1-B.53
「さて、説明しました通り、計画の第一段階としてまず、協力チームを集めますわ」
リアシュの取り出した板状情報端末を中心に車座を組む、CRSTの三人とYNGの二人。YNGの砲手は、ナギナギの言葉通り本当に出てきません。
「現在、チームの分布は北と南に二極化しています」
「きっと『A42V』が平野に居座ってるからね」
A42Vという名称は、YNGと共有しました。その笑える由来についてはあまりウケませんでしたが、一応、名称はA42Vで統一です。
「現時点での生存チームは10チーム。その内、6チームが北側にいます」
「それだけいれば十分ですね」
A42Vの脚は四対八本。脚を狙って倒すという計画を打ち出したリアシュは、片側の脚を三本破壊で八割方、四本で確実に転ばせることができるだろうと説明していました。詐欺と同じで具体的な数字を出されると納得しやすいですね。
「私たちを除いて4チームは、近い方から順に……」
マップで現在地から一番近い点をタップし、表示された名前を名簿で見つけ、その搭乗戦車を見たリアシュは、そこで動きを止めました。
「これは……スーパー・パーシング!」
アコも横から覗き込みます。
「ん?……なんというか……ゴテゴテしてて、変な戦車ですね」
「何を仰いますの!この戦車は……コホン、今はいいですわね。砲は、カタログ通りなら70口径90ミリ砲です。申し分ありませんわ」
アコの不用意な発言によって一瞬ヒートしかけたリアシュでしたが、YNG陣の視線に気が付いて咳ばらいをしました。
「次に近い『TSHB』は……これは、オリジナル戦車かしら?」
先ほどのスーパー・パーシングとやらの時と同じ操作をして二番目に近いチームの戦車を表示しました。
正直、変さで言えばスーパー・パーシングの方が変だったと思うのですが、それでも、アコにもわかる程度の違和感のある戦車でした。あるいは、ヴァレンタインを改造した経験のあるアコだからこそわかるものかもしれません。特に、その車台からはみ出した砲塔には見覚えがありました。
「砲塔は『ドイツ戦車の砲塔 Typ.B』ですね」
「では、長さから見るに砲は長砲身の8.8cm砲かしら。車台は……何でしょう」
そこで、灰髪糸目のピーチさんが口を挟んできました。
「どことなくⅡ号戦車に似ていませんか?」
「わかりますわ、きっとサイズ感などのせいだと思いますの。いえ、この履帯カバーなど、絶対に見たことはあるのですわ……」
寸刻、ウンウンと唸っていたリアシュでしたが、やがて嬉しそうにハッと顔を上げました。
「レオパルト偵察用軽戦車ですわ!」
そこで、ナギナギとピーチの面白そうな視線に気づき気まずそうにいつにもまして小さくなるリアシュ。可愛いですね。アコは、レオパルトの名前を冠する戦車が主力戦車以前にあったことを初めて知りました。
「と、ともかく。改造戦車であれば、砲は71口径8.8cm戦車砲と見て良いでしょう。こちらのチームにも声をかけましょう」
そして、その白魚のような指を水面に落とすように次に近い点をタップします。表示されたチーム名はMAGI。今は亡きピンクが所属する、IS-2搭乗のチームでした。ウドミが思わずといった風に声を上げます。
「まさか、こんな場所に?」
「ピンクは完全に別行動していたんですね」
MAGIのIS-2は、A42Vの爆撃の直後からあの林道を北東へ真っすぐ進んでいたようで、北の村落エリアの中央付近にいました。アコの言う通り、ピンク襲撃の時点でピンクとIS-2はまったく別の地点にいたことになります。ずっとソロでやっていたアコは、戦車から離れての単独行動というものに馴染みがなく面食らいました。
囁き合うアコとウドミにリアシュは、事情を知らないナギナギとピンクの両名に配慮してのことか頷くだけで済ませ、表示させた戦車、つまりIS-2についてコメントします。
「このIS-2とは既に一度交戦しています。砲は122ミリでしたわ。その……メンバーを一人キルしていまして、協力を取り付けられるかはわかりませんが……」
歯切れの悪いリアシュに、板状情報端末を覗き込んだナギナギがあ、と声を漏らしました。
「こいつよこいつ。スポーン地点がメチャクチャ近かったのよね。開始直後にいきなり撃ってきたの。こっちも撃ち返して戦闘開始と思ったのだけど、あの丘の上からA42Vが撃ってきて。それで、こいつらにも逃げられたの」
どうやら、YNG及びMAGIのスポーン地点はこの開けた村落エリアの中央で隣り合っていたようです。ハッキリ言って、ナギナギ達YNGがあのMAGIのIS-2と良い勝負をできたのかには疑問符が付きますが。
やはり、森林エリアでスタートしたCRSTは幸運だったのでしょうか。いや、その後のことを考えると頭を振って否定したいところですが。
「なるほど、A42Vは十三時半前後には南にいました。話を聞く限り、アレのスタート地点は島の中央、丘の頂上だったのかもしれませんわね」
そんな場所から睨みを利かせていたなら、序盤の動きが鈍るのも頷けるというものです。できればそのまま北の方にいてほしかったですね。
しかし、MAGIについてはCRSTもYNGも交戦経験アリということになります。協力は絶望的かもしれない、とアコは思いました。
リアシュも同意見なのかMAGIへの言及はそれまでに、最後に残ったマップ最西端に鎮座する点へと指を運びます。表示されたチーム名は「ISS」。宇宙と関係がありそうです。その搭乗戦車を表示し、その場の全員が首を傾げました。
「……見覚えがありませんわね」
全員の困惑を代表して声にしたのはリアシュ。彼女が見たことがないというのですから、それはもう存在しないかまたは異世界の戦車なのではないかと思われますが、その戦車の見た目は、そう言われても腑に落ちてしまうほど奇抜なものでした。
「なんだか機関車みたいね」
ナギナギがそう言います。確かに、後ろから見るとそう見えないこともありません。前面ではなく後面ですが、蒸気機関車の特徴である丸い缶のような構造も見られます。極め付きが、その頭に生える煙突のような突起。ただし、繰り返しになりますが、蒸気機関車のように見えるのは砲塔の向きからして戦車全体を後ろから見た時です。
車台の前面は、奇妙に段差がついており、その切り立った装甲はまるで避弾経始というものを知らないかのようでした。全体的に角ばっている割には砲塔は丸いデザインで、しかも車台が異常に大きいせいで砲塔が小さく見え、際立って不釣り合いです。
極めつけに、下半分だけ赤色で上は黒色という一体どういう効果があるのかすら不明な謎の塗装を纏っています。
「この砲塔……九七式中戦車の新砲塔に見えます。あら、一式中戦車だったかしら……?申し訳ございません、日本戦車にはあまり明るくありませんの」
会って間もないナギナギ達すら、既に嘘をつけという目でリアシュを見ています。明るくない人は、そもそも砲塔を見て戦車を判別することなどできないのです。
「まあ砲塔がわかるなら砲もわかるじゃないですか」
「ええ、その通りですわね。記憶が確かなら、四十七粍砲であるはずです」
「47ミリ……遠いし、声はかけなくていいんじゃない?」
マップ上での直線距離は決して遠くはないのですが、このチームの現在地はCRSTも通った林道の最西端。あそこまで行くには、先ほど抜けたばかりのトンネルを戻って神社のあった岩山をもう一度越えるか、岩山を東に迂回して林道に出て西へ進むかの二択。ナギナギの言う通り、遠い道のりでした。
「そうですわね。他の三チームが一つも協力してくれなかった時の保険くらいに思っておきましょう」
知らぬ間に要らない子扱いされた謎の戦車のチームは、林道の最果てで一体何をしているのでしょうか。




