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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
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1-B.17

 スタートを切った時点ではわずかにアコに先行していたウドミでしたが、低いDEX(敏捷)が祟りすぐに追いつかれてしまいます。それでも逞しい体躯を必死に動かし、何とか材木倉庫を出たウドミと、その背中を押すようにして転がり出たアコは、頭上でキラリと光るものを一瞬見た気がしました。

 走る勢いのままスライディングして地面に伏せるアコの上に、ウドミが覆いかぶさるように倒れてきます。故意だったのか、それとも転んだのか考える間もなく、薄い屋根を突き破って材木倉庫に侵入した物体が爆裂しました。爆風が五感を奪い、二人の頭上を倉庫の残骸が飛んでいきます。

 一通りその余波が収まり、アコは背中の上で何だかぐったりしているウドミに声をかけました。

「……っ、大丈夫ですか!?ウドミさん」

「ダメージを受けていますわ。破片を受けてしまったみたい……」

 ウドミに組み伏せられた体勢のアコからは見えませんが、ウドミの背中には大きな木片が突き立っていました。本来アコにも降り注ぐはずだったものです、感謝の念と謝罪の言葉は尽きませんが、今は先にやることがあります。PBOにおいては先輩な、アコがやるべきことです。

「動けますか?」

「すみません、力が入らず……」

「……重症判定が出てますね」

 重症判定とは、一度に大きなダメージを受けた時に発生するいわゆる状態異常バッドステータス。一時的にダメージを受けた部位が不自由状態に陥り、欠損に次いで重篤な重症判定の一つである骨折判定を受ければ、専用の回復アイテムを使うまで動けなくなります。他にも脳震盪や変わり種では熱中症といった状態異常が実装されており、判定を受けた時は可及的速やかに解除したいところ。

 ウドミは腰から背中にかけて重症判定が出たようで、少なくともしばらくは全身が動かせないでしょう。骨折でないことを祈ります。BCSに持ち込める回復アイテムは、三割回復という最低限の効果のものだけなのです。解消できるのは流血状態のみ。

 アコは迷うことなく、ウドミを背負ったまま匍匐前進を始めました。目指すは十数メートルほど先に見える木の裏。

 四肢に力を込め、ウドミの巨体を持ち上げます。そして、一歩一歩をズリズリと進んでいきます。ただの女子高生でありしかもちょっと運動は苦手な朝倉桜子にはとてもできない芸当ですが、アコにはそれを可能にするだけのSTR(筋力)とスキルがあるのです。

 乾き始めた地面に右腹も汚しながら、太陽の光を避けるように這い、ようやく木陰に入ってアコは体を地に落としました。しばらくそうして様子を窺っていましたが、爆発が再び起こることはありませんでした。

 アコは一息を吐き、ウドミの下を這い出します。振り返ってみるウドミの背中には、思ったよりも大きな木片が突き刺さっていました。

「抜きますね」

「はい」

 ウドミがキュッと歯を食いしばるような表情を見せますが、流石のPBOも痛覚は再現していないのでそんな顔をしなくても大丈夫ですよ。アコは木片を無造作に抜くと、注射を怖がる女児を諌める医者のような声をウドミにかけます。

「抜けましたよ。どうですか、動けます?」

「ええと……少し、力は入るようになりましたかしら」

 まだ、移動できるようになるにはかかりそうです。

「ダメージはどのくらいですか?」

「四割くらい損ないました。回復するべきでしょうか?」

「そうしましょう」

 ウドミは、まだ力の入り切っていない体を起こして木に預けると、ストレージから回復アイテムを取り出し、使用しました。CRSTは三人のチームであり、人員的な余裕がありません。回復を惜しむ理由はありませんでした。

 回復中のエフェクトによってほのかに発光しているウドミを眺めながら、アコは思考を巡らします。自分だけでもカヴェナンターへ戻り、リアシュに判断を仰ぐべきでしょうか。しかし、このウドミを置き去りにするというのは忍びありません。

「あ、さっきは庇ってくれて、ありがとうございました」

「つい、いつもの癖でして……それに、体力の多い者が盾になるのは理にかなっています」

 確かに、アコがあの怪我をしていたら四割なんてダメージでは済まなかったでしょう。リアシュの肉盾を地で行く姿勢を見せるウドミに、アコは尊敬の念を覚えました。

「それで、先ほどの爆発は何だったのですか?砲撃、だと思うのですが」

「ええ、そうです。砲撃です。多分ですが、迫撃砲があの材木倉庫にあったんだと思います。私たちよりも先に見つけていたチームに撃たれたんでしょう」

 半壊した材木倉庫とその地面を見る限り、屋根に接触した時点で榴弾の信管が作動してしまい、空中で爆発したようです。中々の威力を発揮してくれやがりました。

「まあ、最初から狙われていたってことです。小屋を見つけたら、皆入りたくなっちゃいますからね」

「酷いですわ!」

 ウドミは憤りますが、これはBCSの常套手段でもあるのです。もし迫撃砲が残っていればアコだってそうしたでしょう。マップの端だから誰も来ていないだろうと高を括り、油断していたアコにこそ非があります。

「さて、そろそろ動けますか?」

「ええ……はい。動けますわ」

「では、行きましょう。二発目が来るかもしれませんし、それに……」

 土を払って立ち上がったアコの足元で一瞬呆けていたウドミでしたが、ハッと思い出したような顔をして急いで立ち上がります。

「それに、A42Vが来ます」

 眼下、遠くの巨体の鬼は、迫撃砲の音に誘われて真っすぐこちらに向かって動き出していました。

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