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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
96/159

1-B.71

 車内に戻ったリアシュに、アコは、流石に苦言を呈さずにはいられませんでした。

「リアシュ様、ちょっと命知らず過ぎます……それに、今あんなことを言っても意味ないんじゃないですか?」

「さて、それはどうでしょうかしら。どの道、ここではアレらを撃破することはできませんわ。それならば、小さな種でも蒔いておいた方が良いのではなくて?」

 先ほどまで横隊おしくら饅頭していた三輌は、今は打って変わって縦列で走行中です。速度の都合でレオパルト軽戦車がM3中戦車を追い抜かし、現在は先頭から順番に、レオパルト軽戦車、M3中戦車、そしてカヴェナンターという並び。そして大きく離れて、森から出んとするA42Vがその巨大な脚を一歩一歩と踏み出しつつあります。

 もしも後ろの二輌がそれよりも前の戦車を撃破すれば、この二輌が並んで何とか通れるかという狭さの畦道は通行不能となり、足止めを食らったチームはA42Vの餌食となるでしょう。先頭を行くレオパルト軽戦車にのみその心配はありませんが、本当に残弾が少ないまたは無いようで、この状況に至っても発砲する気配がありません。二輌目のM3中戦車は後ろに続くカヴェナンターであれば撃破しても支障ありませんが、砲が特徴的すぎて、その背後にピッタリとついていれば狙うことすらできないようです。さながら銀将。

 もちろんカヴェナンターにはその後ろに続く戦車などA42Vしかいませんから、砲手のアコにできることは精々M3中戦車を照準器の中から外さないことくらいなものです。

 さて、当のA42Vは、今まさに湿田の中に第一歩を踏み出しました。右脚の一脚が、泥の中に突き立てられます。その脚が、半ば近くまで沈み込みました。

 アコとリアシュがピクッと反応する先で、A42Vは妙に人間臭い動きで脚を戻します。副音声をつけるなら「おっとっと」。

「……水田って、あんなにぬかるんでるんですね」

 アコは、水田を突っ切るのを避けたリアシュの判断を心の底から称賛しました。

 ふと視線を落とした右手の水田、その張られた水の向こうの地面は、精々数十センチ程度にしか見えません。ですが、恐らくここだって、相当ぬかるんでいるのでしょう。もはや沼と言っても良いかもしれません。

「そんなことはないはずなのですが……」

 ウドミが訝し気にそう言いました。

 動きを止めたA42Vは、今度は畦道の上に脚を伸ばします。アコたちの走る太い畦道ではなく、その一本右の細い畦道です。棚田を走る無数の畦道は、数本置きに戦車も通れるような太い道と人間用の細い道を繰り返しています。A42Vが脚を落としたのは、後者でした。

 細いとはいえ、土の道です。流石に先ほどのように5メートルも沈むことはありません。それを確認したのか、A42Vは次に、左の脚をカヴェナンターと同じ太い畦道へ突き出しました。

 今、A42Vに残っているのは、右が前から数えて第一、第二、第三、左が同じく第二、第四の五本の脚です。それらがにわかに高速で動き出し、左に傾いた立体的な足場でありながら、A42Vはその巨体に似合わぬトップスピードにすぐさま達しました。森という障害物地帯を抜けた影響が顕著です。

「この棚田が、A42Vのホームグラウンドだったんですね」

 まるで、自分の生息地が水の中と知った魚。状況に完全に対応した比喩ではありませんが、縦糸は粘らないことを知っていて網の上を自在に動く大蜘蛛のようでもあります。すると、カヴェナンター達はその巣に捕らえらつつある餌となってしまいますが。

「来ますわよ!」

「どうしたら!?」

 リアシュが有意な答えを返す前に、342ミリの主砲が火を噴きました。CRSTの三人のみならず、他の二輌のメンバーたちも、喉を鳴らしたことでしょう。祈ることもできない短時間、恐ろしい時間が続き、そして、三輌の右前方の水田がめくれ上がるように爆ぜました。

「榴弾……っ!」

 いよいよ、状況はあの堤防の再現となってきました。A42Vはあの時よりもほど近く、前方には二輌の進路妨害車というおまけつきですが。幸いと言えるのは、やはり八脚が五脚にまで減っていること。あの堤防上での顛末と同じように、ノーヒットで終わってほしいものです。

 それに、カヴェナンターが走り抜くべき塁間ももう残り短いはず。周囲に広がる水田の中に、小屋などが建てられた乾いた地面が混じるようになってきました。そして畦道が続く先は、あの村です。棚田の広がる斜面のふもとに広がる村へと真っすぐ繋がる道を、偶然にも三輌は選んでいたのでした。

 もっとも、前の二輌というか主に背の高い一輌が邪魔で、ホームベースの様相は未だうかがい知れません。アコはハッチから体を乗り出し、前方の様子を視察しようとしました。

 その時、ちょうど同時に、レオパルト軽戦車のオリジナル砲塔の後部が、パカッと倒れました。そして、プレイヤーが出てきます。

 女性ではありますが、あの眼帯女ではありません。色素の淡い前髪を真一文字に切り揃えています。同じような姿勢でいるアコと、目が合いました。互いに、恐らく同種の気まずさを共有します。背後で、A42Vによる派手な爆発が起こりました。アコがとりあえず会釈すると、向こうも会釈しました。

「アコ?どうかしましたか?」

「あ、いえ、特に……」

 リアシュに声をかけられ、一度車内に視線を落としたアコが再び顔を上げた時、既にあのプレイヤーは引っ込んでいました。戦闘中に生まれた、敵味方の垣根を越えた心の交流ですね。また出てこないかなあ、などと考えながらレオパルト軽戦車を眺めていたアコの目の前で、その車体がかき消えました。

「はぁ!?」

 アコが狼狽の声を上げるのと同時に、前を走るM3中戦車が進路を右に切りました。

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