1-B.45
「今度こそ、本当に、やりましたわね」
板状情報端末で「PINC」の表示が灰色に変わったのを確認したリアシュが、吐息交じりの声でそう言いました。負傷した左目は、見苦しくないようにとの配慮で眼帯のように巻かれた白い布によって覆い隠されています。正直、ちょっとカッコイイです。
一人カヴェナンターを下りたアコは、ピンクが退場して行った辺りの敷砂利をブーツのつま先で弄ります。何が残っているわけでもなく、何となしの行動でしたが、陽光を反射して煌めく手榴弾の安全ピンを見つけてしまい、苦い顔で砂利をかけて隠しました。
妙な脱力感があります。まだBCSは佳境にようやく差し掛かろうか、いやまだまだこれからかと言ったところですし、十分にも満たない、しかも対戦車でもない戦闘にこれだけ疲れているわけにはいきません。しかしカヴェナンターのハッチから、残ったグレーの右目で青空を見上げるリアシュも、操縦席から腕を伸ばして車体に引っかかった燃え尽きた発煙筒を払い落とすウドミも、似たような調子でいました。
ただし、やはりと言うべきかリアシュがいつまでもそうしているわけもありませんでした。
「さて、本来の目的を果たしますわよ。アコ、宝物殿で地雷を見つけたと言っていましたわね?」
「ああ、はい。多分、対戦車地雷が……大量に」
「対戦車地雷。そうでしたわね、恐らく必要なものですわ。骨が折れますが、回収しましょう」
一行は、十分ほど前にアコが、今はピンクによってどこかに投げ捨てられてしまった金切り鋸で無理矢理開けた金属製の重厚な扉を押し開けて薄暗い宝物殿に足を踏み入れます。古めかしい兜の横を指してここにあの太刀があったんですよとか言ったり、仏像を見上げながら神仏習合についてのありがたいご教示を賜ったりしながら、三人はステンレスのケース箱の前にたどり着きました。相変わらず、中には分厚い金属と爆薬の塊が横積みされています。
「物騒ですわね……」
アコと似たような感想を述べながら、リアシュが一つを持ってみようとして、当然できませんでした。代わりにウドミが一つを引き抜いて掲げる地雷を観察しながら、リアシュが首を捻ります。
「こんなサイズの対戦車地雷には、ちょっと見覚えがありませんわ。まあ、きっと私が知らないだけでしょう……」
そんなことは恐らく無いので、今BCSオリジナルのものだろうとアコは思いました。
「恐らく、圧力式……磁気吸着などの複雑な機構を備えているようには見えません」
リアシュは円盤中心の突起部分を撫で回します。ネジ蓋のようになっているみたいです。
「ここが安全装置かしら?ゆるめると感圧機構が作動するようになりますのね。実物より簡略化されているのでしょうが、信管本体に安全器が無いのは恐ろしいですわ」
「いくつ持っていくのですか?」
アコと共にいそいそとバックパックを展開しつつ、ウドミが床に置いた対戦車地雷を分解し始めたリアシュに問いかけます。
ケースには、一列20個ちょいが五列でざっと100は下らないだろう数の対戦車地雷が並んでいます。仮に残り十数チームを全てこの地雷で倒すとしても、一列分もあれば十分でしょう。
「そうですわね、半分で足りるかしら」
「そんなにですの?」
「本当は全部持っていきたいところですけれど、嵩張るものですし」
一つ5キロ強として、100個もあれば500キログラムです。今回持ち込んだ砲弾の重量にすら匹敵します。地雷原でも作るつもりでしょうか?
アコとしては、個数の他にも気になっていたことがありました。
「そもそもこれ、そのまま持ち運んで大丈夫なんですか?被弾、誘爆、ビックリ箱の流れになりかねないんじゃ……」
「わざわざ安全装置がついているのだから、少なくとも誤作動を起こすということはないのではなくて。誘爆についても、バックパックに入れておけば大丈夫なのではないかしら。手榴弾をパンパンに詰めた状態で狙撃しても誘爆しないと聞いたことがありますわ」
どうやら、PBOにおけるこのバックパックはアコが思っているよりも四次元な仕様になっているようです。
「それでは、二列分を持っていきましょう。少し急ぎますわよ」
先陣を切って一番手前から地雷を引っ張り出そうと危なっかしく背伸びするリアシュをアコとウドミで押しとどめました。
先ほどの手榴弾で被弾した背中に数十キロ分の爆発物の入ったバックパックを背負い、カヴェナンターと宝物殿を行き来すること四往復、ようやくなんとか棚の半分が空になりました。七往復したウドミと二人合わせて十一往復分、40個の対戦車地雷が、今このカヴェナンターに積まれていると思うと少々緊張感があります。
砲手席で疲労困憊を絵に描いたような姿勢で溶けているアコは、横で申し訳なさそうにしているリアシュに顔を向けました。
「それで、残りはどうします?処分ですか、それともブービートラップですか?」
手榴弾ならあるでしょう、とピンクがカヴェナンターに仕掛けていったというのを思い出しながら尋ねます。リアシュは無事な左手を口元にやりながら、答えました。
「……いえ、そのままにしておきましょう」
そして、続けてウドミに言います。
「もうここに残る意味はありませんわ。出発です」
「はい」
カヴェナンターは、背後に無惨を晒す拝殿と何とか形の残った本殿、錠以外は無傷な宝物殿を残し、石段を滑り降ります。アコは、遠ざかっていく石垣を、見納めとばかりに暫く見つめていました。
参道を東へ走る途中、ふと右手を見たアコの目に、あの急な石階段へ続く脇道の先で、小さな鳥居だったものが根元から折れているのが見えました。カヴェナンターを停めていた場所でした。




