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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
63/159

1-B.38

 なかなか良い軌道でピンクの頭を捕らえた、と思った弾が、ちょっと体を揺らしただけで躱され、青銅の賽銭箱を掠めました。これが五発目です。そして、今のところ全弾が拝殿に命中しています。

「ざ~こ♡ガバエイム♡」

 ピンクはそう罵ってきますが、四発目に続いてこの五発目はなかなかの射撃でした。アコも、こう見えてAランクでは結構鳴らしてきた砲手です。普段戦車砲を撃つ時には切っている、着弾地点を赤く表示してくれる射撃系スキルをオンにし、2・3発撃ってコツを掴んでからは、少なくとも狙った場所に当てられる程度になりました。

 しかし、ピンクはそんなアコの放つ弾丸を軽々と躱してしまいます。恐らく、銃口または視線を見られています。銃口の向きから弾道を予測し、回避しているのです。こちらが狙撃銃のような長物であることを加味しても、ウドミと斬り結びながらそんな芸当をして見せるなど、とても人間業ではありません。

 ただし、これはゲームです。ステータスと運動神経次第では、想像でき得るだいたいのことが可能になってしまいます。

 そして、彼女の恰好もまたアコの射撃を狂わせる原因になっていました。激しく動く彩度の高い色の物体をずっと凝視していると、こうも脳が混乱するということをアコは知りませんでした。全身単色なのも優しくありません。

 アコとしては、当然手加減するつもりもないので胴体を狙って撃っています。しかし、時たま照門の中のピンク色の人型が、今どんな姿勢でいるのかわからなくなるのです。結果として胴体を狙ったつもりが、手足やそれと同色の二本の髪束などに向けて撃っており、容易く躱されてしまいます。

 そんなピンクと近距離で白兵戦をするウドミにも、疲労の陰が見えます。右肩の流血はその高すぎるCON(耐久)値に助けられ勝手に止まったようですが、今、ピンクのチェーンソーを振り払った動きも精彩を欠いており、肩で息をする姿も多く見られるようになってきました。もともと、あまり燃費の良い身体では無いのです。

 このままではウドミが倒れます。そしてウドミという盾を失えばアコも自動的に始末され、リアシュ一人とカヴェナンターだけでは逃げ回ることしかできなくなり、即ちゲームオーバーです。

 二つ目のマガジンを装着し、弾薬を薬室に送り込んだアコは、決着を急ごうとピンクを照準に収めようとします。しかし、できませんでした。

 ウドミの足が止まったのを良いことに、ピンクは彼女の巨躯に自らの小柄な体を隠してしまうのです。これが、アコがここまで手こずっている第三の原因でした。アコはウドミを撃つわけには行かないので、上手く位置取りをするピンクを撃てないでいるのです。

 手詰まり、ゲームオーバーという言葉が脳裏をよぎりますが、アコはそんな考えを振り払います。それは、まだ希望があるからです。ついぞ姿を現さないリアシュ。あの車長が、今、何もせずにどこかに隠れて手をこまねいているわけはないのです。

 そして、彼女を信じているのはウドミも同じ。次の瞬間、ウドミは信じられない行動に出ました。

 乳酸地獄に支配されているだろうその足で駆け出し、ピンクに突撃します。そして、繰り出されるチェーンソーを右手一本で構えた太刀で受け止め、左手を伸ばしピンクの胸倉を掴んだのです。

「っ!?」

 初めてと言って良い動揺を見せたピンクは瞠目しつつ、チェーンソーを二度三度と太刀に打ち据え、叩き落とします。しかし、ウドミは武器を失っても動じることなく、上がらない右腕で首元を防御しながら、ピンクの首を掴んで離さない左腕に力を込めます。

 ピンクはその意図を悟ったか、その表情に焦りを滲ませながらチェーンソーを振り下ろし、ウドミの右腕から赤い負傷エフェクトが派手に撒き散らされました。それでも、ウドミは左腕に捕まえたピンクを離しません。

 そして、その軽い体を力いっぱいに投げ上げました。

「アコさん!」

 呼びかけられたアコは、そのチャンスを決して逃しませんでした。逃げ場のない空中に放り出されたピンクが落下を始める一瞬に照準を合わせ、最高点に到達した瞬間、引き金を引きます。

 直径0.55インチの弾丸は、こちらに頭を向け腹ばいの姿勢で浮いているピンクに吸い込まれるような弾道を描き着弾し、ピンクの体を吹き飛ばしました。ピンクは数枚残っていた板戸を叩き割り、拝殿に突っ込みます。

 体を捉えたかにも思えましたが、直前にピンクが空中で身をよじり、弾が当たったのは左の肩だったようにも見えました。

 濛々と立つ土埃が、視界を奪います。

「やりましたの……?」

 ウドミさん、あんまりそういうセリフは言わない方がいいですよ。

 その時、背後からメリメリと履帯の音が聞こえてきました。振り向くと、鳥居をなぎ倒しながら石段のすぐ下にまでカヴェナンターが走ってきていました。この距離まで気づかなかったのはアコの集中力のせいか、迂闊さのせいか、あるいは操縦手の腕か。

「リアシュ様!」

 アコは駆け寄りたい衝動に襲われましたが、カヴェナンターは何故か登ってきません。あ、アコが邪魔なんですね。

 バックパックとボーイズを抱えそそくさと移動したアコが先ほどまでいた辺りに、カヴェナンターが履帯を叩きつけつつ石垣の上に登場しました。

 その操縦席のハッチを跳ね上げ、現れた超小柄なプレイヤーは、言わずもがな我らが車長、リアシュです。鳥居の手前で脱いでいたヘルメットを再装備しています。駆け寄るウドミとアコに、操縦席から這い出たリアシュが言います。

「まだですわ!まだ、生きていますわ!」

 彼女が両手で見せてくる板情報端末にはMAGIのメンバー名簿が表示されており、「PINC」は白の表示のままでした。

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