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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
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1-B.20

 崖の淵に車体を隠しながら、数百メートルほど先で行われようとしている戦闘を覗き見るCRST。その、三人の出歯亀な視線を知ってか知らずか、豆戦車TKSから身を乗り出した人物は細長い何かを取り出し、もはや鉄の壁のようなA42Vの車体に向けています。

「……棒……ですか?」

「あれは……対戦車ライフルです。まさか、シモノフPTRS1941……!?」

「なんですの、それは?」

「ソ連の対戦車ライフルですわ。それも、口径14.5ミリの、とびきり強力な。PBOに存在しましたのね……!」

 驚愕と恍惚が入り混じったような表情で食い入るように双眼鏡を目に押し当てるリアシュ。アコから見たらせいぜい脚立の付いた鉄の棒のようにしか見えないので、デグチャレフだと言われようが物干し竿だと言われようがそうなんですね、と納得するしかありません。

「ですが、強力と言っても14.5ミリですよね?120ミリでダメだったものを抜けるとは思えないんですが」

「……ええ。仰る通りですわ。どういうつもりですの……?」

 三人の疑問に答えるように、構えられたシモノフ対戦車ライフルが火を噴きました。高い発砲音がアコたちのもとまで響いてきます。しかし、A42Vのそびえ立つ側面装甲には弾痕すら見当たりませんでした。

 間髪入れず、TKSから頭とライフルを出すプレイヤーは第二射を発砲。しかし、何度繰り返しても結果は同じです。三発目は、A42Vの足元を狙うように撃ち下ろされましたが、同じくA42Vの動きに変化は与えませんでした。

 そして、三度も相次いだ銃声にA42Vが無反応であるはずがありません。鼻先に備えられた厳つい砲を、蟻のように小さなTKSにお見舞いしようと巨体が旋回を始めます。しかし、天から見れば左回転は途中で中断されました。

「丘と車体が干渉して主砲がTKSを向かない!」

「なるほど、ずっとこれを待っていましたのね」

 A42VがTKSに主砲を向ける為には、一度丘から離れて向き直る必要があります。これを狙ってやっているとすれば、TKSに乗っているチームにはどうやら相当な切れ者がいるようです。

 しかし、そんな冴えた作戦すら大股で越えてくるのがBCS。アコは言い知れぬ悪寒を感じ、TKSに向けていた双眼鏡にA42Vを写しました。そして、光の乱舞に目をやられました。

 思わず双眼鏡から離したアコの目に、今BCS何度目か知れぬ信じられない光景が飛び込んできます。丘が、どんどん削れていくのです。耳には連続した砲声、そして頭上からは野太い風切り音が途切れず届いてきました。あまりの騒音に声を張らないと互いの声も聞こえません。

「これって……機関銃!?」

 A42Vの主砲は、箱型の車体の正面に開いた窓から突き出ています。しかし、その巨体に付いた窓は一つではありませんでした。今、火を噴いているのはそんな窓のうち、側面装甲に開いた二つの窓から突き出た筒。主砲と比べ一回り小さいその円筒の正体は。

「A42Vの副武装はMG08重機関銃……もし、機関銃まで6倍サイズなら……口径48ミリの機関銃、いえ機関砲ということになりますわ!」

「戦車砲じゃないですか!」

「そんな機関砲がありますの!?」

「MG08の機構のままでは確実に壊れますわ!」

 戦慄き震える三名の前で、丘だったものはあっという間に向かって右半分を裸にされました。

「TKSは……!?」

「稜線に逃げ込んだようにも見えましたが……」

 パッと見たところ、赤い撃破タグは見当たりません。アコとウドミが仲良く双眼鏡を左右に振って探しますが、リアシュが先に見つけました。

「いえ、無事ですわ!……っ!」

 そして、何を見たのか緊迫した表情でウドミに向き直ります。

「ウドミ!全速力で後退!」

「え!?は、はい!」

 例の如く、その声に条件反射で動いたウドミの体躯が操縦席に滑り込み、カヴェナンターはアコがゾッとするほどの速度で後退を始めます。右の履帯が滑るのを足裏の感触が伝えてきて、アコの心臓は縮み上がりましたが、直後の出来事にその恐怖は上書きされました。

 ほんの数瞬前までアコの頭があった場所を、鋭い風切り音を振りまきながら回転して飛翔するライフル弾が通過したのです。カヴェナンターが履帯を滑らせ体勢を崩していなければ、アコは今頃ヘッドショットを食らい一撃でゲームオーバーです。

「ひいっ!」

「アコ!車内へ!」

 リアシュの細い腕がアコをハッチに引きずり込む間にも、ウドミは必死にレバーを切り替え、なんとか道に復帰していました。

「撃ってきた!?」

「こちらに気づいていましたのね!」

 ウドミに停車を指示したリアシュは、悔し気に歪んだ口元を左手で覆い隠し、右手の双眼鏡を目に当てます。TKSは丘をまっすぐこちらに向かって降りてきています。言うまでもなく、今のはあのTKSが撃った対戦車ライフルの弾でした。

「撃ち返しましょう!所詮は豆戦車、榴弾なら当てなくても撃破できます!」

「挑発ですわ。今出ればA42Vに補足されます」

 リアシュの冷静な声に、アコは口ごもります。

「シモノフの装甲貫徹能力は100メートルで30ミリ程度。安い挑発です」

「しかし……この道に入ってきたら、こっちまで巻き添え食らいますよ!」

「入ってきませんわ」

 リアシュが双眼鏡でTKSの方を指して言いました。

「ほら、止まりました」

 言葉通り、そのまま崖の道にまで侵入してくるかという勢いで斜面を駆け下っていたTKSは丘の中腹で停車していました。

「共倒れを狙うほど、馬鹿では無さそうですわよ」

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