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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
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1-B.15

 長く続いた堤防の果てに、目指す高地へつながる道は確かにありました。あったのですが。

「うわあ……」

 そこには、崖の壁面を削って作られたと思われるつづら折りの坂道がありました。まず左へ向かう急勾配の道は、しばらく行ったところで折り返し次は右へ。それを五回ほど繰り返し、ほとんど直角のような高い崖を登るコースです。

 徒歩で歩くにもそれなりの勇気の要りそうなその道の、何が問題かと言うとそれは幅。崖を削って作られている以上仕方のない事ではありますが、比較的小柄な戦車であるカヴェナンターでもギリギリ車体がはみ出るかはみ出ないかというくらいです。もしもあのP43がここまで辿り着いたとしても、待っていたのは絶望のみだったのかもしれません。いえ、あの操縦の腕前なら踏破してしまうかもしれませんが。

 申し訳程度にところどころ柵とか丸太と言ったもので落下防止が為されているようですが、そもそも戦車が通ることなどとても想定されていないでしょうから焼け石に水です。むしろ、一見したところ柵の数よりも崩れている箇所の方が多いほどでした。

 一人地面に降り立ち、登れそうかの確認をしていたアコは、至極真っ当に尻込みしました。

「一応、地面は大丈夫そうですが……流石にちょっと……」

 リアシュはニコリと頷いてから言いました。

「急ぎましょう。一応、ここも射線が通っているのです」

 A42Vは未だに崖の上に留まっているようで、下から見上げてもその巨体の一部がチラチラと覗きます。こちらのことは既に見失っているようですが、もしも気づいて以前見せたようにその多脚を活かしてアクロバティックな姿勢で射撃してきたら、ここも吹き飛びかねません。

 ウドミがレバーをグッと倒し、青褪めつつも腹を決めたアコが乗り込んだカヴェナンターはおもむろに傾斜に履帯をかけました。

 流石はリアシュお墨付きのエンジン、カヴェナンターは無理を感じさせることなく着々と険しい坂道を走破し、まずは第一の関門、折り返し地点に差し掛かります。

 車体前部で壁を削り、後部を崖からはみ出させながら、砲塔が邪魔にならないよう回して調整するアコも手伝ってカヴェナンターはなんとか向きを反転させます。崩れた堤防すら越えたウドミのことです、臆病なアコも彼女のことを信じています。信じてはいますが、あと四回これをやると思うと気が遠くなります。今ほど超信地旋回の大切さを思ったことはありません。

 視界の隅に、崖上でまだウロウロしているA42Vを収めながら、アコは砲塔を前向きに戻しました。


 長い長いと言いつつも、ものの数分で一行は焦がれに焦がれた高地にあと一歩のところまで来ていました。ヒヤッとする場面もあったものの、崩れ行く堤防に比べればまったくもってへでもありません。ビビって損しました。

 崖を乗り越えたカヴェナンターの行く手を遮るのは、小高い丘。周囲には、低地ほどの密度ではないにせよ、低地では見なかった広葉樹が茂っており、それらが真っ直ぐ立たないせいで鬱蒼とした印象が強いです。そしてあの小さい丘の向こうには、草原エリアが広がっているのでしょう。

 木々は丘の中腹辺りまで覆っているのですが、その先は開けており、頂上辺りには粗末な小屋が一軒建てられているのが見えました。そして崖を背にして右手、南の方向には、A42Vが相変わらず双眼鏡を使うまでもない車体を晒していました。変わらぬ位置で、木々の間から姿を見せるのを待ち伏せているかのようにその巨砲はこちらの方を向いています。

 丘の稜線にカヴェナンターを隠し、三人はその巨体を窺うように見やります。

「これでは動けませんわ」

「できれば東側に行って欲しいのですけれど」

 ウドミの苦々しい声に、リアシュが同調します。丘を迂回しようにも、A42Vが近い状況ではプレイヤーと遭遇し交戦となってしまうのが怖いです。突っ切るなどもっての他。

「しばらくここに留まるというのも手では?」

 この丘の裏と言う場所は、背中は崖に、正面は丘と言う遮蔽物に挟まれたマップ端の隠れ家です。水が上がってくるまでは守りやすいここで引き籠るのもアリだと考え、アコは言いました。ウドミは納得の表情を浮かべ、リアシュも賛成の言葉を述べます。

「それも良いですわね。それに、少々景気良く最高速度を出し過ぎました。一度エンジンを診ておきたいところです」

 そうと決まれば長い堤防渡りの緊張も解け、気も安らぐというものです。視界の隅のA42Vが気になりますが、丘と周囲の木々がアコたちを隠してくれています。流石にお茶セットを広げることはしないものの、三人は小休憩の準備に取り掛かりました。

 とは言っても、そこまで暢気なものでもありません。森林迷彩塗装のカヴェナンターに草だの葉だのを被せる作業を終えると、アコとウドミは、持ち前の器用さで最後の仕上げを行うリアシュに言いました。

「小屋の探索に行ってきますね」

「私もお供します」

 アコとウドミが赴くのは、丘の上の掘っ立て小屋です。BCSにおいて、というよりもPBOにおいては、ああいう目立つ構造物の中には大抵アイテムがあると決まっています。はじめから二人で行くのもその運搬のため。

「お気を付けて。ああ、これをどうぞ」

「「ありがとうございます」わ」

 リアシュがストレージから取り出したのは、二つのポンチョ。迷彩柄で、リアシュの着ているそれと同じものです。今BCS開始直後に似たような会話をしたことは記憶に新しいですが、雨合羽として渡されたあの時と異なり、今度はれっきとした迷彩として活躍してくれるはず。カモフラージュ作業に戻るリアシュに見送られ、ポンチョを被ったアコとウドミは正面の小さい丘を登り始めました。

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