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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
58/159

1-B.33

 そのまま拝殿正面に出ていこうとするアコの腕をリアシュが引っ張り、二人は宝物殿の裏を回り込んで、木々に姿を隠しながら石垣の上から参道を見下ろしました。そして、PBOではなかなかお目にかかることができないであろう光景を目にしました。

 参道の真ん中で、二人のプレイヤーが格闘しています。一方は、言わずもがなウドミです。その恵まれたSIZ(体格)を存分に活かし、もう一人の襲撃者を相手に見事なステゴロを演じています。抜きんでたSTR(筋力)に相応しい力強い体躯が躍動する様はなかなかに目を引きますが、見る者の視線を奪うという意味では、襲撃者の方が上回っていました。

 襲撃者は、女というよりは少女でした。全身がピンクの少女でした。ウドミと比べると160cmには満たないだろうとわかる身長は、やたらガタイの良いアバターの多いPBOにおいては低めです。そんな彼女の何がピンクなのかというと、まず髪がピンクでした。後頭部で二つに結ばれた長い髪がピンク色です。今もウドミに中段蹴りをかましましたが、それに合わせてそのツインテールが派手にうねります。

 次に服がピンクでした。形はよくある戦闘服なのですが、その色はけばけばしいデザートピンク。ジャケットもパンツもブーツも、グローブも同様にピンクなのです。

 デザートエリアの砂漠に囲まれたフォグバーグを拠点とするアコとしては、まあ砂漠迷彩として納得できないこともないでもないかなと言ったところですが、あそこまで鮮やかなピンクが迷彩として機能するのかは知りません。そもそもここは砂漠ではありません。

 そして、彼女の得物もまたピンクでした。彼女こと全身ピンク女が右手に握っているのは、アコの金切り鋸と並んでマスターキーと称されるアイテムの一つ、消防斧(ファイアーアックス)。木製の扉をスピーディに開錠できます。お馴染みの赤い塗装ではなく、刃から柄まで真っピンクでした。当然人に向けるものではありませんが、今はそれが本来の使い方とでも言わんばかりにウドミの肩に向かって振り下ろされ、彼女に防御を強いています。

 顔の上半分を隠す、妙に古風なデザインのパイロットゴーグルだけが、彼女の体でピンクでない部分でした。趣味は人それぞれですから、十人のPBOプレイヤーがいれば十色のコスチュームができて当然です。ああいう人だっているのでしょう。

 ピンクと聞いて、アコには思い当たるものがありました。

「もしかして、MAGIの……」

 そう、林道で接敵した重戦車IS-2に乗るチーム、MAGI。その車台後部に積んでいたバイクは、彼女と同じくドギツいピンクでしたね。

 どこから取り出したのか、板状情報端末を操作してチーム名簿を表示させたリアシュがチームMAGIのメンバーの一覧を表示させます。全員、生存を示す白の表示で、上から「RED」「blue」「IEROU」「PINC」の四名。シンプルなようで個性を感じさせないでもないプレイヤー名ですが、今は割とどうでもいい事でした。

 ウドミと交戦中のプレイヤーは十中八九、四人目の「PINC(ピンク)」でしょう。綴り間違ってますよ、と教えてあげたいです。

「バイクで追ってきたんでしょうか」

「戦闘中に破壊しておくべきでしたわね」

 戦車には険しい道も、オートバイなら楽勝でしょう。後をつけてくる戦車を見逃すはずはありませんが、オートバイならわからないかもしれません。もっともそれがドピンク色のバイクとなると話は別ですが。

 眼下で白熱する白兵戦闘は、始終ウドミの防戦一方でした。消防斧を受け止める為、その長いリーチで戦えずにいます。一方の全身ピンク女、ピンクは相当なDEX(敏捷)を持つようで、消防斧に振り回されるわけでもなく独楽のようにクルクルとヒットアンドアウェーを繰り返す彼女の攻撃を、ウドミは受け流すことしかできません。

 いえ、受け流すことに成功している、というべきなのでしょうか。例えば今、ウドミの左脇に叩きこまれた消防斧を、ウドミは踏み込んで左右の腕を交差させ受け止め、すかさず相手の肘に左腕を伸ばして掴み、引き込むようにして後方へと投げ飛ばしています。ピンクは投げられるのに身を任せ、地面に転がり、即座に立ち上がってウドミの背中に消防斧を振りかぶりますが、距離が開けばウドミのレンジ。丸太のような豪脚が空間を薙ぎ、ピンクは回避を余儀なくされます。

 そんな死闘から視線を切ったリアシュがアコに、上目遣いで問いました。

「あの戦闘に、混ざれますか?」

「ちょっと無理です」

 アコは即答しました。一般的な女子高生には少々荷が重いです。

「私も自信がありませんわ」

 リアシュの中の人であるリーゼロッテは、以前朝礼にて空手か何かで表彰されていたような気もしますが、如何せん今の彼女はSIZ最小のリアシュです。アコもリアシュも、ハッキリ言ってあの戦いにはついていけそうもありません。

「ウドミは押されているようですわね……石垣に近づけまいとする意思を見透かされているのでしょう。段々近づいてきていますわ」

「せめてウドミさんにも武器があれば……あっ!」

 天啓得たり、と宝物殿に駆け込んだアコは、数十秒後にほくほく顔で出てきました。その手には、宝物殿にあった太刀が握られています。

「これを渡せれば!」

 リアシュの顔に、なるほどの微笑みが浮かびました。

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