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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
53/159

1-B.28

 上半身に満遍なく鉄の破片を受けたヤークトティーガーの車長が、赤い粒子になって天に昇っていきます。

「結局なんだったのかしら」

「さあ……舐めプか縛りか何かじゃないですか?」

 本当のところは、諸兵科連合の戦闘団の団長というロールプレイングの下、歩兵を指揮するため戦闘中も車内に入らないというスタイルを貫いている実直な男だったのですが、そんなことは語られるようなことでもありません。歩兵もいません。

「さて、IS-2を落としますわよ!」

「「はい!」」

 勢いそのままにIS-2目掛け突進するカヴェナンターに、一度は退いたIS-2でしたが見合うように時計回りに位置を変え始めました。どうやら、機動戦を所望のようです。

 図体に似合わぬ快速でカヴェナンターの進路を大きく右に回り込もうとするIS-2と、さらにその背後を取りたいカヴェナンターは、天から見れば時計の短針と長針のようです。真北を12時として3時くらい、横っ腹を晒すIS-2に、カヴェナンターが発砲します。捉えたかに見えましたが、IS-2は車体全体を旋回させ、ちょうど30度くらいで砲弾を迎えうち、弾き飛ばしました。

「……良い昼飯です」

 それなりに手応えのあった射撃を防がれたアコの悔し気な敵への称賛の言葉と、反撃に撃ち返したIS-2の砲弾を背後にカヴェナンターはIS-2に追いつかんとします。ちなみに昼飯とは、車体を30度ほどに傾け砲弾を弾くいわゆる昼飯の角度のことです。

 肉迫するカヴェナンターに、IS-2は砲塔を旋回させ真正面に向き直り、撃ち払おうとします。照準の緩かったその砲弾を躱したカヴェナンターは逃げるIS-2を追い越し、砲塔で振り向いてその砲塔後部装甲を狙いますが、僅かな砲塔の回転によって逸らされてしまいます。

「流石はソ連戦車、どこを撃っても角度がある!」

「避弾経始を最大限活用してきますわね……」

 IS-2は減速し追い越していったカヴェナンターを見送り、カヴェナンターは転進に半径を大きく取ったため、両者の距離は一旦開きました。互いが振り向きざまの減速を狙い発砲しますが、カヴェナンターの弾は防盾に弾かれ、無茶な体勢で放たれたIS-2の弾は躱されました。

 そのままカヴェナンターは再加速し、ヒットアンドアウェイとばかりに再度吶喊を仕掛けます。すれ違いの瞬間に斬りつけるように振られた主砲から滑り出た砲弾も、砲塔の側面で流すようにいなされてしまいました。

 旋回しながら体ごと向きを変え停車したカヴェナンター。背後でIS-2も旋回しています。

「サシになって本気になったのか、やりにくくなった感じがありますね」

「まあ、中途半端に妨害されるよりマシですわ」

 ヤークトティーガーの方を見やると、カヴェナンターを追っているらしく超信地旋回をしてはおりますが、その動きはどこか統一感を欠きます。あの大きな車内に何人乗っているのか知りませんが、車長を失い大なり小なり混乱しているのでしょう。持ち直す前にIS-2との決着をつけてずらかりたいところです。

 向き直ると、IS-2もほぼ同時に旋回を終えこちらに砲を向けていました。互いに、静かに闘志を滾らせ、威勢よく黒煙を吐き出して再発進しようとした瞬間でした。

『ヴォオオオオオオオオオオオオ!!!』

 濁った汽笛のような音が、南方の空で上がりました。

 カヴェナンターも、IS-2も、ヤークトティーガーも時を止めます。不気味な音は鳴りやむことなく、その場に静寂とかけ離れた沈黙を生み出しました。

「これって……」

「南から聞こえる……?」

 数瞬、天を仰いで目を眇めていたリアシュが、ハッと板状情報端末の時刻の表示に目を落としました。

「……今が14時17分……戦闘が始まってちょうど10分……?」

 左手で緊張に歪む口元を隠すリアシュ。迷いはありましたが、彼女の判断は迅速でした。

「退避ですわ!転進して林道沿いにこの地点からなるべく離れます!」

 その意図は分からずとも、それに従うアコとウドミの行動も迅速です。砲をIS-2に向け、牽制したままでジグザグに後退、ある程度距離を取って車体の向きを180度反転させると、一目散に林道を西へ走り始めました。

 もっとも、IS-2もその背中を狙うようなことはしませんでした。カヴェナンターに遅れ、反転し東へと走っていきます。車長を失い判断力の低下したヤークトティーガーだけが置き去りにされました。

速度制限リミッターを解除して!」

「かしこまりましたわ!」

 時速70キロで驀進すること数秒。その直後に起こることを、アコが予測するのは不可能でした。

 一帯の森ごと、林道を吹き飛ばす大爆発が背後で巻き起こりました。その閃光に背中を焼かれながらも走るカヴェナンターに爆風が追いつき、車体を地面から引きはがそうとします。しかし、砂利をしっかり掴む両の履帯がそんなことは拒み、やがて大地を揺らす轟音が追いついてきました。大気が震え、鼓膜を叩きます。

「二発目は!?」

 リアシュが緊迫感を纏ったまま誰に向けたわけでもない問を叫びますが、幸い、一分間そうして走っても、続く爆発はありませんでした。

「速度を落として構いません。右手の森に入っていったん停車してください」

 林道を逸れ、ようやく北側の森に渡る、という本来の目的を果たしたCRSTでしたが、特に安堵も達成感もありません。

 恐る恐るハッチを開き、双眼鏡で背後を窺えば、予想に違わぬ地獄が広がっていました。

「これはすごい……」

 天から見れば、半径数百メートルに渡って木々が放射状に倒れているというなかなか幾何学的な惨状を見ることができたのですが、地上から見ても十分にその凄惨さは察することが出来ます。その中心地にそびえる雲は既に見上げる程。

 嘆息しつつハッチから周囲を視察していたアコは、双眼鏡で望む一キロ先の爆心地で、濛々たる煤煙の膜を突き破って何かが頭を出すのを見つけました。

「ん……あっ!ヤークトティーガー!まだ動いてますよ!」

「はあ……そうですか……」

 さすがのリアシュも、もはや呆れ声を出すことしかできませんでした。

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