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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
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1-B.43

 車上のピンク振り落とそうとするウドミによって、ようやく煙幕を振り払ったカヴェナンターは大幅に蛇行しながら御神木を旋回し、本殿の横を通り抜けます。しかし、当のピンクの力はこゆるぎもせず、アコの渾身の踏ん張りをも跳ね除けながら、少しずつカヴェナンターを守る最後の防壁であるハッチをこじ開けようとしています。

 アコの背後には、先ほどの被撃で軽度の脳震盪判定が出ているようで、まだしばらく動けそうにないリアシュ。脳震盪判定とは一時的な行動制限で、定期的に短い操作不能状態になる状態異常です。アコ一人で、やらなければなりません。

 姿勢はハッチを押さえつけたままに車内に視線を巡らせますが、ピンクが車内に入ってきたとき武器になりそうなものは限られています。

 ボーイズ対戦車ライフルは振り回すことさえできれば十分な鈍器になりそうですが、そんな筋力はありませんしだいいち車内ではとても取り回せない長物です。ボーイズの他に、バックパックの中には細々としたものが入っていましたが、そもそもバックパックから即座に何か取り出して応戦するというのが無謀に思われました。

 あとは、アコの自前のストレージに何か使えそうなものがあるかもしれません。何か刃物でもあれば、即座に手元で実体化させて使用することができます。お気に入りの鉈は折り畳まれているので展開が間に合うか怪しいところ。それ以外ではもう一つ、つい先ほどまで使っていたもので武器になりそうなものに心当たりがあります。

 そうこうしている間に、開いたハッチの隙間は腕一本くらいなら通りそうなほどに広がっていました。そこからピンクの腕が伸びてこないのは、彼女の腕がハッチにかけられている右腕一本しかないからに他ならず、アコはピンクが今隻腕であることに感謝せずにはいられませんでした。もっともピンクの左腕が健在であれば、このように粘ることも許されず、今頃ハッチは全開だったのでしょうが。

 それでも、ハッチの向こうに見える青空はどんどん面積を増しており、アコも限界が近いことをわかっていました。やるしかありません。

 両手をハッチから離します。当然、アコの両腕によって押さえられていたハッチは大きな音を立てて全開になりました。その向こうには、これもまた当然と言うべきか、ピンクの口角の吊り上がった顔面と、重力に従ってこちらに垂れてくるツインテール。いきなり開いたハッチにもんどりうって転げ落ちてくれれば話は楽だったのですが、そんな甘いことは起こりません。

「もう諦めちゃった?♡根性無し♡」

 逆光によって闇を纏ったかのような迫力を醸すピンクの顔面の、その怪しく光るゴーグルを鋭く見上げ返しながら、アコが手元で実体化させたのは愛用のマスターキーこと、金切り鋸でした。

 空中に出現した金切り鋸のシックな黒のグリップを左手で順手に掴み、投げ渡すように右手に持ち替えて左手を添えます。狙うのは、屈みこんだピンクのちょうど差し出されたような位置にある首。失血による即死判定を出させて見せます。

「死んじゃえっ!」

 裂帛の気合と、それに反し少々気の抜ける語彙と共に繰り出された金切り鋸が、ピンクの首筋に迫ります。左腕を失っているピンクに防御手段はありません。こちらを嘲るような笑みを浮かべるピンクの口元が、その余裕をかき消します。

 油断するからこういうことになるのです。これはもう完全に決まりました。アコの勝利はゆるぎないものです。その首貰い受けましょう。

 完璧な軌道でピンクの首をなぞらんとする金切り鋸を見つめながら、アコはやはり自分には剣術の才覚が眠っているのではないかと、そんなことを思いました。

 しかし。金切り鋸がピンクの首の皮に届こうとする、その瞬間、アコの金切り鋸は止められていました。アコの両手が塞がってさえいなければ刮目していたところだったでしょう。金切り鋸の刃を阻んだのは、ピンクの歯でした。金切り鋸は、頬の肉を切り裂きながらも、ピンクの歯によってガッチリと止められていたのでした。

 咄嗟に金切り鋸を戻そうと力を込めますが、ビクともしません。押しても引いても駄目です。これがチェーンソーならなどというぶっ飛んだ考えが頭をよぎりますが、時すでに遅し。

 瞠目するアコから、ピンクは顎を振るって金切り鋸を奪い取ります。しっかりと握っていたはずでしたが、金切り鋸はアコの両手をするりと離れ、首の動きだけで後方へ放り捨てられてしまいました。次の相棒はチェーンソーで決まりです。

 ピンクは裂けた口の端から負傷エフェクトを滴らせつつも、いつもの調子で鼻につく笑いを浮かべます。

「真剣白歯取り♡なんつって♡」

「やかましいわ!」

 思わず声を荒げるアコの側頭を、左から振るわれた消防斧の折れた柄が殴り飛ばします。アコは、たまらず車内へ転げ落ちました。

「ぐっ!」

 偶然にも砲手席に尻もちをついたアコが見上げる先で、最後の番人を片付け、消防斧の柄もどこかに捨てたピンクがその右腕を車内へ伸ばしてきます。

「バイバイ♡」

 その時、操縦席のウドミが叫びました。

「アコさん、リアシュ様を押さえて!」

 アコは、その言葉に一も二もなく従いました。車長席でタイミング悪く行動不能ピヨッているリアシュの体に覆いかぶさります。

 それと、ウドミがレバーを勢いよく後ろに引くのが同時でした。

 時速60キロからの急制動による凄まじい慣性力がアコの体に働きます。そして、その力はハッチにも同様に働きました。

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