1-B.22
TKと共にA42Vが去った丘の、木々の生い茂る麓で、CRSTは念願叶っての小休憩を取っていました。狭い車内にいて凝り固まった全身を伸ばしていたアコでしたが、エンジンの点検を終えたリアシュが傾注の号令をかけたため、周囲の警戒をしていたウドミと共に、リアシュの方を向き直りました。その小さな両の手の中の板状情報端末は、こちらに向けられています。
「先ほどの戦闘中に、チーム名簿が公開されていたようですわ」
「ホントですね。もう二時ですか」
現在時刻は14時2分。BCSが始まって、実に62分が経過していました。
毎回、マップ公開がBCS開始10分であるように、開始60分時点で参加チームの一覧が公開されます。チーム名、メンバー、搭乗戦車の外見、またその生死といったリアルタイムの情報が載せられた名簿です。そして開始120分、つまりあと一時間弱後には生存チームの位置情報が公開されます。
リアシュから受け取り、ウドミと肩を寄せ合って覗き込む画面に表示される戦車には、いくつか見知ったものがありました。
「あ、T34です。P43も。こっちは……BT-42、でしたっけ?」
アコたちが見かけた戦車のチームは今のところ一つを除いて全てが撃破されています。当然、どのチームもゲームオーバーを示す灰色で表示されていました。
「あら、先ほどの豆戦車ですわ。MMAI?と言うのですね」
そして残りの一つ、豆戦車TKSに乗っていたというチームMMAIの表示は依然、白。つまり、あの後、A42Vから逃げおおせて見せたということでしょう。
「CRSTもありますわね」
「あはは、何だか照れくさいですね」
名簿をツイツイとスクロールしていたアコは、妙に既視感のある中戦車を見つけました。
「あれ?このチームもカヴェナンター……いえ、クルセイダーでした」
「粉末茶と粉抹茶くらい紛らわしいですわね」
「そこまでではないですよ~」
談笑するアコとウドミの傍ら、リアシュは真剣な目で名簿を見つめていました。
「19チーム中、13チームが生存……少々ローペースなのが気になりますわね」
攻撃力よりも機動力重視のカヴェナンターに乗るCRSTとしては、フィールドの狭まる終盤までになるべく生存チーム数が減っているのが望ましい展開です。リアシュの声音には危惧の色が多分含まれていました。
「脱落した7チームのうち3チームはT34重戦車、BT-42、P43という、低地の西で見かけたチームです。それだけ競争率の高い場所だったんですね……」
「13時20分頃に初めて見かけるまで、A42Vがどこにいたのかは気になりますわね。もしかしたら高地の北の方にいたのかも」
「A42Vが睨みを利かせていたせいで草原エリアでは激しい戦闘が自粛され、結果として脱落数が少なくなった、ということでしょうかしらね。……あら?」
リアシュが不思議そうな声を出し、視線を落とした先は情報端末に表示されたチーム名簿でした。アコとウドミもそれに倣い、覗き込みます。
「ひぃふぅみぃ……あ、一チーム減りましたね。残り12チームです」
「これは……まさか、A42Vが暴れ回っているのかしら?」
三人が示し合わせたわけでもないのに揃って視線を飛ばすのは東の空。TKSがA42Vを連れて向かった先の今頃起こっているでしょう大惨事を思うと、唇から苦笑になり切れなかった吐息が漏れてしまいます。
「そういえば、あのTKS……MMAIもまた、私たち以上に機動力重視のチームでしたわ」
一応、再度MMAIの名前を名簿で確認しますが、当然のように表示は白。
「おやりになりますわね」
リアシュの称賛の言葉が東の方へ飛んでいきました。届きはしないでしょう。
特に急ぐ理由もないので、のんびりと森の中を進むカヴェナンター。むしろ焦って進んでも良いことはありません。足元は前方に向けて緩やかに傾斜していました。
「なんだか登ってばかりですね」
「低地スタートでしたから、これでいいのですわ」
「今登ってる坂は、あの大きな丘の裾野の一部かもしれませんわね」
ウドミが言うのは、右前方にそびえる巨大な丘。斜面は、見える範囲ではなだらかで、背の高い草が生えているだけで木々は見当たりません。頂上は、先ほど発った小さい方の丘のそれよりさらに高く、間違いなくマップ内最高地点でした。
見える丘の頂上からはかなり距離があるのですが、あの大きさならばウドミの言うように既に裾野に立ち入っているのかもしれません。
「視界も、随分開けてきました」
「こちらはあまり良い事でもありませんわね……」
フィールドは、あまり手入れされていなそうな鬱蒼とした森から、どこかの森林公園くらいの森に移り変わりつつありました。アコは、平野が広がる右手を中心に視線を巡らせて警戒します。
そうして数分進んだカヴェナンターの前方に、周囲の森とは違った地形が見えてきました。
「前方に開地……林道、のようなものがあります」
アコの報告に、ウドミが速度を落とし、リアシュが双眼鏡を携えてハッチから出てきました。
そこには、カヴェナンターの行く手を遮るように、幅数十メートルはあろうかという巨大な道が横たわっていたのでした。




