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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
41/159

1-B.16

 現実での学年はウドミこと椿姫の方が上ですが、PBO歴を見れば先輩はアコです。だからと言うわけでもありませんが、斜面を登るアコはウドミに先行していました。

 曲がりくねる木々が入り組んだ道は、特に大柄なウドミにとっては歩きにくいことこの上ないでしょう。BCSに参加するPBOプレイヤーとして必携の装備の筆頭である鉈を片手に、率先して道を開きながら登ります。折り畳み式でコンパクトなお気に入りです。背後でウドミが枝を踏むポキポキという音を確認しつつ、もちろん周囲の警戒も忘れません。

 しかし、そんな木々の茂るのも丘の中腹まで。いきなり開けた視界に目を細めつつ、アコはしゃがみ込んでウドミを振り返り、ズリズリと腕で空気をかくゼスチャーをしながら、言いました。

「ここからは一応、這っていきましょう」

「かしこまりましたわ」

 よもや人間サイズのものが動いたのを感知して撃ってくるとは思えませんが、A42Vを警戒し、二人は匍匐前進で進みます。スキル『匍匐前進』を持つアコは、左半身を地面に押し付け右足で地面を蹴りながらスイスイと進むことができますが、恐らくはDEX(敏捷)が足りず取得できないのでしょう、スキルを持っていないらしいウドミはなかなか苦労している様子でした。

 ようやく着いた小屋を左に回り込んで、アコとウドミはようやく腰を浮かせました。泥塗れのお腹を互いに見つめ、どちらからともなく笑みを交わします。北を振り返れば、草原エリアが一望出来ました。広大な草原の真ん中にはアコたちが立つ丘の頂上よりも遥かに高い小山がそびえており、恐らくそこがこの中州島の中心にあたるのでしょう。

 天から見れば長方形の小屋は、南のA42Vとは逆、北に向いた短辺の面に入口を構えていました。A42Vに直接見られながら、人間よりも随分大きなサイズの木製の観音開きの扉を開ける度胸はちょっとありません。幸運と言うべきでしょう。

 二人は頷き合い、左右の扉を手前に引っ張ります。軋みながら開いた扉の隙間から、湿った空気と独特な臭いが流れ出てきました。中を見れば、床には枝打ちされた丸太が束ねて寝かされており、それを加工した四角い木材が壁に立て掛けられています。小屋と言うより倉庫という風情ですが、壁に立てかけられたものも含めて木材は朽ちかけており、相応の時間の流れを感じさせました。

 中を覗き込むウドミが、納得がいったと言う風に嘆息して、言います。

「なるほど、やはり下の林は植林場でしたのね。道理で、人も住んでいないのに堤を築いてまでおかしな場所を守っていると思いましたわ。あちらで伐った木が、こちらで保管されているのでしょう」

 ウドミが壁の角材を撫で、見上げながらそんな考察に耽る傍ら、アコは別の場所に目を奪われていました。それは、足元。雨水と泥の溜まった小屋改め材木倉庫の床には、アコたちのものではない足跡がありました。よくよく見れば、背後の草の上にも二本の線状に圧し潰された跡があります。材木倉庫の中から続く靴の痕跡は、アコの足元を過ぎて、背中の向こうへ消えていきます。

 アコは、その跡に導かれるように材木倉庫の中へ足を進めます。泥に汚れた床に、濡れた足音が嫌に響きました。泥の靴跡は、縦に長い倉庫の一番奥から続いているようでした。

 存外に明るい倉庫の中、その光は穴の開いた天井から差す日の光です。中でも一際大きな穴から漏れ落ちる光の柱が、倉庫の最奥の一角を照らしています。アコが視線を上げるその先、その明るい一か所には、何もありませんでした。

 いいえ、「何もない」があったと言うべきでしょう。不自然に木材が避けられ空いたスペース、あたかもそこに何かあると言いたげな光の差す演出、そしてそこに伸びる、あるいはそこから伸びる足跡。

 導かれる答えは、ここにあったアイテムは既に別のプレイヤーに先取されており、またそのアイテムとは携行できる程度のものであるということ。アコの脳裏をいくつかの候補がよぎり、中でも最悪の可能性に思い当って、思わず生唾を呑み下します。

「アコさん、ここは日本なのかもしれませんわね。林の木も大きいけれど杉でしたし……」

 アコは憔悴しつつ、背後で入り口付近の木材から物色を始めたウドミの声を遮って言いました。

「ウドミさん、逃げた方がいいかもしれません」

「え?」

 足を止め、振り返ったウドミが怪訝そうな顔をしますが、アコの予想では説明している時間はありません。幸いにも、退路を確保するPBOプレイヤーとしての習性のおかげで、行儀悪くも材木倉庫の扉は全開。最近はリアルでもこの癖が出てしまい、家中のドアが開きっぱなしになってしまうのですが、それもこれもこういう事態に備える為の習慣なのです。アコは言葉の代わりに、全開の扉を強く指差しました。

 その切迫した表情からウドミも危機感を共有した様子で、二人はよーいドンもなしに同時に駆けだします。倉庫の扉をくぐり抜けた瞬間、どこかでボンッという音が聞こえたような気がしました。

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