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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
92/159

1-B.67

 前から迫る巨大な岩々と後ろから飛んでくる機関砲の点射をそれぞれ躱しながら、岩肌を下り切り滑り込んだ森は、西の林道付近の森と同じような、どこかの森林公園くらいには人の手が入った森でした。地形も西と変わらず、平らな腐葉土の地面から真っすぐ伸びる木が戦車が通れるくらいの密度で生えています。だというのに西の森と随分雰囲気が違うのは、左手に壁のように立ちはだかる丘の影にすっぽり入っている為、薄暗いからでしょう。既に16時10分、リアル時刻と同期しているわけではありませんが、山の向こうの太陽も傾き始めています。

「近くにM3とレオパルト軽がいるはずです。睨み合いをしていたようでしたが、今はかなり激しく位置を変えています。機動戦をしているのでしょう。こちらの接近に反応してどちらかが動いたことで火蓋が切られたと思われますわ。遠ざかろうにも互いが邪魔で退けない、と言ったところかしら」

 通行路の上で稼いだ距離は岩肌を下る間にかなり詰められてしまい、A42Vは背後に100メートルと少しの距離で猛追しています。A42V誘導の悲痛な覚悟をMAGIに見せつけておいて、CRSTが最初に取る作戦はなすりつけでした。

 ハッチから頭だけ出し首を巡らせていたリアシュが、声を張ります。

「右二時、100メートルにレオパルト軽!」

 視程の短い森林戦は、いきなりインファイトから始まるのでちょっと心臓に悪いです。が、リアシュは動じることなく続けました。

「三輌での戦闘になりますが、高速で動いていればA42Vの特殊攻撃は怖くありません。ウドミ、なるべく足を止めないで。そしてアコ、レオパルト軽戦車の方は、撃たれたら撃ち返して構いませんわ。それと」

 アコが照準器を覗き込んだのを見て車長席から立ったリアシュが、アコの横まで来て付け加えました。

「M3との戦闘には消極的にお願いしますわ」

「それは……対A42Vの戦力に数える、という意味ですか?」

「ええ、平地で先ほどのような作戦を行うなら、同時に破壊しなくてはいけない脚も増えます。75ミリ砲二門は魅力的ですわ。それに、三つ巴という構図も都合が悪いです」

「了解です」

 要するに、M3中戦車の方に助太刀するという体でレオパルト軽戦車とM3中戦車の戦闘に割り込めばよいのでしょう。A42Vという手土産付きでなければ、喜ばれたかもしれません。

 ウドミが進路を右に取り、カヴェナンターはレオパルト軽戦車の軌道との距離を狭めます。アコが照準器に捉えたレオパルト軽戦車は、砲を後ろ向きにしてアコたちから見て左から右に走っていました。そんなレオパルト軽戦車が、やにわに左折します。同時に砲塔が天から見て反時計回りに旋回するのを、アコは見逃しませんでした。

「ウドミさん、来ますよ!」

 機敏に反応したウドミによって、カヴェナンターは右に小回りしました。レオパルト軽戦車の砲口が真っすぐこちらに向きます。が、予想に反して砲弾が飛んでくることはありませんでした。

「……来ませんでした!」

 ちょっと恥ずかしいです。

 それはさておいて、照準器の中のレオパルト軽戦車が非常に狙いやすい状態です。リアシュの指示は、撃たれたら撃ち返せ、とのこと。良いタイミングではありますが、判断に迷います。まあ、撃ってからお伺いを立てるとしましょう。撃たずに後悔するよりマシです。

 車体ごと旋回した直後でしたので、照準を再度調整し引き金を引きますが、あちらもカヴェナンターに劣らぬ高速で移動しています。背後からの一撃は真芯を捉えることができず、砲塔の側面装甲を浅い角度で掠めただけでした。

 チラッと盗み見ると、リアシュがこちらに向き直っていたので、アコは撃つとマズかったかと思い体を固くします。そんなアコにリアシュが口を開きました。

「アコ、あの砲塔の装甲はどのくらいだったかしら?」

 別にマズくはなかったようです。アコは質問に答えます。

「タイプBは軽量重視の砲塔です。『イギリス戦車の砲塔』なら、全周20ミリ前後でした。ですので、『ドイツ戦車の砲塔』も……同じくらいじゃないかと」

「ありがとうございますわ。左手方向にM3がいるはずです。近づきすぎて攻撃される前に、レオパルト軽への攻撃をアピールしておきましょう」

 レオパルト軽戦車が先ほどまで砲塔を後ろに向けて狙っていた相手は、この場にいるもう一輌の戦車、M3中戦車に違いありません。アコへの指示でしたが、ウドミも反応してカヴェナンターは右側から大きく回り込んでレオパルト軽戦車に追い縋るような軌道に入ります。

 アコは、開け放たれたハッチから体を出して左方向を見渡しました。その下に頭を出したリアシュが双眼鏡で同じように見回し、そしてすぐに見つけたらしく双眼鏡を手渡してきます。索敵スキルの格の違いを感じつつ受け取ったアコは、指差された方に双眼鏡を向け、M3中戦車の姿を視認しました。

 カヴェナンターと同じ方向に全力走行中、つまりレオパルト軽戦車を追いかけています。本当に五体無事で生き残っているのがまず驚きです。癖の強い戦車を卓越したプレイヤースキルで乗りこなしている典型的な色物タイプでしょう。その上段の75ミリ砲がこちらに向いているのでアコは体を強張らせました。

 しかし、アコの胸の辺りでリアシュが出した「加速!」という指示に従ったウドミがレバーを深く倒したため、M3中戦車の砲弾はカヴェナンターの車体一つ分後ろを通過していきました。二秒ほど遅れて、下段の75ミリ砲も火を噴きます。進行方向をなぞって飛んだ砲弾は、今度は前方のレオパルト軽戦車の左を追い越していきました。

「多武装戦車、便利そうじゃないですか……」

「三人では動かせませんわ。それより、射撃はあくまでレオパルト軽に集中してくださいましね」

「もちろんです」

 砲塔に戻ったアコは、左手を砲塔旋回クランクハンドルに、右手をトリガーに持っていきます。M3中戦車の対処は車長と操縦手に任せるとしましょう。レオパルト軽戦車を照準器の中に収めたその時、その姿をかき消す雨が降り注ぎました。雨は雨でも、砲弾の雨です。

 A42Vの参戦でした。

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