1-B.14
いよいよ、堤防の終わりが見えてきました。二キロほど先で、カヴェナンターの走るこの堤防は崖とぶつかります。遠目にも、崖の上に上がれそうな坂か何かが見えています。
だというのに喜べないのは何故か。それはまあ、先ほどから断続的に響く爆発音を聞けば一目ならぬ一聞瞭然ですよね。
そろそろエンジンの限界が気がかりですが、カヴェナンターは相変わらず時速70キロで爆走していました。その前後で何度も起こる爆発が、すべてを物語っています。
「そもそも口径342ミリで榴弾はズルなんじゃないですかぁ!?」
「やはり、音で聞きつけたからと言って目で追わないということはありませんのね……これはズルですわ」
アコのみならずリアシュまでもが揃って不平を述べるのにも訳があります。最初に二発程度徹甲弾を撃ったA42Vは、そのいずれもが躱されたことを受けて弾種を変更したのです。徹甲弾から、榴弾に。
高度で勝ることを存分に活かし、撃ち下ろしで推定500キログラムを越えるサイズの爆弾を撃ち込んでくるのです。カヴェナンターの中にいる以上爆風はともかくとして、恐ろしいのはその破片。20メートルくらいの位置に着弾したものでも、その破片で撃破され得る威力を秘めています。履帯などに直撃すれば、さらに距離があったとしても危ないかもしれません。また、ともかくとした爆風にしても、迂闊にハッチが開けられず少々ストレスです。
救いがあるとすれば、大口径の割に短い砲身のせいか照準精度は低いこと。カヴェナンターを狙う弾が、最大100メートルにかけてランダムな位置に着弾します。思えばA42Vがここまで撃破してきたのは全て静止目標でした。しかし、逆に言えば一度でも止まれば一撃で撃破されるということ。結局CRSTにできることは、PBOの神様にお祈りを捧げながら爆走することだけなのでした。あとは、我らが操縦手を応援すること。
「ウドミさん、頑張れ~……」
「あ、ありがとうございますわっ!できれば代わっていただきたいのですけれど!?」
というわけで今仕事しているのはウドミだけです。ただ走れば良いというわけでもなく、後ろに着弾したならともかくまれに前方に着弾したときなどは抉れた地面に足を取られないように気を使います。神経を衰弱させることにかけてはその名を冠するカードゲームに上回る作業です。
ではアコとリアシュは何もしていないのかと言うと、アコはともかくリアシュはそんなことはありません。いえもちろん、アコも応援及び祈祷と言う大仕事を果たしているのですが、リアシュは今、頭を働かせていました。即ち、このまま生死を確率に委ねて爆走を続けるか、何かしらの手を打つかということ。ですが、堤防の上には逃げ場がありません。右にはいずれ水没する森林、左には既に水没している大河。まさか、堤防から下りるわけにも行きません。あるいは翼でもあれば。
しかし、彼女にはこのまま地を行くメリットもまた思いつかれていたのでした。と言うのは、かれこれ背後に数百メートルに渡って続くボコボコの堤防のことです。リアシュの横で必死に拝むアコの願いも虚しく止むことのない大振動は、確実に堤防を蝕んでいると思われました。なんなら数発に一発はもろに堤防壁面に炸裂し、大穴を開けていくのです。そして、その大穴からは言わずもがな水が流れ込みます。
「それのどこがメリットなんですか!?」
「低地の浸水が早まれば、森林の南東エリアにチームが密集するでしょう?そうなれば必ず戦闘が起きますし、それをA42Vが聞きつければこの森林エリアから脱出するのに東の坂は通りにくくなりますわ」
「でもA42Vはここにいますよ!?」
「だからこそ早く向こうに行ってほしいのですわ」
リアシュの見立てでは、崖に到着するまで残り一分ほど。その間にA42Vが発砲する回数は、三から四回程度。ここまでの統計から、それらが全てカヴェナンターの後方に着弾するか、ないしは堤防を飛び越えていく確率は……。
リアシュは頭を働かせた結果、できることは一つだと確信しました。いそいそと小さい体を生かして自身の左下、操縦席の背後のスペースに潜り込み、精一杯の誠意を込めて囁くのです。
「ウドミ、頑張ってくださいまし」
「はい!私、身命賭して頑張りますわ!」
はたして、カヴェナンターは無事に崖にたどり着けたのでした。




