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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
82/159

1-B.57

 カヴェナンターの車体と、レオパルト軽戦車の車体とが離れていきます。TSHBのレオパルト軽戦車が、完全に戒めを逃れました。恋人の乗った列車よりも遥かに名残惜しそうに見送るリアシュの目の前で、眼帯女が悠々と車内に戻っていきます。

 一度後退し車間を確保したカヴェナンターは、すぐにアクセル全開で正面、つまりYNGのARL-44が抜けていった道を背にして右の小路へと侵入します。アコは遠ざかるレオパルト軽戦車に照準しようとしましたが砲塔の旋回は間に合わず、小路に入ってしまった以上塀を突き破りでもしない限り砲塔を回せないことは既にわかっているので、結局何もできませんでした。指示を待たずに撃っておくべきだったのでしょうか。致し方なく、対ショック、対閃光防御。

 レオパルト軽戦車も全速で逆の小径へと消えていき、カヴェナンターがトップスピードに達した数瞬後、天地がひっくり返ったかのような衝撃が起こりました。すぐにカヴェナンターに追いついた爆風が、家屋だったものを巻き込んで追い抜かしていきます。ほぼ同時に轟音が世界を揺らしました。

 凄まじい振動と衝撃、また装甲を叩く木片の嵐の中でも、カヴェナンターの車体は揺るぎません。しかし、乗っている者には相当な恐怖心を与える体験でした。いやに長い数十秒間です。

 木造住宅群の真ん中に落ちたそれは、その為、一度目に見た時よりもわかりやすい破壊の痕跡を残していました。とは言え家々を全壊させることにエネルギーを使ったためか、カヴェナンターの車体本体へのダメージは大したものではありません。不幸中の幸いと言って良いかは、アコには分かりませんでした。

「わからなくなりましたわ。あの特殊攻撃の条件は……一体」

 背後に生えたまだ炎色のままの雲を睨めつけ、リアシュが呟きます。

 TSHBとの戦闘は、長くとも精々5分。10分経ちそうになったら警戒を呼び掛けるためにしょっちゅう時計を確認していたアコが言うのですから、間違いはありません。しかし、結果としてはA42Vによる特殊攻撃は発動しています。

「10分というのが間違っていたんじゃないでしょうか。三輌が、5分?とかその程度の時間戦闘し続けているときに発動するのでは?」

「……どうでしょう。林道で攻撃された時、確かに10分だったことが説明できませんが」

「それは……M4が先に脱落しましたから、IS-2の参戦から特殊攻撃までが5分だった、とか」

 林道の戦闘の間、ずっと時計を見ていた者はCRSTには居ませんでした。アコの説を証明できる論はありませんが、逆に反証もまたできません。リアシュはアコの言葉に答えませんでしたが、その思案は途切れたわけではないようでした。

 左手を口元に置きつつも、リアシュは惰性で道を東進するウドミに指示を出します。

「ともかく、YNGと合流しましょう」

 YNGのARL-44は、ここから少し南を移動中。無事だったようです。なお、TSHBのレオパルト軽戦車は既に村落エリアを抜け、北の湿田へと進路を取っていました。リアシュがウドミにマップを表示させた板状情報端末を渡し、渡されたウドミは右折、南に進路を取りました。

 そこでウドミがふと、声を上げます。

「IS-2のMAGIというチーム、こちらに近づいてきているようですが」

 赤いバーの位置から察するに、ちょうどウドミが見ていたタイミングで更新があったようです。

「ああ、特殊攻撃に反応しましたか……」

 アコが受け取った板状情報端末を見やり、リアシュは左手を口元に当て考え込む体勢に入ります。黙々とカヴェナンターの操縦に戻るウドミのものも含めた疑問を、アコが口にしました。

「また戦闘になるでしょうか?YNGも含めたら三輌で戦うことになります。5分で決着ってわけには、行かないんじゃあないでしょうか」

 つまるところ、最大の懸念点はこちらに向かっているらしいMAGIともまた戦闘になり、5分経って再び例の特殊攻撃をされかねない、というところにありました。しかし、リアシュは頭を振ります。

「MAGIから見ると……私たちの次の進路は、ほぼ確実にMAGIへ向くと予想できるはずです。ARL-44はともかくとして、カヴェナンターならば遠距離での方が与しやすいと考えるのが自然でしょう。それならば、向かってくるということはこちらに組する用意があるということ……と思いたいところですけれど」

 リアシュはそんな、口頭で言われると漢字変換しにくい日本語を連発しながら右目を伏せます。どうやら、先ほどのTSHBの件で慎重になっているようでした。

 ここ二時間ほどのアコによる観察の成果ですが、どうやらリアシュは非常に論理的に正確な思考をし、それに基づいて判断をする反面、PVPにおいては相手にも同様の判断を求める嫌いがあるようです。

 まあそれはともかくとして要するに、発言の趣旨としてはどちらとも言えない、とでも思っておけばよいのでしょう。前方に、YNGのARL-44が見えつつありました。砲口はこちらに向けないでほしいものです。


 互いの無事を確認したCRSTとYNGの両チームは、田園と農村の織り交じった風景の中を、間隔をあけて横に並んで走っています。向かう方角は、現在地から見て南西方向。そちらに何があるかというと、マップの上ではこちらに向かって移動する点が一つあるのでした。MAGIです。

 こちらがあちらに向かって進み、あちらも同様なので、両者は程なくして邂逅します。YNGと合流してから数分も経たないうちに、ペリスコープの視界になだらかな丘を下っているIS-2を入れることとなりました。幸いにして、村落エリアの南の方は、北に広がる棚田と異なり道幅が広く、その地面も舗装こそされていませんが高速戦闘に耐えうる程度の固さを持っています。カヴェナンター内には、アコが思わずそんなことを確認してしまう程度には、戦闘を前にした緊張感が漂っていました。

 それは恐らくYNGも、そしてMAGIにも言えること。その証拠に、向かい合った二輌と一輌は互いにその砲口を逸らすことはありません。それでも、距離が1000メートルを切り、500メートルを切り、100メートルを切っても、ついぞそれらが火を噴くことはありませんでした。

 そして、肉眼でも砲塔に装備された予備履帯がくっきり見えるくらいに近づいた頃、砲塔の上のハッチが開きます。上半身を起こしたその女性アバターを一言で形容するならば、こりゃ赤いという言葉につきました。

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