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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
75/159

1-B.50

 水の溜まった狭いトンネルに二輌の戦車。一方はその長砲が壁に突っかかって身動きが取れず、もう一方がそこに砲口を突きつけています。砲口を突きつけている方の戦車、カヴェナンターの車台前部に取り付けられた箱型灯が癖になる効果音と共に点灯し、ARL-44の明るいグレーの塗装を施された装甲を照らし上げました。

 ARL-44の車台が身じろぎするようににじり動き、カヴェナンターから見て右側の壁に寄ろうとします。砲塔を旋回させ、カヴェナンターを撃つためでしたが、今度は出っ張った砲塔のお尻が引っかかりました。

「あれ?おかしいな……動いてますね」

「履帯の損傷は軽微に留まったようですわね。運の良いこと……」

 どうやら、アコの放った徹甲弾は履帯を切ることも無く、支持転輪一枚にヒビを入れただけで貫通してしまったようです。

 とは言え、この直後、アコが今指をかけている引き金を引けば退場する戦車です。関係ありませんね。そんなことを思っているアコの横で、リアシュが呟きました。

「むしろ好都合ですわね」

「好都合?」

 怪訝な顔で見上げるアコをリアシュは魅力的な笑顔で迎え撃ち、さらに衝撃的な発言をしました。

「これからあのチームと交渉してきますわ。照準、外さないでくださいましね」

「……ほぇ!?交渉ですか?」

「待ってください!危険ですわ!」

 虚を突かれ間の抜けた声が出たアコとたまらず制止するウドミを目で制しながら、リアシュは説明を始めます。

「A42Vを破壊するために協力するよう伝えてきます。二人はここにいて下さい」

「え、アレって倒せるんですか?……というか、危ないですって!」

「見たところ機銃系の装備は砲塔前部の同軸が一挺。暗所ですし、そこまで危険ではないはずですわ」

 BCSにおいて、チーム同士の協力自体は珍しいことではありません。CRSTが序盤に遭遇したような、P43重戦車と白いBT-42突撃砲のような例もあります。とは言え、状況が状況でした。

「では、私たちが一緒に……!」

「その方が余程危険です。二人は、交渉相手のこめかみに銃剣を突きつける役を頼みますわ」

「なら、私が行ってきます!」

「……私が、最も適していると判断しました」

 言外に交渉できないでしょうと告げられ、それはそうなのでアコは黙りました。

「私が脱落することのリスクは、自分で良く分かっているつもりですわ。それを天秤にかけても、あの90ミリ砲はA42V攻略に必要なのです。それに、死にに行くつもりはありません。十分に安全だと、考えていますわ」

 貴女たちに背中を任せているのですから、といつもの笑顔で言われては、アコは反論よりも口元を引き締めるのに忙しくなってしまいます。

 顔を見合わせたウドミとアコは、どちらからともなく諦めの笑いを漏らしていました。

「わかりましたわ」

「それで、どうすればいいんですか?」

 そんな二人にリアシュは表情を改めて、指示を出し始めました。

「アコは、私が合図……左腕を挙げたら、敵戦車を撃ってください。いえ、合図がなくとも危険だと判断したら、撃破してしまって構いません」

 アコは神妙に頷きました。左手が挙がったら撃つ、アイムオッケー。この至近距離です、撃ちさえすれば必中かつ撃破確実でしょう。

「ウドミ、交渉が決裂した場合に私の回収、万が一の場合車体を盾に支援、最悪、撤退などをお願いします」

「……了解ですわ」

 頷いてそう言ったウドミに頷き返し、リアシュはハッチに手をかけました。


 腰まで水に浸かりながらARL-44によじ登って呼びかけたリアシュに応え、円形ハッチを横に開いて顔を見せたのは、意外にもと言うべきか可憐な少女でした。日の光の下で見たら違うのかもしれませんが、濡れ羽色という形容詞の似合う綺麗な長い黒髪を切り揃え、前髪には古き良きエアインテーク。背丈はリアシュよりは当然高くアコより少し小さいくらいでしょうか。

 煌々と灯るライトに目を細めつつも、その立ち振る舞いには気品が感じられました。まあ、中にどんな人がいるかは分かったものではありませんがね。

 アコは、照準は戦車の横っ腹そのままに、ペリスコープで様子を見守ります。リアシュが口を開きました。

「「たのもう、貴君がこの戦車の車長なれや?」

「左様、わらわが車長である。ひれ伏すが良いぞ」」

「ちょっとアコさん、リアシュ様はそんな口調ではありませんわ!」

「冗談ですよ、すみません」

 リアシュとARL-44の車長は何か話しているようですが、カヴェナンター車内からではせいぜい二人の口の動きを観察するくらいのことしかできません。もちろん、持ち場を離れるわけにも行きませんしね。

「あっ、今あの子がこっち見ましたよ」

 ウドミは操縦席から目を凝らすようにして窓を覗き込んでいます。ペリスコープがある分、アコの方がマシかもしれません。

「……「あの『鬼』は見まして?」

「ああ、デカいやつね?アイツのせいで一度、獲物を仕留め損なったのよ!」

「その『鬼』を倒す方法がありますの」」

 ウドミが、ARL-44の車上の二人を見上げながら、朗々とそんな風に一人芝居を始めました。リアシュの声真似が異常に上手いですが、内容も至極真っ当です。よもやアコのように口から出まかせではありますまいし、もしやそれは、映画などで良く見るアレなのでしょうか?

「……まさか、読唇術ですか?」

「いえ、微かにですが聞こえていますわ」

「えっズルい!」

「しっ、静かに……」

 憮然としつつも押し黙るアコと、耳を澄ますウドミの注目の集まる中、リアシュとARL-44車長による交渉が始まりました。

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