表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
81/159

1-B.56

 塀越しに、と言うか塀を突き破ってカヴェナンターを狙撃しようとするレオパルト軽戦車の8.8cm砲の砲口がその車体に向けられようとした時、カヴェナンターが撃った砲弾が前方の漆喰の壁に着弾しました。時間差なく、砲弾が炸裂します。放たれたのは榴弾だったのです。

 崩れた白い漆喰壁にカヴェナンターが車体を捻じ込み、穴を広げながら通過しました。その直後、木製の板塀に真一文字を描いていたレオパルト軽戦車の砲身が、漆喰壁の角に激突します。

「不注意ですこと」

 肩越しに見えない左目で一瞥を流したリアシュは、すぐさまウドミに左折の指示を出しました。

 高そうな屋敷の高そうな庭の高そうな砂利を踏みつけながら大きく左回りしたカヴェナンターは、勝手口と思しき木製の狭い門扉を割り破りUターンを決め、小路へ躍り出ました。

 道の先にいるのは、砲を反対側に向けてこちらに走って来るレオパルト軽戦車。

「向かってくる?なんで!?」

「いけない!T字路ですわ!」

 両車の間は数十メートル。その、中間ほどの位置に、右から合流してくる道があります。

 レオパルト軽戦車は、その道を目指してこちらに向かって全速力で向かってきているのです。こちらが撃破に消極的なことを知ってのことなのか、あるいは一縷の望みに賭けての行動なのかはわかりませんが、このまま村の南エリアに逃げられれば始末に負えなくなってしまいます。A42Vがいつこちらに向かってくるかもわからない状況では、決着は急ぎたいところでした。

「……仕方ありません、撃破しま……」

 リアシュが苦々しい声でそう言いかけた時、そのT字路の向こうから飛んできた砲弾が、道の左の漆喰の壁を破壊しました。すんでのところで被弾を免れたレオパルト軽戦車が急停止します。

 道の奥から、聞き覚えのある元気のよい声が聞こえてきました。

「ほら見なさい!あそこで曲がっておいて良かったでしょ?」

 ARL-44のハッチから身を乗り出し、薄めの胸の前で両腕を組んで仁王立ちするナギナギが、T字路を曲がりかけたレオパルト軽戦車を睥睨していました。


 身を引こうとするレオパルト軽戦車の背後にカヴェナンターが回り込んで後退を封じ、ノシノシと迫ってきたARL-44が前の道も塞いで、レオパルト軽戦車の進退は文字通り完全に窮まりました。自慢の8.8cm砲も、あらぬ方向を向いたまま砲塔を動かすことも出来ず、打つ手も撃つ砲も皆無です。

 ハッチから頭を出したリアシュはナギナギとアイコンタクトを交わし、次に視線をレオパルト軽戦車に向けました。

 レオパルト軽戦車の砲塔である「ドイツ戦車の砲塔 Typ.B」は8.8cm砲が収まる割にはサイズの小さい軽量サイズのPBOオリジナル砲塔です。そのハッチは砲塔後部に倒し窓のような開き方をする四角いものが一つのみ。ティーガーⅡの砲塔の脱出ハッチと同じと言えばわかりやすいでしょう。

 今はアコたちの方に向いているその砲塔後部がやはりパカッと倒れ、女のアバターのオレンジ色の頭が現れました。炎を思わせる暖色系の髪の、そのボリュームのあるがままにしています。あるいはライオンのような雰囲気をも纏っていました。強そうです。

 目立つのは、顔の右半分を覆うような黒い革の眼帯です。あるいは、眼帯という言葉は不適切かもしれません。右目の部分にはパカパカできるレンズのような機構を備えた、実に少年心をくすぐる、ある種の片眼鏡モノクルと言うのが最もしっくりくるでしょうか。ともかくそういうやつです。

 身も心も少女であるアコには少年心は分かりませんが、かなりワクワクします。アコも往時は、ウインクの練習と周囲に偽って隻眼ごっこを楽しんだものでした。

 ただし、露出している範囲の表情から察するに、女は不機嫌そうでした。

 攻撃的な表情のまま、左目を覆う白い布によって似たような面相となっているリアシュと互いの単眼の視線を交わしています。先に口を開いたのはリアシュでした。

「ご機嫌よう。私、このカヴェナンターの車長を務めるリアシュと言いますわ。既にご覧になったかと思いますが、今回のタグ・ゲームの『鬼』を撃破するために、お力添えいただきたいのです」

 これで都合三回目の説明。慣れたものですね。要点がよくまとまっていて、簡潔かつ分かりやすいです。

「で、その鬼退治に協力すればここは見逃してもらえるってわけ?」

「ええ、もちろん約束しますわ。あなた方の協力があれば『鬼』の撃破はほぼ確実。確実にする作戦をこちらは持っていますわ」

 アコが言われたら、何も分かっていなくても頷いてしまいそうな流暢な説明です。しかし、眼帯女は違いました。

 フンフンとリアシュの説明を興味無さそうに聞き流し、憎たらし気に口を開きます。

「だが断る」

 アコは、リアシュをチラッと仰ぎつつ主砲の引き金に指をかけました。見せつけるように旋回を始めたカヴェナンターの砲塔を前にしても、しかし、眼帯女の表情は崩れません。

「どの道生きるか死ぬかだ。それにウチの車長が言うには、『そろそろ』らしいぜ?」

 リアシュが目を細め、ナギナギが興味を惹かれたように首をもたげた時でした。

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 二度とは聞きたくなかった音が、一帯に響き渡りました。濁った、汽笛のような音。

 その場に密集した全員に緊張が走り、車外に頭を出した三人のプレイヤーは一瞬で視線を交わします。アコは反射的に、板状情報端末に目を走らせました。

「15時28分……?どう考えても10分は経っていませんよ!」

「くっ!」

 リアシュが、鳴り響く不気味な音に負けじと声を張り上げます。

「ナギナギさん!20……いえ10秒以内にここから100メートル離れてください!」

「ええ!?わ、わかったわ!」

 車長であるナギナギがそう答えた時には、既にARL-44は動き出していました。操縦手のピーチさんが優秀なのでしょう。幸い、ARL-44が今、旋回して走り出した道はしばらく真っすぐ続いており、走行を妨げるものは無さそうです。

 そして、カヴェナンターもまた車長の指示を待たずに後退を始めていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ