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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
91/159

1-B.66

 アコが撃ち下ろした砲弾はA42Vの上面に着弾し、いかにも貧弱そうな排気用と思しき格子状の鉄板の上で炸裂しました。結果的には弱点を突くトップアタックとなったのですが、もはや当然の如く弾かれます。本当に鉄では無いのかもしれません。

 前の脚を傾斜にかけてこちらを見上げるように砲口を向けてくるA42Vを見て、ウドミは一旦は素通りしかけた通行路に再び復帰し、その段差に隠れることで地を揺らす342ミリの砲撃をやり過ごしました。しかしこのまま通行路にいても、俯角が取れずこちらから攻撃することはできません。

「暫くこのまま北上してみましょう。たまに姿を見せておけば、登ろうとすることなくついてくるはずですわ」

 カヴェナンターが通行路上を走り始めたのを見て、A42Vが並走する様についてきます。犬か何かの散歩をしている気分にならないでもないです。あまり離れてもいけませんが、カヴェナンターの方が速いことはもちろんですので、当然ながら両者の距離は開いていきます。ウドミはA42Vが捕捉できるギリギリの距離を見極めるつもりで、限界まで引き離そうとしている様子でした。

 それでも通行路の上と下、直線距離では200メートルほどの距離。ここまで近付いたことはなかったので、リアシュがこれ幸いとじっくり観察します。

「前部戦闘室の視察用の窓も機銃孔になっていますのね。さしずめ雌雄合体と言ったところかしら。スペース足りてまして?」

 車体前面に突き出す主砲の左右にある機関砲のことを言っているようです。アコから見ると、あまりにもスタンダードな戦車とかけ離れていて内部の想像がつきません。分からないことは素直に聞くことにしました。

「そもそもアレ、中はどういう構造をしてるんですか?」

「A7Vと同じであれば、内側は前後二部屋に分かれているはずですわ。前は主砲と機銃二挺を、後ろは機銃四挺をそれぞれ担当します。A42Vは前部の戦闘室に追加で機銃改め機関砲二門が追加、という感じかと」

「中央の上に飛び出した部分とか、何なんでしょう」

「前後の戦闘室の間は機関室と聞きます。操縦室はその上に載っている為、中央だけ張り出しているのですわ。ほら、張り出し部分には視察窓がいくつもついているでしょう?」

「ホントですね……六、いや八個も空いてます」

 よく見ると、張り出し部分の周囲にはちょっと過剰じゃないかと思うレベルで窓がついていました。

「単純極まりない面構成の鉄板がリベット打ちで接合され、巨大な割に後ろ半分は機関銃を撃つためだけの空間という対戦車戦闘を一切考慮していない構造。正面以外向けない限定旋回の砲架に、鹵獲品の短い主砲。武骨で個性的なデザイン。鈍足かつ結局超壕能力も微妙……まさに、黎明の戦車ですわ」

 下から当たらない機関砲の連射を浴びせながら追いかけてくるA42Vが、初めてハイハイできた赤ちゃんにでも見えているのでしょうか。アコが思わずA42Vに嫉妬しかける程の聖母のような笑みを浮かべていたリアシュの口元が、にわかにキュッと締められました。

「でも、本当は履帯も転輪も誘導輪も面白い戦車なんです。足元だけ見たら小さいP1500モンスターみたいで、ああ昔からやってることは同じですわねと温かい気持ちにさせてくれますわ。それが、あんなっ……!」

 リアシュは苦し気に顔を伏せます。アコは、かける言葉が見つかりませんでした。というか、かける言葉を探す気にもなりませんでした。

「ああっ!でもでも確かにわかってしまうのですわ!認めましょう。多脚戦車はカッコいいですわ。さらに六倍したことで陸上巡洋艦構想がバーチャルとは言え実現の日の目を見ていることには正直感動を禁じ得ません。一体どうして動いているんですの!?」

 暫く行動を共にしていたMAGIやYNGと完全に別行動となったためでしょうか?変なスイッチが入ってしまったようです。まあ、見ているアコにも聞いているウドミにも幸福しかもたらしていないので構いませんが。問題があるとすれば、彼女が熱く語っているのは車上なので配信用のカメラに写っている可能性が高いことくらいでしたが、アコは一旦自分の気持ちを優先させました。

「そしてあの多脚、オリジナル機構の癖に、妙に凝っているのが癇に障ります。あの脚の付け根をご覧になって?駆動箇所が三か所もありますわ!外側に大きな爪がついているせいで騙されてしまいますが、あの脚は車体の正面方向から見れば要するに、馬の後ろ脚を横から見たのと同じ構造をしています。爪は第三関節以下の付属部品に過ぎませんわ。普段は言わばしゃがんだ状態で根元の水平方向の回転によって蜘蛛のように移動し、射撃時には脚を伸ばして自在の姿勢を取り、そして戦闘時には第二第三関節が駆動を始め最低限の運動性を発揮するというわけですわね!さながら究極の油気圧式サスペンションですわ!そしてそしてその複雑故に脆弱な駆動部を覆い隠す爪。あのA7Vに似合わない婉曲面を持つシュルツェンは、先ほど剥がれ落ちたところを見ると最大で60ミリはありますわ。角度の浅いヒットはあの増加装甲が往なし、そして逸れた砲弾は車本体の無敵の装甲に止められてしまう。さらに、あの爪は第三関節以下の脚部から大きく出っ張って上まで伸びていますが、アレは恐らく車体への攻撃に対する空間装甲としても機能しますわ。本体が硬すぎて無意味になっているおまぬけなところも高ポイントですわね」

 そこまで微笑ましい身振り手振りを交えて語り切ったリアシュは、ほぅと一息ついて板状情報端末のマップに目を落としました。

「そろそろですわね。ウドミ、降りますわよ」

「!は、はい」

 少々失礼な例えですが、カーラジオが突然話し掛けてきたみたいな反応をしたウドミが進路を右に変えます。通行路を踏み外したカヴェナンターは、岩々転がる山肌を斜めに下り始めました。それはつまり、射線が通るようになったということ。機関砲が着弾して起こる爆発が点線をなして追ってくる背後の地面を振り返りながら、アコもリアシュも砲塔に戻ります。ここからが本番です。

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