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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
54/159

1-B.29

「A42V……ですよね」

「まあ、そうでしょうね」

「榴弾、でしょうか?」

「いえ、もっと特殊なものでしょう。堤防で撃たれたものとは威力がまるで違いましたわ。狙いの精密さも段違いです」

 森の中を北上するカヴェナンターの車内には、どこか疲れたような雰囲気が充満していました。なんといっても、ようやく解放されたと思っていたA42Vに、またも邪魔をされたのです。

「特殊な行動パターンでしょう。条件の詳細がわかりませんが、少なくとも10分以上の戦闘は避けた方がよさそうです」

「10分間戦闘していると、あの特殊攻撃が飛んでくる、と?」

「もしかしたら四輌も戦闘に関わったことなど他の要因もあるのかもしれませんが、最低限そう思っておきましょう」

 カヴェナンターの進む周囲の森は、林道に出る以前よりも鬱蒼としていました。中州の外側方向、西に進んだことが原因かもしれません。

「A42Vはこちらに向けて移動しているのか、なども確認したいところですが……」

 そう言って、リアシュは手元の情報端末に口惜しそうに視線を落とします。

「あのヤークトティーガーはともかく、IS-2を取り逃したのは痛いですわ……」

「あんな開けた整地で、あそこまで接近できるのは次にいつになるか……」

 板状情報端末のチーム名簿によると「MAGI」という名らしいIS-2のチームの表示は、煌々と白く光っていました。アコとリアシュが二人して、口を開いてはドヨーンと表情を曇らせる中、ウドミが声を上げました。

「あの……大きな岩が多くなってきましたわ。やはりもう少し内陸を進んだ方が良いのでは」

 彼女の言う通り、周囲の地形はいつの間にか柔らかい腐葉土から苔生した岩の転がる完全な不整地に変わっていました。大きな岩や倒木の合間を縫って不安定な地面を走るカヴェナンターの車内はかなり揺れます。傾斜も急になりつつあり、下手をすればその内行き止まりになりそうでした。

「いえ、道らしきものがある以上、どこかには続いていますわ。これはゲームですもの」

 リアシュの言うように、カヴェナンターが走っているのは、実は道なき道ではありません。爆発から逃れ西へと爆走する途中、CRSTは北に逸れる細い道を発見したのでした。その入り口にはこれ見よがしに古めかしい小さな石碑が建っており、その先に続くのは何年も誰も通っていないような趣のある廃れた道ではあったものの、最初の内はカヴェナンターが余裕をもって走れるような多少は易しい道だったのですが、奥へ奥へと進むにつれ荒れて行き、今や本当に進んでいる場所が道なのかもわかりません。

「それに、私たちが通りにくいということは、あのIS-2の……MAGI(マギ)とかいう連中も通りにくいってことですよ」

 カヴェナンターの懸念事項は、道がどこかに続いているのかという不安だけではありません。林道で接敵し、A42Vのせいで仕留めきれなかったあのIS-2のチームことMAGI。舗装された林道上での混戦の中ではあと一歩というところまで追い込んだカヴェナンターでしたが、本来はこちらが狩られる側です。

 しかし一度距離を取ってしまった今、もう逃げるしかありません。もし追いつかれこの森林エリアで再び相まみえることとなった時は、足場の悪さも手伝ってカヴェナンターには相当分が悪い戦闘となるでしょう。

「それでもやっぱり、見つけちゃったら来ちゃいますよねー」

「こればかりは、サガですわね」

 とは、それなりに年季の入ったPBOプレイヤーであるアコとリアシュによる談です。小路の入り口にあった、古めかしい石碑を見つけた時のワクワク感を思い出しています。

 それに、リアシュにはある算段もありました。つまり、BCSひいてはPBOがゲームであるからには、こういった何かありそうな道の先には何かしらある、ということです。しかし、実際に操縦をするウドミにはそんなメタな理屈は通りません。

「そもそも、あのMAGIというチームは本当に追って来てるんですか?」

「確かに、後方を見た感じは戦車がつけてきている様子はありませんが……」

「それでも、重戦車ならば今の内に巡航戦車を片付けておきたいと思うはずですわ。最終的な戦場はあの丘の上と分かり切っているのです。狭い開所で戦う羽目になる前に、絶対に叩きに来ます。今引き返せば、狙撃されますわ」

 ただ、リアシュにこうも力強く言い切られては強く出られないのがウドミ。まさに「騙されたと思って」の心情で、それ以上の反論の口を噤みます。

 そして、カヴェナンターが数秒に一度左右に体をぶつける程に道が狭くなった頃。疎らに転がっていたのみだった岩は、今は左右に壁のように切り立ち、少なくとも狙撃の心配はないものの既に後戻りは不可能です。そんな道を苦心しながら進んでいくウドミが、一際大きな岩を曲がると、ようやくそこにゴールと思しきものが見えてきました。

「鳥居……」

 木製の鳥居は、赤い塗装が既に剥げてかかっており、神額の文字は掠れて読めません。2.6メートルの横幅を持つカヴェナンターが余裕で通り抜けられる、なかなかの大きさのその鳥居の向こうにはまっすぐに上へ登って行く石の階段が続いていました。

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