1-B.39
リアシュが渡した回復アイテムのエフェクトで淡く発光中のウドミが操縦席に、アコとリアシュがハッチから砲塔に乗り込み、いつも通りそれぞれの席につきます。しかし、やることはいつもと少し違いました。
アコは榴弾の装填。このBCSが始まってから何度もやったので、もうそろそろ慣れつつある作業です。
そして、アコの右に座るリアシュと操縦席のウドミは機関銃の準備をしています。PBOを真っ当な戦車対戦ゲームとして遊んでいれば、ほとんどお飾りでしかない車載機関銃。実際、アコのバレンタイン歩兵戦車の機関銃もとっくの昔に撤去してしまいましたし、それで困ったこともありません。
ですが、カヴェナンターは副武装としてブローニングM1919重機関銃を主砲の横に同軸機関銃として一挺、操縦席にちょっと無理矢理な感じでもう一挺の、計二挺積んでいます。せいぜい同軸の方を弾道予測に使うくらいかと思っていましたが、まさかこういう場面で使うことになるとは。弾も、それぞれ1000発ずつ持ってきています。
リアシュは手際よく箱型の機関銃上部のカバーを開き、給弾トレイに弾帯を乗せてカバーを閉じます。それに少し遅れて、ウドミも準備完了を告げました。
「では、掃射始め!」
リアシュの号令と共に始まる、連なった銃声。次回までに耳栓か耳当てを用意するべきか考えさせられる、凄まじい騒音です。ボーイズ対戦車ライフル用という意味でも真剣に検討したいです。
二挺の機銃が、合わせて毎分1200発のペースで弾丸を送り込む先は、ピンクが突っ込んだ拝殿。アコの対戦車ライフルでの破壊など比べるまでもない、圧倒的な暴力が、拝殿の浜縁を、板戸を、瓦葺きの軒を破壊しつくします。
「砲塔を動かしてください!」
音の嵐の中で、真横にいるリアシュが声を張り上げたのが聞こえました。一点だけ撃っていても意味がないので、拝殿を満遍なく撃てるようにせよということでしょう。アコは首振り扇風機の気持ちを理解しながら、砲塔を左右に十度くらいずつ旋回させる作業に勤しみました。
たっぷり十秒撃ち尽くし、最後におまけとばかりに、半壊した拝殿を狙って榴弾の装填された主砲を発砲。拝殿は全壊しました。そしてアコは、反動を戦車が受け持ってくれることのありがたみを再確認しました。
「撃ち方、待て!」
射撃がようやく途切れ、境内に静寂が戻ってきます。カヴェナンターの前に拝殿は跡形もなく、瓦礫の山と、唯一原形をとどめた青銅の賽銭箱だけが残りました。
耳の奥でまだ鳴りやまない機関銃の唸りを聞きながら、三人はジッとその瓦礫の山を睨みます。動くものも、あの忌々しいピンク色も見えませんでした。
「……や、やりましたわよね?」
沈黙を破ったのはウドミでした。リアシュに、板状情報端末でピンクの生死を確認するよう急かします。アコが振り向いた先で、リアシュは既に情報端末に視線を落としており、その顔は驚愕と戦慄で彩られていました。
「……えっ、やったんですよね?まさか、あそこから逃れたんですか!?」
リアシュは、苦虫をセンブリ茶で飲み下したような顔で、答えました。
「逃れた、ようですわ」
信じられないという気持ちでリアシュの持つ端末を覗き込むと、「MAGI」の「PINC」の表示は依然、白でした。
アコのボーイズでの狙撃から、カヴェナンターの掃射が始まるまでの時間は精々二分、なんなら一分と数十秒です。それ以上は絶対にかかっていません。対戦車ライフルの弾丸に被弾した体で、たったそれだけの時間でどうやって拝殿から逃れるというのでしょうか。
「私が調べた限り、拝殿の出入り口は正面のみでした。逃れる場所なんてどこにも……!」
ピンクは今どこにいるのでしょう。既に、左右に広がる木々の陰に逃げ込んだのでしょうか。それとも、瓦礫の山の下で息を潜めているのでしょうか。
アコは、車内に居ながらにして、背後からピンク色のナイフを首筋に押し付けられているような錯覚を感じました。




