1-B.54
CRSTとYNGによるスカウト活動は順調に滑り出しました。
標的として定めた三チームは、比較的狭い範囲に固まっていました。マップが公開されたことで、三輌が睨み合いを始め動けなくなっているようです。
まず向かった、最寄りのチームの搭乗戦車であるスーパー・パーシングに、カヴェナンターの75ミリとARL-44の90ミリの二門の砲を突きつけながら、こちらを代表して出向くリアシュとあちらの車長らしき若い男性のアバターとの交渉をペリスコープ越しに見守ること数分、リアシュがにこやかな顔でカヴェナンターに戻ってきました。
自己紹介も程々に、次のチームの元へと向かいます。その車内で、リアシュがアコの耳元に口を寄せ、スーパー・パーシングの方を見るように指示しました。アコは言われた通り、そちらを見ます。実際に見るとやはりゴテゴテしていて、見れば見る程奇妙な戦車です。まあ、林道西端のチームISSの戦車ほどではありません。
「ほら、ご覧になって。砲の上に二本、筒のようなものがありますでしょう?」
見れば、確かに砲塔の前部、砲の付け根の辺りから見慣れないものが伸びています。伸びているのですが、伸びているのは分かるので、その耳元で囁くように喋るのをやめていただきたいです。本当はやめてほしくないので口には出しませんが。
リアシュは、先ほどは語れなかったスーパー・パーシングについて語るつもりのようでした。
「元々アメリカの中戦車であるT26パーシングは、50口径90ミリ砲を装備していました。これはドイツのティーガーⅡの56口径8.8センチ砲と同等の性能を持っていたのですが、ご存じの通りティーガーⅡの最終砲は71口径です。そこで対抗して、威力を上げるために70口径の90ミリ砲を載せることになったのですわ」
確かに、ペリスコープの中のスーパー・パーシングの砲は明らかに車体からはみ出しており、その砲が長砲身であることがわかります。しかし、耳元がこそばゆくて話が半分も頭に入ってきません。
「しかし、その大きすぎる後座反動を抑え込むには砲架の駐退機だけでは足りませんでした。そこで、砲塔の外にバネを装着してしまったのですわ!つまり、あの二本の筒の中にはコイルスプリングが巻かれていて、射撃時には砲を押さえるのです」
なるほど、奇妙な戦車に歴史あり、ですね。ですがアコは、耳元で加速していくリアシュの囁きに悶えないようにするので精一杯で相槌を打つ余裕もありませんでした。
「さらに!少し下、そう……車台の方もご覧になって……」
リアシュがそんなことを言いながら、ペリスコープのハンドルを握るアコの手をその上から包むように握ってきます。アコの脳は素数を数えるのに忙しいです。落ち着いてください、28も57も素数ではありませんよ。
「あの砲の付け根のところ、防盾ですわ。何かおかしく思えません?」
良い匂いがします。
「そう、滑らかな防盾の上に、平たい増加装甲がつけられていますわ。アレはドイツのパンター中戦車の前面装甲なのです。防盾、砲塔そのものの前面装甲がそれぞれ100ミリを超え、さらに80ミリの増加装甲を重ねた砲塔前面は、ティーガーⅡと遭遇したとしてもきっと抜かれることはなかったでしょう。アコ、聞いてます?」
「聞いてますっ!」
声量が大きくなってきたので、刺激は弱まりつつあります。アコにも、返事するだけの余裕がありました。
「車体前面にもパンターから切り出した増加装甲を纏っています。元の装甲よりも角度が急になっている為、よく見ると少し浮いているのがわかりますわ」
真横から見ると、確かに元の装甲の上から上下二枚の装甲が後付けされているらしく、さながら空間装甲のようになっています。
「いいですわよね、スーパー・パーシング。いかにも現地改装という感じで、ロマンがありますわ」
リアシュはそんなことを言いながら、ようやくアコの背中から離れていきました。
ホッと一息つきつつペリスコープから目を離すと、こちらを見上げるウドミの非難がましい目とぶつかりました。いやほんと、やましいことは微塵もありませんからね。
都合四チーム目である、「TSHB」と言う例の長砲身8.8cm砲を備えた改造戦車のチームは、15時22分現在、マップの位置と村の地形を合わせて見るに、村の中でも棚田と住居地帯の境辺りにいるようでした。三輌もの戦車が束になって向かっているというのに、動く気配もありません。
「そろそろ姿が見えてもいいんじゃないです?」
結託した三輌は、そろそろ該当地点に差し掛かろうとしています。左手側、北方には段々を成して奥に見える堤防方向に上がっていく湿田の広がる坂、右手には茅葺屋根の木造住宅が並ぶ比較的広い道を、縦隊で通行しているのです。前からスーパー・パーシング、カヴェナンター、ARL-44の順で車間数メートルを開けています。
しかし、ハッチから頭を出して一応の警戒がてらチーム「TSHB」を探すアコからは、戦車の影も形も見当たりません。よもやナギナギ達YNGとの時のようなことはないでしょうし、通りを一つ間違えたでしょうか?
リアシュも左手を口元に、グレーの単眼でマップを表示した板状情報端末と睨めっこしています。
周囲の建物は、それ以外の場所のいかにも農村といった感じの粗末な家と比べ、屋敷と呼んで差し支えないようなちょっと豪奢な建物が心なしか密集しているように思えます。塀も高く、右手に限った話ですが、視界も少々制限されています。
「あちらは戦闘するつもりなんじゃ……」
アコがリアシュの左目の隠れた横顔に呟くようにそう声をかけると、リアシュの少々歯切れの悪い返事が返ってきます。
「……先ほどの更新で距離100メートルを切りました。確かに、あちらに動きはないのですが……」
「隠れてるとは考えられませんか?」
「こちらは三輌、あちらは一輌です。選択肢は撤退か恭順の二つのはず……いえ、これは慢心かもしれませんわね。各車に警戒するよう伝えましょう」
そう言ってリアシュが腰を上げ、ハッチを開いた時でした。
リアシュの目の前で、カヴェナンターの右前方の民家が吹き飛び、同時に、カヴェナンターの前を走っていたスーパー・パーシングの砲塔右側面に炎の花が咲きました。




