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カッコよく颯爽と構えたかったのですが、アコの身長に迫らんとする全長を持つこのボーイズ対戦車ライフル、その重量も15キロ以上と少なくとも歩兵装備としては失格もいいところ。あまり無茶に持ち上げようとすると腰を痛めかねません。
石段の上にバックパックを置き、その上にT字単脚は畳んだままで銃身を横たえます。アコ自身は石段の上に膝立ちになって、射撃体勢が整いました。
石段に広げたマガジンのうちの一つを、銃本体機関部の上部に装着します。ボーイズ対戦車ライフルのマガジンは五発入りの箱型弾倉で、CRSTはそれを五つ購入し、BCSに持ち込んでいました。弾は、どのくらい使うかもわからないし戦車の砲弾に比べれば嵩張るものでもありませんので、キリよく100発買ってあります。当然五つのマガジンにはそれぞれ五発全て装填済みです。言い換えれば、この場でスムーズに撃てるのは25発ポッキリということ。まあ、十分でしょう。
多少戦車に詳しいだけのただの女子高生であるアコは、当然銃まして対戦車ライフルなど撃ったことはありません。仕組みや手順こそリアシュの教示を受け理解はしましたが、実戦はこれがほとんどぶっつけ本番です。とりあえず習った通りに、銃のお尻部分にある内向きに湾曲したパッドに肩を、銃床の左の面に右頬を押し当て、左手で後方のストックを、右手でグリップを握ります。
その姿勢で前を見ると、手前の照準器、照門の下に何かつまみが見えました。「300」「500」と書いてあり、今は500の方を指しています。恐らく目標への距離と思われますが、今撃ちたいものは精々数十メートル先ですので、単位がメートルでもヤードでも300には満たないと思われます。一応つまみを回し「300」に合わせると、照門がヒョイッと僅かに引っ込みました。効果があるかは不明です。
その照門を覗き込むと、マズルブレーキの左にくっ付いた輪っか、照星がちょうど見えます。この二つの円の中に標的が入ったら右手の人差し指で引き金を引けば良いというわけです。ただし、やはり距離が近すぎるので使わない方がいいでしょう。
境内の石畳の上では、ウドミとピンクが鍔迫り合いをしています。もっとも、片方は鍔などないチェーンソーですが。体ごと動きながら、銃口をピンクに向けます。二人はちょうど膠着状態であり、さらにピンクはこちらに背を向けています。初心者にも優しい、動かない的状態です。
まさにここぞ、とアコは引き金に指をかけ、力を込めました。
「……あれ」
引き金が動きません。既に引かれ切っているのです。どうしたことでしょうか。不良品でしょうか。ですが、BCS開始直前まで、リアシュが撃てない腹いせとでも言うかのように綿密に整備していた品です。故障等の可能性は低いでしょう。
そこで、ハタと自身の不手際に思い至って、誰が見ているわけでもなくテヘペロしながらグリップの上から飛び出たボルトハンドルを起こし、引きました。そして再び元の位置まで押し込むと、ガシャコンという内部で何らかの機械的動作があった感触がありました。ボルトハンドルを倒し、触ってみると引き金も元の位置に戻っています。これでようやく、薬室に初弾が装填されたわけです。
さて、気を取り直してもう一度照門を覗き込むと、ピンクとウドミは既に距離を取り、睨み合いをしていました。幸いピンクの足は止まっており、アコのTCCの数値を持ってすれば十分当てられるでしょう。銃口を揺らし照準しようとしたその時、ピンクが、明らかにアコに向けた声量で言いました。
「緊張してるのかな~?♡」
見られてました。それはそうです。隠れているわけでもないのに、こうもグダグダやっていれば、見られます。嘲笑を含んだその言葉は、思春期のアコの心を深くえぐりました。
心なしかウドミの視線もこちらを気遣うような生暖かいものです。
血流が顔面に集中するのを感じつつ、アコは恥ずかしさを誤魔化すように引き金を引きました。
そして、右肩を爆発したかのような衝撃に襲われました。危うく尻もちをついて急な石階段を転げ落ちるところでしたが、何とか堪えます。当然、銃弾は標的の随分上を通り抜け、罪のない拝殿の軒を吹き飛ばしていました。
これは、もしや、こんな足場で撃つものではないのでは?
発砲音がグワングワンと反響する脳で、そう悟るほどの衝撃でした。何度も続けて撃っていては、ウドミに続いてアコまで鎖骨を折りそうです。以前リアシュがSTRも必要とか言っていた意味がわかりました。
怯む様子もなく、先ほどと同じ場所から動いてすらいないピンクは、もはや何も言わず笑いを隠すように口元を覆い、こちらを見ています。見ないで……。
ウドミに至っては目を伏せています。それもそれで傷つくのでやめてほしいです。
しかしアコはめげません。ボルトハンドルを上げ、引き、戻し、倒します。マガジンを装着した場所のだいたい真下から薬莢が排出され、足元に落ち、金属音を奏でながら石段の下まで転がり落ちていきました。
なに、普段アコが撃っているのはこれの五倍以上の口径を持つ戦車砲なのです。次は当てる、次は当たる、と自分に言い聞かせます。
一発撃ったのはアコだというのに、なぜこんなにダメージを受けているのでしょうか。




