1-B.49
しばらく辺りをウロウロしていたチームYNGのARL-44は、一度遠ざかっていき、どうやら上の山を下りて、ついにトンネルの入口を見つけたようでした。CRSTから見ると出口であるその入口の前で立ち止まったARL-44でしたが、そうしていたのはほんの一時で、なかなか剛毅な性格をしているらしい敵車長は突入を選択したのでした。
一概に無謀と断じることはできません。こちらから見える情報はあちらからも見え、つまりこちらの戦車がカヴェナンターであるということは相手にも知られているのです。前面100を越える装甲を持っているのですから、こういう狭いフィールドになら喜んで乗り込んでくるでしょう。ただし、トンネルが直線でなかったことを踏まえると、拙い判断であったことには疑いの余地がありませんでした。
耳を澄ませていると、ジーーーー、カン!というライトの点灯音が響いてきます。板状情報端末の時刻表示を見ていたリアシュが、ウドミに心なしボリュームを落とした声で指示を出しました。
「そろそろ左の壁沿いに移動して前進を。ゆっくり、気づかれないように」
「はい」
ウドミはレバーを前進に入れて、トンネルを斜めに渡って左の壁に車体を擦りつけながらソロソロと出口方向へ進み始めます。
この行動は、相手もマップの位置情報を確認しながら行動していると推測しての引っかけでした。位置情報の更新直後すぐさま移動し、表示される位置情報と真の位置情報とのギャップで欺いて不意打ちするのです。
前方から、ARL-44の照らすライトの明かりとバシャバシャという水音が近づいてきました。なお、カヴェナンターは灯火管制中。
リアシュが、アコに顔を寄せてアドバイスをしてくれます。
「まず狙いたいのは砲塔側面ですが、これは難しいでしょう。しかし、素晴らしい弱点を晒していますのでそこを狙ってください」
「弱点ですか?」
「ARL-44の履帯は、チャーチルやブラックプリンスと同じように車体から出っ張っています」
アコは、リアシュが板状情報端末に表示させたARL-44の画像を見ながら相槌を打ちました。イギリスの歩兵戦車達と違い、履帯全体をカバーするスカートもないので、前後の支持転輪が露出しています。
「至近距離からならば、斜めから狙うことができるはずです。もし正面から撃ち合うときも、履帯を狙うことができれば簡単に動きを奪えます」
「しかし、一撃で仕留めなければ90ミリ砲で叩かれるのでは?」
「その為の閉所です。ARL-44の90ミリ砲は65口径。砲だけで、全長六メートル近くあります。懐に飛び込んでしまえば狙われることはありませんわ」
「なるほど」
アコの納得を見てとったリアシュは体を離すと、最後に付け加えるように言いました。
「そして、これはあまり意識しなくても構わないのですが、できれば……」
「できれば?」
「撃破しないように、あるいは撃破直前で寸止めするように、お願いします」
「……やってみます」
リアシュは続けてその発言の意図するところを説明する気でいたようでしたが、残念ながら時間切れでした。大分近づいてきたARL-44の履帯の音にアコがピクッと反応したのを見て、リアシュも顔を上げてペリスコープに右目を当てます。
「そろそろ停車した方が良いでしょうか?」
「アコがその方が撃ちやすいなら……」
ちょうど、位置情報更新の十秒前です。ランデブーとどちらが早いかと言ったタイミングですし、それならば止まって確実に撃ちたいとアコは考えました。
「ではお願いします」
「了解ですわ」
もともとノロノロと微速前進に留まっていたカヴェナンターの動きが、制動もなくピタッと止まりました。
アコが照準器を覗き込みます。リアシュの言った履帯側面を狙う想定で俯角を取りつつ、徐々に近づいてくる光源が左前方の壁から現れた瞬間に撃ち抜けるよう、照準します。
そして、ARL-44の左右二つあるうちの向かって右のライトがカヴェナンターの車体を照らし上げたと同時に、アコは引き金を引きました。
まんまと騙されてカヴェナンターが右の壁沿いにいると思っていたらしいARL-44は、砲も右向きなら車体も通路全体の右寄りで、トンネルの左曲がりも相まってドンピシャに履帯の内側側面が晒されています。
螺旋を描き飛翔する砲弾は狙いに寸分の狂いなくライトの右下に着弾し、120ミリが45度に傾斜して都合実質170ミリ程度となっている装甲に跳ねて真横、履帯の前部支持転輪を貫きました。
「全速、発進!」
こちらの姿を認めたARL-44の砲が旋回を始めますが、走り出したカヴェナンターは盛大に水を跳ねながらARL-44に肉薄します。
「左に滑り込んで!」
時速60キロを出しつつも遠心力に負けず左の側面装甲と壁との間で火花を散らせながら進むカヴェナンターを、ARL-44は捉えることができません。通路外側を向いているその車体と左の壁の間に自身の体を捻じ込んで、ARL-44を撥ね飛ばす勢いで無理にすれ違います。
そのまま直進して右の壁に衝突する寸前で停止。アコは砲塔を天から見て反時計回りに旋回させます。当然、その間にARL-44もまたその大口径長砲身を載せた砲塔を慌てて時計回りしますが、90ミリ砲の砲口が壁につっかえてそれ以上回りません。
アコは、完全に無防備を晒すARL-44の砲塔後部を照準に収めました。




