1-B.55
爆煙が晴れたそこには、砲塔から火の粉を上げるスーパー・パーシングの姿がありました。その上に赤い撃破タグがピョコンと立ち上がり、数秒置いて凄まじい爆炎が巻き上がります。
その右の民家だった瓦礫の中から長い砲身をのぞかせる戦車が一輌。砲は、先ほどリアシュの口に上った71口径8.8cm戦車砲です。奇しくも、スーパー・パーシングVS長砲身8.8cm砲という、リアシュが口にした対戦カードが実現したことになります。結果は彼女の言葉を否定するものでしたが。
ちょうどハッチから顔を出した姿勢でいたリアシュは、すぐさま後続のARL-44に向かって叫びます。
「後退!一つ向こうの通りに入ってくださいまし!」
発砲音に反応して出てきたところだったナギナギがそれを聞き取り、サムズアップと共に砲塔の中へ戻っていきます。それを見届けるまでもなく、リアシュは今度はカヴェナンター車内に向かって声を張ります。
「左前方へ加速し、スーパー・パーシングの影へ!」
「はい!」
ウドミがすぐさまレバーを繰り、カヴェナンターは旋回する8.8cm砲の射線をすれ違うように躱しスーパー・パーシングの左隣へ滑り込みました。
リアシュはハッチから身を乗り出したまま、続けてアコに指示を出します。
「マップでA42Vの動きを確認してください!」
アコは車長席の板状情報端末に手を伸ばし、マップを立ち上げます。一周に一分をかけるレーダーのバーを時計の秒針を見つめるような焦れったい気持ちで目で急かし続け、ようやく南西エリアの四角いアイコンを通過したのを見届け、報告します。
「変化なし、だと思います!」
「ありがとうございますわ。あと数分は見ておいていただける?」
「了解です」
A42Vを示す長方形は、未だに南西地帯の三つの点と睨み合っています。MMAIをはじめとするプレイヤー達の方は活発に動き回っているようなので、そちらはそちらで騒動になっているのかもしれません。あるいはフィールドの端から端までは砲声が届かないのか、ともかく反応なしです。
そこで8.8cm砲が再び火を噴きました。砲弾は、ちょうどバックで角を曲がったARL-44の車体を掠め、その向こうにあった古民家を吹き飛ばします。
「敵戦車、火力は長砲身8.8cm砲で車台はやはりレオパルト軽戦車ですわ!車台ならばどこでも撃破できるはずです」
「砲塔も、タイプBは軽量重視なので当たれば抜けます!」
未知数なのはその速力ですが、次の瞬間にはレオパルト軽戦車が走り出したので明らかになりました。
「動けますわね」
ウドミの言う通り、重量感のある装甲の割になかなかの快速っぷりです。砲が重い分、流石に速度極振りのカヴェナンターには及びませんが、林道で交戦したM4シャーマンと同等以上のスピードが出ているように見えます。
「湿田の中では戦いたくありませんが……」
「あちらも同じようですっ!」
レオパルト軽戦車は、姿を消したARL-44に回り込まれるのを警戒してか垣根をなぎ倒しながらアコたちから見て左隣の民家の敷地へと移動していました。
「追いますわよ」
「逃がしませんわ」
カヴェナンターがスーパー・パーシングの真横から発進し、木の塀の上に砲塔上部を覗かせ走り去るレオパルト軽戦車に追随します。塀越しとはいえ至近距離ですので撃ってくるかと思いきや、主砲は沈黙したままでした。
木製の門扉をぶち破り敷地に侵入してその背中に追い縋るカヴェナンターは構わず発砲しますが、レオパルト軽戦車の蛇行のため、外れました。前方へ飛んでいくその徹甲弾が破壊したばかりの壁を通って、レオパルト軽戦車はさらにもう一つ向こうの民家へ侵入していきます。
「できれば、協力させたいですわ」
「あのチームを、ですか!?」
「ええ。A42V攻略の為、戦車が最低四輌、威力の高い砲が三門は必要と見積もっています。スーパー・パーシングが脱落してしまった以上、四輌確保するためにはあのチームの協力が不可欠ですわ」
どうでしょうか。今も、直角にカーブしたウドミがブレーキをかけていなければカヴェナンターが通っていた場所を駆け抜けていく砲弾を、砲塔を後ろ前にして撃ったばかりのレオパルト軽戦車のその遠ざかる背中を見る限りでは、ちょっと難しそうですが。
レオパルト軽戦車は平屋の軒先を破壊しながらV字カーブを決め、またも木塀を突っ切って、先ほどまでCRST達が走っていた通りから一本入った小路へと脱出していきます。一度ブレーキしたカヴェナンターも、その後を追って動き出します。
「ウドミ、こちらはこのままお庭を通らせていただきましょう。狭い道に誘い出されてはいけません」
「わかりましたわ」
「向こうは狭い通りで砲を真横に向けられないはずです。なるべく並走かあるいは先行するようにしてくださいまし」
改造によって大分背が高くなっているレオパルト軽戦車の頭は塀越しにこちらから丸分かりですが、比較的車高の低いカヴェナンターの頭もまた、流石に塀程度では隠れません。
その時、塀の上から飛び出たレオパルト軽戦車の砲塔が天から見て反時計回りに旋回し、薄い木の塀を突き破って8.8cm砲がこちらに向けられました。当然、走行しながらですから、板塀がバキバキになっていきます。
「わお、ワイルド」
驚嘆するアコに、装填をするリアシュが声をかけます。
「アコ、前方に照準」
レオパルト軽戦車の砲口がカヴェナンターを捉えんとした時、カヴェナンターは前方に向けて発砲しました。




