右手、北に広がる水田越しにA42Vの姿を探すと、燎原の炎から立ち昇る煙の向こうに、薄ぼんやりと動くものが見えました。水田上に可燃物が少なく、延焼のスピードが控えめとなっていることが救いでしょうか。しかし、榴弾がパタリと飛んでこなくなったことを鑑みるに、A42Vは煙幕によって完全に標的を見失ったようです。
「さて、今のうちにトンネル、そしてあの神社を目指しますわよ」
「かしこまりましたわ」
ウドミが答え、進路を左に切ります。カヴェナンターは、木造平屋建ての立ち並ぶ狭い通りを村の中心方向へと進み始めました。
ハッチを開けたリアシュが右前方、南西に視線を送ります。丘の西の麓に森の広がる中、急に隆起する地形は、神社のある岩山に違いありません。その足元、木々や掘立小屋で上手く隠れていますが、あそこに目指すトンネルがあるはずです。
「まずは、南端まで前進しましょう」
今は遮蔽物が多いですが、村を南へ抜けようとすればそうもいかなくなります。この北の辺周りがこの村の中心部のようで、ここから離れれば構造物は少なくなっていくのですから。
リアシュがマップを開きます。M3中戦車は、元の通りを南進中。森の中に逃げ込む算段でしょうか。A42Vもまた、先ほどまでの進路から外れた様子ではありません。気になるのはYNGとMAGI。トンネルの中途にて、ほとんど動いていないように見えます。
リアシュの右目がツイと動き、一瞬そちらに向けられましたが、差し迫っての問題は接近中のA42Vの方です。炎が弱点の氷属性でもない限り、一分程度で煙幕を越えてくるでしょう。それに、カヴェナンターの周辺の視界も開け始めていました。
「ウドミ、前進止め。遮蔽物の影へ」
カヴェナンターが緩やかに減速し、手近な路地に入ります。砲声を立てさえしなければ、視線を切るだけで攻撃されることはないと分かってはいるのですが、なかなかの緊張感です。
「ここからは『タグ・ゲーム』ならぬ『ハイド・アンド・シーク』ですね」
「『スタチューズ・ゲーム』かも知れませんわよ」
上手いことを言おうとしたら上手いことで返されてしまいました。それはさておいて、挙げられたいずれのゲームにも共通して登場する役割が鬼です。ハッチから北を窺うリアシュとアコの視界に、このBCSにおける鬼が、火と煙の幕の向こうから入場してきました。
「来ました……どうするんですか?ここから」
意味もなく声をひそめるアコに、リアシュは普通の声量で答えます。
「言ったはずですわ。ここでA42Vの足止めをするのは、M3中戦車です」
不敵に微笑むリアシュが双眼鏡で見通す先、そこにはカヴェナンターから見て東の通りを南進する、M3中戦車の姿が見えました。特別変わった様子はありませんが、あえて言えば、姿が見えること自体が変わっていますね。
「なるほど!」
カヴェナンターの車高は2メートルを上回るくらい。この、空の広い村でも十分に姿を隠すことができます。しかし、あの異形のM3中戦車はどうでしょうか。その背丈は6メートルを下らない、巨人。出る杭は打たれるものです。巨神ことA42Vが槌を振るう杭が、カヴェナンターであるはずもありませんでした。
「この村落エリア、私たちにとっては塹壕地帯ですが、あのM3にとっては平原も同然ですわ」
「カヴェナンターは車高が低いですからね!」
ハッハッハと下手くそな哄笑を上げるアコを、リアシュが目でたしなめます。
その北東方面、瓦葺きも茅葺きも同様に踏み抜きながら、村をダイナミックに散歩し始めたA42Vが、M3中戦車のゴテゴテした頭を見つけたようです。恐らく精一杯隠れようとする努力でしょう、見渡す限り最も棟の高い屋敷の庭に逃げ込んだようですが、その甲斐虚しく、A42Vの巨砲が照準の動きを見せています。
爆発的な射撃音が轟き渡り、コンマ何秒かの後、M3中戦車の逃げ隠れた屋敷が跡形もなく吹き飛びました。
「平地で静止していれば、それなりの照準ができるようですわね」
リアシュが冷静に分析しますが、アコはM3中戦車の安否が気になります。彼らが斃れたら、誰が囮となってくれるのでしょう。マップを注視します。
「M3健在!」
しかし、そこはSランクプレイヤー。照準されたと判断した時点で行動を開始していたようです。隣の民家の木塀を突き破り、先ほどまで走っていた通りに直角を成す路地に姿を現しました。
そして一目散に、西へ逃げ始めます。
「こっちに来てますよ!」
マップを見ているのはあちらも同じということでした。




