1-B.25
にわかに左に進路を変え減速したカヴェナンターがM4の右側面に照準し、機敏に反応したM4が同様に減速によってその狙いを外そうとしたその瞬間、北から飛んできた砲弾が二輌間を結ぶ直線の垂直二等分線を描いて南へ飛び去って行きました。二輌がそのまま突っ込んでいたら、下手すればまとめて撃破されていたかもしれない軌道です。
林道上の三者の視線が一様に北へ集まります。ヤークトティーガーも数えて第四となる参戦者は、暗い緑単色に身を包んだ重戦車でした。丸っこいデザインが、いかにもソ連戦車という感じです。その装甲にはいくつか砲弾が掠めたような焦げ跡が刻まれており、すでに何度かの戦闘を制してきたことを示しています。
「IS-2ですね……!」
「そのようですわね」
リアシュに先んじて戦車を正解したのは何気にこれが初めて。そんな場合でもありませんが、アコは少々鼻を高くしました。ただしその後の説明はリアシュに任せます。
「十分な運動性と122ミリ戦車砲と最大160ミリの装甲を兼ね備える、まさに走攻守の揃ったソ連の傑作戦車ですわ」
「撃破できますの?」
「背後を取ることができれば、恐らく……余程のことがなければ……」
そう言ってリアシュがチラリと見やるのは、ノソノソとこちらに向き直るヤークトティーガー。あれは例外ですよ。
「優先順位は、まずは引き続きシャーマン、続いてIS-2。その次に離脱ですわ」
「ヤークトティーガーは放っておけば沈みますものね」
「IS-2と言えど、アレは正面からやり合うには相性の悪い相手でしょう。潰し合ってくれることを期待しましょう」
冷や水を差された先ほどの激闘など忘れてしまったかのように、M4は既に距離を取り、四輌の位置を四角形に見立てた時、対頂点の位置にまで行ってしまいました。カヴェナンターも同様に、様子を窺いつつ後退します。
IS-2は初弾以降動きを見せず、次に膠着を破ったのはヤークトティーガーでした。砲塔が無く、車体ごと照準するため致命的に遅い上にわかりやすいヤークトティーガーですが、その砲の持つ威力はIS-2の160ミリの前面装甲を容易く突き破ります。
そんな巨砲は、明らかに闖入者IS-2に向けられようとしていました。さてどうなるのかと中戦車二輌はその攻防を見守ります。
ヤークトティーガーの巨体が旋回を終えたタイミングで、IS-2が勢いよく発進しました。その方向はまさかの直進。当然、ヤークトティーガーの主砲は次の瞬間にも火を噴きます。しかし、その砲弾は結果としてIS-2の砲塔側面を掠めたのみに終わりました。
何が起こったのかは、真横から見ていたアコたちからは分かりにくかったものの、どうやら砲塔を浅い角度でとらえた砲弾は、その僅かな回転によって逸らされてしまったようです。
IS-2はそのまま直進しており、じきにカヴェナンターの照準に入ってきそうだったので、アコはリアシュを見やりました。
「撃ちますか」
「そうしましょうか。ただし、狙うのはシャーマンですわ。一応、IS-2にヤークトティーガーを撃たせたいです」
「ああ、了解です」
カヴェナンターの砲塔が、右から左へ直進するIS-2に照準するかのような動きで時計回りします。しかし、実際に狙うのはM4。左から右へ回転する射線がIS-2とM4を同一直線上に捉えた瞬間、アコは引き金を絞りました。
IS-2は射線を素通りし、その背中を掠めた砲弾が直進する先には、M4中戦車が完全な停車状態でいます。しかし、あるものに気を取られ、砲弾は横に逸れてしまいました。
「な、なんですか今の!」
IS-2が通り過ぎたと思った瞬間、照準の中をピンク色のものが横切ったのです。IS-2に目を向けて、その正体が判明しました。
「ピンク色の……バイク?」
IS-2の車台後部に、どぎついピンク色のバイクがワイヤーで縛り付けられていたのです。
「歴としたアイテムですわよ、偵察用オートバイ」
リアシュの言う通り、PBOには『偵察用オートバイ』という括りでいくつかのバイクが実装されています。ただし、戦車とは違いアイテム扱いであり、BCS中に破壊されたとしても復活することはありません。相応に値が張る代物であり、いくら収納手段がないからと言って間違っても戦車の外に縛り付けるようなものではないのです。
実装された当時はコアなファンに人気でしたが、実用性の面から最近は全地形対応車に押され気味。ただし、こちらはどう頑張ってもBCSには持ち込めないでしょう。
「いやいや、それにしてもなんでピンク!」
アコにしてみれば、ツッコミどころは満載です。せっかくM4を撃破できるチャンスだったのに、邪魔された腹いせでもあります。しかし、リアシュは「まあそういうこともあるでしょう」とばかりの態度です。ウドミもそこまで気を取られている様子はありませんでした。同様に、M4も。
「撃ち返してきますわ。ウドミ!」
「はい!」
履帯を回し、戦場全体を右回りするように動き始めるカヴェナンターの左をM4の砲弾が通り過ぎていきます。
中戦車同士の戦闘が幕を上げるのと同時に、重戦車同士の戦端も本格的に切られようとしていました。ヤークトティーガーの至近距離からの発砲も軽々といなし、ピンクのバイクを載せた背中をこちらに向けるIS-2はその向かって左の脇に滑り込みます。恐らく、参戦する前から戦闘を見ていたのでしょう。念には念を入れ、至近距離から側面装甲に122ミリの一撃を叩きこむつもりのようです。
履帯を滑らせ右回転しながら、ヤークトティーガーの側面装甲にビタリと砲口を突きつけたIS-2が、間もなくこの林道での戦闘における第二射を放ちます。
横目に窺いながら、流石に抜けるはず、と考えているのはアコだけではないはず。なんならM4のチームだってそう思っているでしょうが、側面を取られても微動だにする気配のないヤークトティーガーのその姿とドイツ将校コスプレおじさんのスマイルが、なんとなくそうではないことを予感させました。
発砲音と同時に聞こえてきた着弾音が辺りに轟きますが、はたして結果は。
「やっぱり……」
ピンピンしていました。おじさんももはや満面の笑みです。IS-2からもなんとなく動揺の雰囲気が伝わってきます。
「どうやらスロット二、三枠どころではなさそうですわね」
「防御力に極振りですか……」
とは言え、中戦車たちにとっては戦闘を止める理由にはなりません。すれ違いざまに砲塔を互いに逆回転させ射撃し、まるで斬り結ぶ侍のように交差します。そのまま残心するように互いに向き直り、体勢はどちらも車台に対して砲塔が直角な流鏑馬の姿勢。
「IS-2はまず、自身を撃破しうるヤークトティーガーの排除をしたかったのでしょうが、それができないとわかった今、すぐにこちらに参戦してくるはずです。ヤークトティーガーの陰に入って、先にシャーマンを狙うように仕向けます」
「かしこまりました」
動き出したカヴェナンターは言葉の通り、ヤークトティーガーの横、IS-2とは逆のサイドに滑り込みます。
二つの盤面の戦闘に分かれるかと思われた四輌による戦闘は、結局混戦となりそうです。




