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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
77/159

1-B.52

 カヴェナンターに比べ、その砲を向けられながらバックするARL-44の動きはノロノロとしたものでした。リアシュ曰く、牽引の提案は断られたそう。

 先行してトンネルから出たカヴェナンターの装甲を、数分ぶりの日光が照らします。乾いた地面も数分ぶりです。砲口をトンネルに突っ込みつつARL-44を待ちがてら、アコはハッチを開いて周囲を見渡しました。

 そこは、山間の道路でした。ただし、トンネルの向こう側のような未開の地ではありません。眼前には、村落と言う言葉の似合う家々と水の張られた棚田が織りなす田園風景が南北に広がっていました。水田にはよく見れば、点々と苗が植わっているのが見えます。ちょうど、リアルでも田植えの季節です。

 マップ的には平野に分類されるのでしょうか?平野と言うには高低差がありますが、かといってこれを都市マップだと言われたらそれはそれで納得が行きません。

 トンネルの入り口は民家と木々によって巧妙に死角となっており、ナギナギとか言う無音人間みたいな名前をしているらしい黒髪少女率いるYNGが発見にまごついていたのも頷けました。

 カヴェナンターが今停車している道路は、この村の裏山の山肌に這うようにして通っているようです。どうせ無人でしょうが、用水路やら水車やらといったオブジェクトが村のそこかしこに配置され、生活感が演出されていました。視界の奥に行くにつれ地面は高くなっていき、そんな傾斜を埋め尽くすように棚田が広がっています。

 そしてそのさらに向こうに、凄まじい重厚感を携えたコンクリートの大壁が数えて五枚、横に並んでそびえたっていました。一見ダムのようですが、間違いでもありません。これが、マップに記されていた北の堤防でしょう。つまり、CRSTはようやくマップ北端に辿り着いたということになります。

 砲手がそっぽを向いている間にも、砲口を向けられながら頑張って後退していたARL-44が、今トンネルから出てきました。

「最っ悪の地面ね!ぐちゃぐちゃでスタックしそうになったわ!」

 このような文句付きで。

 スタックとは、車などのタイヤが泥濘にはまって動けなくなってしまう状態のこと。無限軌道を装備している戦車にとっても現実的な脅威です。

「動けなくなられては、困りますわね」

「支持転輪が割れてるんですから、履帯が緩んで外れやすくなってるのかも」

 ウドミとアコのそんな会話を聞いていたリアシュが、ふと思いついたとばかりに顔を上げ、ハッチから出ていきました。

 向かった先は、全身をトンネルから出したばかりのARL-44。日の下で見るとその砲塔前面には凹みが一つ見つかり、CRST以外とも交戦していたことがわかりました。そんな砲塔の上、円形ハッチから頭を出しているナギナギが良く言っても怪訝、有体に言えば不審そうな目を向けます。

「なんか用?」

 リアシュはARL-44の泥だらけの足元左前を指しながら、朗らかに言いました。

「その転輪を不安なく動けるくらいまで直しますわ。『鬼』……A42Vとやり合う時にも不便するでしょうから」

 ちょっと目を見開いて、困惑と驚きを同時に表現したナギナギは、程なくしてそっけなく言いました。

「……そ。じゃ、よろしく」


「おお……」

 ものの10分で見た目はほとんど元通りのARL-44の転輪を前に、アコは感嘆の息を隠せませんでした。操縦席から出てきてリアシュを手伝っていたウドミ、ARL-44の操縦席から出てきた向こうの操縦手と思しき灰髪の女性アバターもまた似たようなリアクションです。

 修理中に、何故かピンクの置き土産の手榴弾を内緒で所望されたのは不思議でしたが、それはともかくとしてナギナギもまた満足気でした。

「へえ、なかなかやるじゃない!」

 ナギナギがそう言い放ちます。リアシュに対する横柄な態度にウドミがムッとした様子を見せましたが、アコは結構好きですよ、このナギナギと言う少女。どことなく母方の従妹を思い出します。

 フロアジャッキを回収し、額を拭いつつ振り返ったリアシュは威張るでもなく謙遜するでもなく、淡々と答えました。

「出来は保証します。信頼の為、これくらい当たり前のことですわ。背中から撃たれてはたまりませんもの」

「嫌ねえ、そんなことしないわよ!」

 快活に笑うナギナギを、リアシュがニコニコしながら見ています。単純で助かりますね。

「紹介がまだでしたわ。こちらがウドミで、あちらがアコです」

「よろしくお願いしますわ」

「お願いします」

 ペコペコと二人が頭を下げるのを見て、よろしく!と返事をしたナギナギは、今度は自分が振り返り、灰髪糸目の女性を指さしました。

「これが、ウチの運転手のメ……じゃなかった、なんだったかしら?」

「ピーチ、です」

「そうそう、「ピーチ」。で、戦車の中におじい……じゃなくて、えっと……まあいいわ、どうせ出てこないもん。臆病なんだから。ともかく、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 ピーチとは、意外と可愛い名前してますね。長い体躯を腰で折って丁寧にお辞儀する糸目の女性ことピーチに、アコもよろしくお願いしますと返事しました。

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