1-B.69
衝撃の原因は、レオパルト軽戦車の向こうを走っていました。今も、カヴェナンターとレオパルト軽戦車の横を並走しています。高い車高と二門の主砲。言わずと知れたM3中戦車です。急減速かつ急左折した二輌に巻き込まれたのでしょう。追突する形で、団子状態の戦車集団に仲間入りです。
「M3!?てことは……」
アコが頭を出したカヴェナンターの背後には、A42Vの小山のような影が迫りつつありました。
「時間がありませんわね……」
渋い顔でA42Vを見上げるリアシュに、ウドミが声を上げます。
「距離を取りますか?」
「そういうわけにも行きませんわ……」
三色団子のように仲良く並んで走る三輌のそれぞれの砲は、カヴェナンターのは後ろを向いていますがレオパルト軽戦車の車体と干渉してそれ以上右回りには旋回できず、レオパルト軽戦車のは相変わらずカヴェナンターによって押さえつけられており、M3中戦車の上段のは自由ですが高すぎて撃っても当たらなそうで、下段のにいたってはそもそも限定旋回なのでした。
つまり、これだけ密着しているにも拘らず互いが互いを撃つことができないという、近くて遠い三角関係が形成されているのです。しかし裏を返せば離脱した瞬間に撃たれるということに他なりません。そして、くっ付いているせいで必然的に速度は落ちる一方の三輌に、物理的最大の敵であるA42Vが近づいています。
カヴェナンターから見て厄介なのはやはり、唯一自由な砲塔を持つM3中戦車です。アコが見ると、M3中戦車の上段の砲は真後ろを向いていました。その射線の先に目を運ぶと、どうやら、A42Vの前面装甲を狙っているようです。抜けるわけがないのに、と訝しむアコの前で、砲口が火を噴きました。A42Vを見ると、主砲である342ミリ砲の左右に開いた窓から頭を覗かせる機関砲、その内のアコから見て右面についている方にほど近い装甲の一点が黒ずんで薄い煙を上げています。
どうやら、機関砲を狙っているようです。よく見れば、同じような着弾の痕が機関砲の周囲に点在しています。脚は木々に隠れて狙えないので上の方を撃っているのでしょうか。アコもやってみるとしましょう。どうせ砲塔を回せず他に出来ることもありません。
左の機関砲を照準に収めた途端、点射が始まったのでアコは目を傷めました。途切れることの無い連なった砲声が耳を襲います。地面を爆ぜさせる着弾が相次いで、カヴェナンターの右を通り抜けていきました。
「避けた方が当たりそうですわね」
ウドミがそんなことを呟きますが、音がやかましいです。黙らせてやろうじゃありませんか、と意気込んで撃った砲弾は、突き出した機関砲の付け根辺りにドンピシャで直撃しました。
「やった!」
「いえ、アレではいけませんわ」
機関砲の破壊を確信して照準器から顔を上げたアコに、いつの間にか真横に来ていたリアシュが冷や水を浴びせました。その言葉を証明するように、直後、機関砲の砲弾がカヴェナンターの後方に突き刺さりました。まだ、動いています。
「どうして……?」
「ご覧になって。機関砲はガードがついていますわ。あのガードにも爆風を防ぐくらいの効果はあるようです」
見ると、確かに彼女がガードと言っていると思しき筒が、機関砲を守っています。というか、アコが機関砲だと思っていたのはこの筒であり、先ほどから火を噴いているのは筒の中に見える銃口なのでした。どうやら、本当に六倍サイズの機関銃があの筒の中にあるようです。
「ということは……あの筒口に当てなきゃダメなんですか……?」
なるほど、M3中戦車の砲手が手こずるわけです。
「あの機関砲、確かに威力は脅威ではありますが、射角が狭く点射しかしてこないので対応できないわけではありませんわ。今は、捨ておきましょう」
「……はい」
その時、周囲がにわかに明るくなりました。丘の影を抜け、左手の空に太陽が戻ってきたのです。さらに、それだけではありません。木々の中を西進していた戦車群の前方の視界が開けつつありました。
「もうすぐ森を抜けます」
「森の先には?」
「棚田がありますわ」
既に緯度高く、カヴェナンター達の進路の先にあるのは村落を越えてさらにその奥にあった棚田です。
「足場が狭いことが予想されますわ。まずは位置取りに集中しますわよ」
茂みを薙ぎ倒しながら、ついに三輌は森の向こうに辿り着きました。
完全に開けた視界の先にあるのは石積みの棚田です。しかし、村落から見上げた時とは随分印象が違いました。主に、スケールの点で。想像以上の急勾配に所せましと水田が並んでいます。遥か南西の眼下に、YNGと共に通過した村落が見えました。
手前には傾斜があり、森林地と棚田とを分けるように、崖ともいえる小さな段差ができています。アコたちのいる、森林側が上です。
視界が開けると同時にハッチから身を乗り出したリアシュは周囲の地形をすぐさま把握すると、ウドミに指示しました。
「左へ!」
M3中戦車とレオパルト軽戦車が左折するのについて、カヴェナンターも同じく左へ車体を向けます。三輌がこぞって目指しているのは、前方に伸びる畔道です。その両側を挟む水田は三輌から見て右の一枚が高く左のは石垣の下にあり、このまま正面に真っすぐ進めば右の田んぼに突っ込むことになります。
目指す畔道は、ぱっと見渡すと目に入る他の土道に比べそれなりの幅があり、戦車二輌が何とか並べるかと言ったところ。どうやら棚田を走る無数の畦道は、縦横の数本置きにこのような太い道と、人のみが歩けるくらいの細い土道を繰り返すようです。
しかし二輌がギリギリ通れるようなその畦道に、残りの二チームが簡単に入らせてくれるはずがありませんでした。




