1-B.26
親子か何かのように仲良く並ぶカヴェナンターとヤークトティーガーの前で激戦を見せるのはM4中戦車とIS-2重戦車です。ここまで密着した状態ではヤークトティーガーがカヴェナンターを捉えるのはほとんど不可能であり、ヤークトティーガー側も諦めたよう。今カヴェナンターが自衛のためにしなくてはいけないのは、たまに流れ弾に見せかけて狙ってくる主にM4の弾を躱すことくらい。
既に数十秒、カヴェナンターはこうして束の間の休息にあやかっていました。
「やはり、舗装された地面での近接戦では高速戦車が有利ですわね」
終始優勢に撃ちまくっているのはやはりM4。この林道ですでに、三十発は撃ってるのではないでしょうか。いかにIS-2と言えど、側面などのウィークポイントを捉えれば撃破可能です。だというのに未だ勝負がつかないのは、ひとえにIS-2の練度が相当なものだから。M4の砲弾を躱しいなし弾きとやりたい放題です。M4の方は、心なしか苛立ち、勝負を逸っているようにも見えました。
加えて。
「今です!」
「そいやっ」
合間合間で送り込まれるギャラリーの砲弾が、二輌に隙を見せることを許しません。ヤークトティーガーのそれはともかく、リアシュの的確な指示によって放たれる、いっそ潔い漁夫の利狙いの弾は、今もM4に回避の行動を誘い、結果としてIS-2の主砲を前にして減速するという窮地に陥れました。敢えての急制動によって何とか撃破を回避したM4ですが、しかしその姿はもはや息も絶え絶えです。
別に、M4のみを狙っているわけではありません。チャンスがあればIS-2だって撃つつもりでいます。しかし、チャンスを見せないものですから仕方がありません。結果としてIS-2の機嫌も取れているのか、その砲がこちらを向くことは滅多にありません。
アコは、その車台後部に載せられたバイクがなぜピンクなのかを考える余裕さえありました。今のところ、そういう趣味だからというのがアコの結論です。
まあ、それは実際には油断であり、そしてCRSTには油断のゆの字も知らないようなと言ったら過言ですが、そんな優秀な車長がいます。
「少し後ろに」
リアシュはIS-2の主砲がカヴェナンターをM4との同一直線上に捉えたことに敏感に気づき、回避の号令をかけました。しかし、彼女が油断していなくとも乗員は少々観客気分に浸り過ぎていたようです。
「ええっ!?」
あまり緊張の糸を弛ませることのないウドミですが、急な回避の指示に、不必要に大きく動いてしまいました。ヤークトティーガーの懐から外へ出てしまいます。
「やってしまいましたわ!」
もう、戻ることは許されないでしょう。戦場に転がり出てきたカヴェナンターを、三輌の砲が見つめています。
「ウドミ、シャーマンの後ろへ回り込んで!」
現在の位置関係は、背後に森を背負い、最初に発砲した位置からほとんど移動していないヤークトティーガーから時計回りに、カヴェナンター、M4、IS-2の順。カヴェナンターはM4に向かって、しかしそのさらに外を回りながら全体を回り込もうとします。
しかし、M4も簡単には背後を取らせる真似はしません。車体全体で後退しつつ、砲を振って回り込もうとするカヴェナンターを狙います。
「行けません!」
「では、シャーマンに体当たりしてください!」
まさかのリアシュの指示に、ウドミは一も二もなく従います。急に進路を変えたカヴェナンターの左前方を、M4の砲弾が駆け抜けました。アコは、砲から激突することの無いように砲塔を旋回させ横に向けます。
そして、進路を急激に右に切ったカヴェナンターは左の側面装甲からM4に激突しました。アコたちの体を衝突の衝撃が襲います。当然M4にとっても予想外の行動であり、その動きに一瞬の空白が生まれます。
「発進!」
その隙を突いたリアシュの号令と共に砂利の地面を蹴って急発進したカヴェナンターが離れ、急に開けたM4のペリスコープに飛び込んできたのは、カヴェナンターを追って超信地旋回していたヤークトティーガーがようやくその照準を終えた、主砲の12.8cmの孔でした。
狙いすまされたタイミングで目隠しを外されたM4は反応の暇もなく、その豪砲の一撃を食らい、一瞬右の履帯を地面から浮かせて、次には赤い撃破タグをピョコンと立たせました。
「M4の陰に!」
超信地旋回かと疑うほどの高速かつ小回りのドリフトを見せ、天から見て反時計回りしたカヴェナンターがすでに廃車となったM4の後ろに隠れた次の瞬間には、IS-2の放った砲弾がその背後を掠め、M4の車体を叩きました。
二門の巨砲が、カヴェナンターが姿を見せるのを待ち構えている気配が伝わってきます。状況はどうしようもなく膠着しました。CRSTにとって不利に、です。
するとリアシュが制止の暇もなくハッチを開き、カヴェナンターどころかM4の影からもチラッと頭を出してすぐに戻ってきました。
「何してるんですか!危ないですよ!」
「申し訳ありませんわ。ヤークトティーガーが前進方向を、IS-2が後進方向を照準しています」
「言ってくだされば私が行ったのに……」
「申し訳ありませんってば」
リアシュは、二輌の狙いを確認してきたようです。つまり、M4を右から出ればヤークトティーガーが、左から出ればIS-2が撃ってくるということ。運で片付けられることではありませんが、悪い事にそれぞれの照準は二か所に分かれていました。
「それで、どちらに?」
リアシュは左手を口元に当て数秒考えましたが、考えをまとめ顔を上げると、すぐに答えました。
「……前進ですわ。ウドミ、お願いします」
「かしこまりました」
ヤークトティーガーの鈍重さに頼み、カヴェナンターは前方に活路を見出しました。




