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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
38/159

1-B.13

 敵ながら拍手の一つでも贈りたい神業を披露してくれたP43でしたが敵は敵。拍手どころか、ブーイングでもくれてやりたいところです。ただ、先ほどに比べて状況が好転した要素があるとすれば、ビハインドを大分取り返したという点。

 既に彼我の距離は100メートルを優に切りましたが、カヴェナンターは狙えず、P43は懲りたのでしょう、互いに発砲せず無心で片や短距離走、片や綱渡りに励みます。双方、目指すのは前方の、生い茂る葉。

 カヴェナンターが変わり映えしない平地を走る傍ら、P43の道は先細る一方です。さらに、枝打ちもされていないため足元は葉々に埋もれ、その細い幹すらどこにあるかわからない状態。

 はたして、先着したのはアタマ差でカヴェナンター号でした。P43の鼻先と堤防までの距離は実に50センチ。あと数秒あれば、辿り着けていたでしょう。しかし敗北は敗北です。勝者たるカヴェナンターは、やることはきっちりやります。

 アコとしては敵を狙い辛い要因でもあったのですが敵の射撃を避けるため、なるべく堤防上の川側に寄って走行していたウドミでしたが、ゴールテープを切る瞬間、目一杯森側の縁に寄り、そこに立て掛けられた幹に体当たりしました。

 減速しつつも重い大木を二本まとめて押し切り、葉を突き抜けると、背後で即席の橋が傾き、その上に乗る通行人ともども落ちていこうとしています。なんなら、もう落ちたと言っても過言でないでしょう。

 が、P43は先ほどのが決してまぐれや火事場の馬鹿力などでないことを見せつけるように、本日二度目のスーパープレイを見せつけるのです。

 落ち行く幹の上に有りながら、天から見てP43の履帯は常に堤防の岸に垂直です。超信地旋回を許されない足でありながら左右の履帯を前後させ、全然不安定な足場を蹴って僅かにでも前進しようとしています。そして砲塔は、いつの間にか車台と正反対、後方を向いていました。その90ミリの口径を持つ砲が火を噴きます。舞う葉を越して上がる爆炎はとてもきれいに見えました。そしてそして、その発砲の結果どうなったのかと言うと。

 P43は飛翔しました。

 丸太の橋から堤防までの短くとも確実に存在した距離を、砲の反動の仕事量で飛び越えたのです。

「あんなことできるんですか!?」

「……P40は、Pesante(重戦車)と名の付くものの重さは中戦車の軽さですわ……こういうことも……あるのかしら……?いえ、P43なら30トンを越えますから……?90mmの後座反動は8.8cmと同じくらいと考えてよいのかしら……?」

 流石のリアシュも混乱のあまり何かを計算し始めてしまいました。

 P43は堤防に半分ほどまで乗り上げ、後ろに傾きつつも履帯を猛回転して立て直し、その履帯が堤防の上の土に叩きつけられた時には、砲塔の旋回は完了しつつあり90ミリの穴がこちらを見ていました。

 マズいです。どんな照準の緩い砲だって、この狭い一本道の堤防の上でなら命中させられるでしょう。距離だって、戦車戦においては100メートルを切ったら無いも同然です。さらに、向こうは念願の確固たる地面を手に入れているのです。外してくれるとは思えません。

 砲塔前面の防盾を頼って砲塔を旋回させようにも引き金が引かれる方が絶対に速いですし、あったとしても防げる威力ではありません。避ける?どこに?

 今更のように、橋としての役目を終えた大木が地面にその幹を横たえる音が届いてきました。車内を照らすのは黄色灯のみ。咄嗟にオレンジ色のリアシュの横顔を窺うと、彼女は口をキュッと結んで覗き窓からP43の砲の、時速70キロで遠のいていく黒い穴を見つめていました。その気配に祈るようなものを感じ、アコはいよいよ絶望します。アコもPBOの神様に祈りましょうか。と言っても何を?

 何でもいいから助けてくれ、と適当な願い事を心中で叫んだ瞬間でした。

 P43が再び飛翔しました。

 今度は、濁流の中へ。先ほどの二倍、いや三倍の距離を。

 目を剥くアコの横でリアシュが口角を吊り上げます。

 如何にSランクプレイヤーと言えど、ハットトリックとはいきませんでした。一瞬で空中へ放り出されたP43は、重力に従って放物線を描き、終いには巨大な水柱で直線を表現しました。水面の下で、赤い撃破タグが立ったのが見えた気がします。

 アコと、恐らく操縦席のウドミも呆然としていましたが、リアシュはハッチをピシャリと開き、双眼鏡片手に崖に視線を走らせます。そして見つけました。異形の超巨大戦車、A42Vです。その砲口から濛々と灰煙を立ち昇らせています。

「随分遅かったですこと」

 双眼鏡から目を外したリアシュは、P43が消えた水面に一瞥をそっと落とし、すぐに指示を出しました。

「さ、ウドミ!全力で加速ですわ!」

「か、かしこまりましたわ!」

 急加速したカヴェナンターの、最高速度の時速70キロを上回っているんじゃないかと思うほどのGによろめきながら、アコもハッチから顔を出し、遠ざかっていくP43がいた辺りの地面を見やります。彼らの、奇跡のような神業群を思い出しながら、改めてすごいところに来てしまったものだと呟きを落とします。

 その直後、A42Vの第二射が、カヴェナンターが先ほど通過した地面を爆砕しました。

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