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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
60/159

1-B.35

「キエエエエエエエエエエ!」

 狛犬の陰から飛び出したアコは、陽光を受け光り輝く白刃をその鞘から抜き放ち、右肩に構えて全身ピンク女ことピンクに振り下ろしました。構えた消防斧を逆五体投地みたいな姿勢のウドミにまさに叩きこまんとしているピンクの、その左肩を捕らえた刀身は、まるで何も斬っていないかのように無抵抗でピンクの体を通過します。袈裟斬りが決まりました。

 そして、振り抜いた姿勢から、どれ残心でもしようかと顔を上げたアコは、信じられない物を目にしました。斬ったはずのピンクの体からは負傷エフェクトの一片も噴き出す気配がなく、その口元はむしろせせら笑いを浮かべているのです。

 すわ、斬られたことに気づいていないのかと己の眠れる剣術の腕に感動しかけていたアコに、上体を起こしたウドミが鋭い注意を呼びかけました。

「アコさん、それは飾り太刀では!?刃が潰されているのではなくて!?」

 言われて、眩い白刃をよく見つめると、確かに刃先には鋭さのすの字も見当たりませんでした。というよりも、はじめからただの鉄板のようです。

「えっ……」

 思わず硬直したアコを、ピンクが見逃すはずはありません。腰を落とした姿勢から放たれる豪速の消防斧に、アコは太刀を構えて防ぐので精一杯でした。

 消防斧に込められた有り余る膂力を太刀ごとまともに食らい、アコはたまらずたたらを踏んで尻もちをつきます。そんな無様なアコに、とどめとばかりに消防斧を掲げたピンクの禍々しい影が覆いかぶさりました。天を背に立つピンクの、修羅か羅刹もかくやといった迫力にアコは思わず涙ぐみそうです。

 しかし、消防斧が振り下ろされるよりも速く、腰を破壊せん勢いで猪突したウドミによってピンクは弾き飛ばされ、アコは窮地を免れました。腰を抜かしつつも立ち上がるアコに、ピンクから視線を外すことなくウドミが言います。

「アコさん、それをください!」

「あ、はい!」

 アコはそれという指示語の指す意味を誤解なく察し、飾り太刀と判明したばかりの太刀を両手にウドミの元に駆け寄ります。こちらを見ずに左手で刀身を掴み受け取ったウドミは、「ありがとうございます」と告げて、太刀を中段で構えました。

 刃渡り七、八十センチほどの太刀は、実際には刃の無い飾り太刀だったわけですが、それでも一キロ程度の鉄の棒には変わりありません。ウドミのSTR(筋力)でもって振り回せば、十分な殺傷能力を持つ鈍器となるでしょう。

 ツインテールを振り乱し突っ込んでくるピンクに、ウドミは太刀をかざして消防斧の連撃ラッシュを弾きます。刃部分よりも柄を狙って打ち込み、払い、叩き落とし、薙いで距離を取らせます。飛び退ったピンクに一足で踏み込んで、左手に振りかぶった大振りな太刀が、ピンクの右上腕に決まりました。

 腕の上から胴体にまでダメージを及ぼしたのではないかと思わせる強烈な一撃を受け、派手に吹っ飛んで側転したのにもかかわらず、跳ねるように立ち上がったピンクはノーダメージをアピールするかのように首を振って鳴らし、先ほどまでと変わりない動きで攻撃を再開しました。

 お返しとばかりに右半身へ迫る消防斧を、ウドミは苦し気に防ぎます。

 そんなウドミに目を細めながら、初めて、ピンクが口を開きました。

「オネーサン、右腕上がんないんでしょ♡」

 言われたウドミが、クッと唇を歪ませます。返事が無くとも肯定したようなものです。

 アコがチラリとウドミの右肩に目をやれば、先ほどの消防斧による負傷エフェクトが赤く輝いており、流血していることを示していました。アコの見立てでは鎖骨に骨折判定が出ています。早いところ回復アイテムを使って流血だけでも止めたいところです。

「ステータスに技術が追いついてない♡パワーレベリングが見え見え♡SIZに驕らず修練しろ♡その肉体は飾りでしかないと?♡」

「……」

 煽りの連打にウドミが反応しない事を見て取ったピンクは、今度はアコにも視線を飛ばしてきました。

「まあ、そっちの生き恥と比べればマシ♡雑魚が出る幕じゃない♡」

 結構的確に人の心を抉って来るヤツです。売られた喧嘩は原則的に買う主義なアコですが、相手の方が明らかに強い場合は例外に当たり、要するに黙って唇を嚙むことしかできませんでした。

 ところで、ピンクがオネーサンと呼んだウドミは、実は最強の肉体と妖精の声帯を併せ持つ現役ピチピチの高校二年生なのですが、ピンクの中の人がそれよりも年下である可能性はどんなもんなのでしょうか。アコは、そんなPBOに限らずMMOではあまり考えない方が良いことを考え密かに溜飲を下げました。

「あともう一人いるはず♡どこに隠れてる?♡」

 リアシュはアコの背後、宝物殿の壁の影にいるはずです。もちろんさすがのアコも、そちらに視線を送るような愚行は犯しません。リアシュの正確な居場所は知らないであろうウドミが、普段ではとても聞くことの無い冷たい声で返答します。

「貴方に教える義理はありませんわ」

「あっそ♡」

 音節にして二音の返事と共に繰り出された消防斧が、防御する太刀と衝突し第二ラウンド開始のゴング代わりに重い金属音を奏でます。さて、ちょっとリングには上がれないアコに、セコンド役くらいは務まるのでしょうか?

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