1-B.51
ARL-44の高い車台に正立するリアシュの眼前数メートルのところに、ハッチから上半身を現す黒髪の少女。それぞれの位置及び身長によってリアシュが見上げる形になりますが、リアシュは物理的に見下ろされることに対して好きも嫌いもありませんでした。
黒髪少女の他に、誰かが出てくる気配もありません。操縦席は砲塔を挟んで前方であり、少女が車長とすれば、砲塔には少なくとももう一人砲手がいるはずでしたが、そちらも車内で待機しているようでした。
その鋭い黒目で、挑戦的にこちらを観察する彼女に対し、口火を切ったのはリアシュでした。
「ご機嫌よう。あなたがそちらの車長ですわね?……なんとお呼びすればいいかしら?」
「……ナギナギよ。車長であってる」
不遜に答える黒髪少女改めナギナギは、威圧的な眼光をさらに強めて反問します。
「それでアンタは?何しに出て来たの?」
その視線がツイと動かされ、今もARL-44の車体に突き付けられるカヴェナンターの砲口に向けられました。
「私はリアシュ。CRSTの車長ですわ。交渉をしに来ました」
「脅迫じゃなくて?」
「どちらでも構いませんわ」
不敵に微笑むリアシュに、ナギナギは苛立たしそうに唇をヘの字に曲げます。どうやら、思ったよりも感情を表に出すタイプのようです。
「あの『鬼』は見まして?」
「『鬼』?……ああ、あのデカいやつね?アイツのせいで一度、獲物を仕留め損なったわ!」
唇を今度はイの字にして文句を垂れる姿は、リアシュやアコたちより年下かもしれないと思わせました。
「その『鬼』を倒す方法があります」
ナギナギはへえ?と、目を細めて首を傾げます。リアシュは行けると判断し、畳みかけました。
「協力、いただけますかしら?」
「戻りましたわ」
左手が挙がることも背中を撃たれることも無く、リアシュがカヴェナンターに帰ってきました。
「おかえりなさい」
「どうなりました?」
始終盗み聞きをしていたアコたちでしたが、素知らぬ顔でそう尋ねます。リアシュはそんなことも知らずに、無邪気に成果報告を始めました。
「交渉成立ですわ。扱いには十分注意したいところですが……向こうも、A42Vの排除に意欲があるようでした。まずは信頼関係を築く方に注力するべきでしょう」
とはいえ、A42V打倒の暁には即、袂を別つ程度の関係です。リアシュの「信頼関係」と言う言葉は皮肉気な口ぶりでした。
「さて、ここを出ますわよ」
ウドミがレバーを握りなおします。カヴェナンターは、トンネルの出口を目指して前進を始めました。砲塔は後ろを向いたまま、水をかき分けて光を目指します。
「さて、A42Vを倒す計画をお伝えしますわ」
アコもウドミも、彼女がナギナギに説明する所を聞いていたので復習となりますが、アコはむしろあれが予習だったと思って聞くことにしました。
「A42V、アレには致命的な弱点が用意されていますわね?」
「多脚、ですか」
一発で正答して見せたアコに、リアシュが驚きの表情を浮かべます。いいですよ、予習の成果が出てますよ。
「そう、その通りですわ。あの『鬼』は、T34重戦車の120ミリ砲を防ぐ防御力を持ちながら、脆弱な脚部を晒しています」
アコは、堤防の上から見たT34重戦車とA42Vの対決を思い出しながら頷きました。これは、さながら復習ですね。
「チームMMAIのTKを覚えておいでかしら?あの時、あのチームはシモノフ対戦車ライフルでA42Vの脚を狙っていたように見えましたわ」
急に難易度の上がった復習に一瞬フリーズしつつも、何とか思い出しました。丘越しに見たあの戦いですね。確かに、第二射はやけに急な角度で撃ち下ろされていました。あれは脚を狙っていたということでしょう。
「きっと攻略方法に思い当って、試してみていたのでしょうね。流石に対戦車ライフルではダメだったようでしたが」
なるほどですね。頭のキレる人は、あのワシャワシャを見たらそういうアイデアをすぐ思いつくものなのでしょうか。
「てことは、脚を狙って倒してしまおうってことですね」
「そうなりますわ。しかしその為には戦車一輌でも、二輌でも足りません」
「それで、協力を呼び掛けるんですね」
「ええ。そうですわね」
「まずは二輌で一輌に協力を迫り、次は三輌で一輌に、その次は四輌で……と言う風にしていくんですね」
「ええ……ひょっとして、聞いていました?」
おっと、予習が仕事しすぎましたね。
「あ、そろそろ出口ですよ!」
会話を切り上げハッチを開いて振り返るアコの視線の先に、明るい点が見えました。トンネルの終点です。




