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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
84/159

1-B.59

 チームMAGIとの自己紹介もほどほどに、三輌は隊列の先頭にカヴェナンター、中心にIS-2、しんがりにARL-44という縦隊で丘を目指し林の中を走行します。ちなみに、MAGIのもう二人のメンバーは想定通り青っぽい長身の女性と黄色っぽい小柄な女性でした。それぞれ、blue(ブルー)IEROU(イエロー)に違いないでしょう。特に後者は猫耳を装備していたので印象がすごいです。

 MAGIとの合流地点から、丘に登るために東に移動して数分。丘だと思っていたものの全貌が徐々に見えてきました。西から見ていた時は丘に見えていたのですが、実際にはなだらかなのは西側のみで、東側は傾斜の険しい岩山だったのです。

「作戦は単純ですわ。A42Vを誘き出し、その脚の片側を集中的に破壊して転ばせ、地雷で処分します。当然、足場が悪い場所が適していますわ」

 とのことで、丘のふもとからの視察によって地雷の敷設地点は頂上付近の、なだらかな草原と切り立った岩山が交差する崖の縁ということになりました。付け加えると、A42Vという名称はMAGIとも共有しています。その笑える由来については、黄色い人(イエロー)にのみバカみたいにウケました。


 縦隊が丘の頂上を目指してその斜面に足をかけてまた数分後、後ろからMAGIのIS-2が追いついてきました。何事かとハッチを開いたリアシュに、キューポラのレッドが手振りで後ろを見るように伝えてきます。言われて後方に注意を向けたリアシュが、ARL-44の車上で何やら腕を振り回すナギナギの姿に気づきました。口元も何やら動いているようですが、既に声は聞こえない程の距離が離れています。

「やはり機動性には難がある戦車ですわね」

 同じく頭を出したアコに、双眼鏡を覗くリアシュが言いました。

「何か伝えたいようですが、よくわかりませんわ。日本の手旗信号かしら……?」

「いや、私もわからないんで多分ただのジェスチャーじゃないですかね」

 それを聞いて、並走してきたIS-2の上のレッドが会話に割り込んできました。

「手旗信号がわかるんですか?」

 アコに言っているようです。

「一応、スキルを……」

 レッドに答えながら、陽光を手で遮り眼を細くしてナギナギの動きを見ようとするアコに、リアシュが双眼鏡を貸してくれます。手旗信号スキルは、凄まじい要求スキルポイントに興味を惹かれて取ったは良いものの、ソロのアコには無用の長物だったという忌まわしいスキルです。もっとも、手旗など使わずともPBO内では通常仲間同士の通話が可能なので、世間一般でもゴミ扱いされているスキルですが。言わば、通話が制限されるBCS専用スキルです。

 リアシュから受け取った双眼鏡の中のナギナギは、まず腕を大きくグルグルと回し、次に下つまりARL-44の車体を両手で指差し、バックする時のオーライのポーズを何度かして、さらに腕を突きあげる動きを繰り返した後、頭上に丸を作りました。

「ん、ん~。たぶん、先に行けってことじゃないですかね」

「なるほど。では、頂上で待つとしましょうか」

 アコの適当な解釈にリアシュが頷きます。アコは、てっきり停車してYNGを待つものだと思ったので少し意外でした。IS-2も、減速して元の場所に戻っていきます。

 そうこうして車間は開きつつも、三輌は陽光に照らされたなだらかな草原を登ります。振り向くと視界に入ってくるIS-2は圧迫感がありますが、アコは、BCS中にもかかわらずのどかな気分でカヴェナンターに揺られていました。

 やがて、地面が傾斜を失ってきます。丘の頂上です。ウドミは、東側の岩肌に臨む崖の縁にカヴェナンターを停めました。少し遅れて草原を分け近づいてくるMAGIのIS-2と、中腹を過ぎて少しといったところのYNGのARL-44を見下ろしながら、まずアコがカヴェナンターを降ります。

 一帯の草丈は高く、アコの腰まで隠れるほど。カヴェナンターで言えば、履帯が見えない程度です。

 首を巡らせると、西側には草原で縁取られた雄大な景色が、東側にはゴロゴロとした巨大な岩が目につく殺伐とした光景が広がっています。東の岩肌はかなりの急傾斜で、無限軌道を履いた車輛でも垂直登坂は難しいでしょう。下の方には山肌を削って作ったのか、広めの道が右から左へ通っているのも見えました。丘の南北を縦断しているようです。その向こうには森が見え、さらにその向こうに荒れ狂う大河が見えました。丘の頂上は、島の中心よりは東に寄っているかもしれません。

 左手、北を見れば、五枚のコンクリート色の超巨大堤防がその威容でもって足元の棚田、村、ARL-44とIS-2、そしてアコを見下ろしています。アレに守られた島の北半分だけが、きっとこのBCSが終わる時まで残るのでしょう。

「やはり、頂上は台地となっていましたか」

 車上から投げかけられたリアシュの言葉通り頂上周辺は傾斜が無く、岩肌と交わる直線を弦として半円状に、草野球ができるくらいの広さの平たい地面が広がっています。その中心、崖淵から20メートルほどのところにポツンと樹が立っているのを見つけ、アコは近づきました。例の境内にあった御神木のような広さとも形容できるほどのたくましさはありませんが、背が高くどっしりとした幹のこの樹にもまた妙な存在感があります。細いと言っても、成木と見て分かる立派な針葉樹、恐らくは杉です。

 あまり広がらない枝の下に立って振り返ると、西に広がる山々の緑に囲まれて一点、石の色が見えました。目を凝らすと、あの巨大な石造りの鳥居です。あの鳥居から丘の頂上しか見えなかったということは、裏返せば頂上以外からはあの鳥居も見えないということ。運営の想定した導線は、丘の頂上に辿り着いたチームが鳥居を発見、という流れだったのかもしれません。

 アコは、その足で南側も見てやろうと崖沿いに進みます。

「おっ……」

 意外ではありませんでしたが、想像を絶する光景が広がっていました。CRSTのスタート地点、島の南西部の低地帯は、ほぼ全てが濁った水の下でした。あの巨大な崖がまるで大河の岸のようです。途切れ途切れに水面上に残る堤の線だけが、辛うじて島の元の外形を思い出させてくれます。

 そんな変わり果てた低地の光景を眺めていたアコは、視界の左、島の南東に、ポツンと一つ浮島のように残った高地を発見しました。そして、生い茂った緑に囲まれた、一点の石の色も。

「……?」

 アコは目を凝らそうとしましたが、水面に反射する太陽が眩しくてできませんでした。

 改めて、こうして上から見ると、島の高低差の大きさがわかってきます。北の方が高いというのはもちろんのこと、東西の高低差も馬鹿になりません。低地の東から崖の上に続く坂だけでなく、崖の上の草原エリアがそもそも東に行くにつれ高くなっています。現に、島の南東部は依然として水面より上にあるようで、15時42分現在、浸水地域は島全体の三割程度にとどまっていました。そして、アコが見下ろすその南東部に、相変わらずの鉄色の巨体を八本脚で運びながら、その主砲の餌食を探す『鬼』は鎮座していました。

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