1-B.58
カヴェナンターからリアシュが、少し遅れてARL-44からナギナギが顔を覗かせます。MAGIの赤い女性アバターを含めて三人の車長は、束の間、そのまま視線を交わしていました。各操縦手がレバーを引き、数メートルの距離で三輌が停車します。
改めて見るMAGIの車長と思しき赤い女性アバターは、やはり赤いは赤いのですが、ピンクのピンクさほど赤くはありませんでした。彼女の赤いところと言えば、その首元までを覆うカッチリとしたジャケットが暗い赤色のデザインであることと、赤いラインの渡された軍帽の下の短めの髪の毛先が赤味がかっていることくらい。やはり、全身真っピンクが異常だったのだとアコは胸を撫で下ろしました。しかしそうは言っても、アコは、彼女の名前が「RED」であると言い切ることができます。まあ、赤さはどうでもいいのです。
「CRSTの車長、リアシュと申します。ええと、REDさんでよろしいでしょうか?」
例の如く、口火を切るのはリアシュでした。いつもの完璧な微笑を浮かべ、自己紹介から入ります。誰何というには断定的な質問に、推定ネームレッドさんは気真面目そうな表情で答えました。
「ええ、ご覧の通り。MAGIの車長、レッドです」
少なくとも、コミュニケーションの意思はあるようです。
この距離まで詰まった以上、半ば確信してはいましたが、アコを含めたその場に、安堵に似た空気が漂いました。とはいえ、照準を外すわけには、まだ行きませんが。
「YNGのナギナギよ。よろしく」
横から大きな態度で挨拶をしたナギナギに対しても、腰を折って会釈を返すその様子を見るに、レッドはやはり、生真面目な性格をしているようでした。そんなレッドはリアシュの白布に覆われた左目をそっと窺います。
「CRSTには……ピンクが、その、迷惑をかけたはずだが……」
僅かな時間で、三輌の間にはある種の弛緩した雰囲気が形成されつつありましたが、そうは言っても互いが互いに因縁のあるチーム同士。CRSTはMAGIのピンクに車長の左目を奪われ、そしてそのピンクを天国送りにしてしまっています。YNGにしても、ARL-44の砲塔前面についた凹み傷は、最序盤にMAGIと交戦した時に作ったものだそうです。
しかし、そこはリアシュ、穏やかに微笑んで言います。
「これまでのことは一旦水に流しましょう」
左目一つとメンバー一人だったら、客観的には後者の方が重いようにも思えますが、レッドも、またナギナギもリアシュの提案に異論はないようです。つまり、水に流すということ。
「こうして会話してくださってくれているということは、こちらに協力してくださると思って良いのですよね?」
レッドは勿体つけるでもなく、首を縦に振りました。そして、あたかも確認というように反問します。
「あの巨大なA7Vを撃破するんですよね?」
今度はリアシュが頷く番でした。
「きっと、脚を狙って倒そうとしているでしょう。確かに一チームで挑むには難易度が高い。私たちは協力するべきだ」
さすがは有機スーパーコンピューターみたいな名前のチームのリーダーをしているだけありますね。レッドはリアシュが説明していた戦法を概ね言い当てていました。だというのにリアシュも、さらにナギナギまで、説明の手間が省けるとばかりにしきりに頷いています。そんなに当たり前に思いつくことだろうか、とアコは首を捻りました。
「しかし、この三輌で挑むつもりですか?片側の四脚に狙いを定めて動きを止めるということはわかる。ですが、撃破には至りません。そして、それだけではきっとあの爆撃は止まらない」
レッドは利発そうな細い眉を少し上げ、鋭い視線でリアシュを突きさしました。既にこのチーム連合の中核を担うのがどなたなのか見抜いているようです。そして、こちらの腹の底を見透かすようなよく通る涼やかな声で、続けます。
「それでもあなた方は勝算を高く見積もっているらしい。つまり……何か見つけましたね。あのA7Vのウィークポイントを貫けるような、例えば、地雷のような」
アコとウドミは思わず顔を見合わせました。あの赤い女、リアルの姓はシャーロック、名はホームズなのでしょうか。ウドミも逆ですわというツッコミを忘れて驚きを顔面に浮かべています。
ナギナギ搭乗のARL-44から「そうなの?」という視線を受けつつ、それでも我らが車長は、泰然とした態度を崩しませんでした。
「おっしゃる通りです。対戦車地雷と思しきアイテムを既に発見していますわ。脚を折り体勢を崩して、その腹を爆破して息の根を止めます」
アコも初耳でしたが、まあ、ここまでは地雷を見つけた時点で気づこうと思えば気づけましたね。まさにおあつらえ向きのアイテムでしたから。もちろんアコも言われずとも気づいていました。本当です。
「地雷を敷設するのは丘の頂上付近と考えていますわ。幸い、あの鬼は音を利用して簡単に誘導出来ます。射線を通さずに誘き出すには最良の地点でしょう」
レッドはIS-2の上で腕を組み、束の間半円形のハッチ蓋の縁を見つめていました。しかし、すぐに顔を上げると頷きました。
「確かに、そのようだ」




