1-B.11
BCS三発目にして徹甲弾としては初弾となる砲弾が、純白のBT-42突撃砲の砲塔に炸裂しました。BT-42に赤い撃破タグがピョコンと立ちます。
下手すれば貫通してもおかしくないのですが、既にチェーンソーのエンジン音まで聞き取れるほどの距離まで近づいたBT-42の向こうから聞こえてくるヴンヴンという音が、金髪と黒髪のいる悪党チームの無事を証明しています。
アコは、ボコボコになったBT-42の装甲の向こうを、木こりチームの仇とばかりに睨みました。撃ったのはあなたですよ?
「ダメですね、ちょっと狙えそうにないです」
「それでは……彼らが伐っている木を、狙うことはできますか?」
「わかりました」
この時に至っては、アコにも悪党チーム及び今亡き木こりチームの思惑が読めていました。ほとんど垂直に切り立った堤防に登るため、橋として大木を並べて立て掛けるつもりなのです。そんなことが果たして可能なのか、アコにはわかりません。数十トンにも及ぶ戦車の荷重に、如何に太いと言えどただの木が耐えられるのでしょうか。そもそもバランスとか、およそ簡単なこととは思えません。
しかし、どうせ失敗すると高をくくって座視できるほどの確信もありません。だからこそ、リアシュも真剣な対応を見せているのでしょうし。アコがスコープの中で、垂直に伸びる木に狙いを定めた時でした。
リアシュの「停止!」の叫び声と、相変わらずの人間制動機のような反応を見せるウドミによる急減速がほぼ同時に起こり、次いで砲弾特有の風切り音が右から左に飛んでいきました。普段ならグレイズのような快感を起こす音ですが、BCS中、それも予期しないタイミングでは肝が冷えるだけです。
何事かと目で問うアコに、リアシュは口を用いて一言返答しました。
「待ち伏せです」
アコはどういうことかと考えます。何が起きたかというと、右から撃たれました。誰が撃ったかと言うと、多分悪党チームでしょう。白いBT-42に動きはありませんから、自前の戦車で撃ったに違いありません。忘れていたわけではありませんが、そう言えば、悪党チームは三人いました。内、チェーンソーを拾った金髪と、BT-42を盾にした黒髪はそこにいますが、もう一人はそこにはいないんですね。
そのもう一人がアコたちの目を盗んで自分の戦車に乗り込み、今の一撃を撃ったということでしょう。それに撃つと言っても、森林の外から動きながら撃ったアコと違い、森林の直中で足を止めての射撃となれば、木々が邪魔して射線も満足に通りません。木々のない場所にはじめから狙いをつけておく、いわゆる置きエイムで射撃したのでしょう。リアシュもそれを指して待ち伏せと言ったと思われました。
ハッチから顔を出して見ると、木々の隙間から緑色の車体が覗いていました。アレが砲撃の主でしょう。
「一瞬でしたが、P40重戦車に見えました。75ミリ砲で抜けない相手ではありませんが……」
「重戦車ですか……」
アコは、恐らくリアシュと同じ危機感を感じて冷や汗を垂らします。
「失敗しましたわ。今通ってしまえば良かったのに、既に装填は完了したでしょう……」
リアシュが、ハンカチがあれば噛みつきそうな悔しげな表情を浮かべます。アコも既に、彼女の焦りを共有していました。悪党チームの地点まで残り凡そ300メートルにして、足止めを食らっているのです。
「A42Vは既にこちらに向かってきているでしょう。この狭い堤防上で、もしも重戦車より後ろにいる状態でアレが到着したら……」
「……追い越しておかないとマズイですね」
なお、ベストは敵重戦車に堤防上へ登らせないことです。そしてそれは砲手の仕事ですが、アコは、Sランクチームのプレッシャーを前にして、彼らの行軍を阻止できないことをなんとなく直感していました。
ウドミが上申します。
「行きますか、リアシュ様?」
「……ええ。お願いしますわ、ウドミ」
言われるが否や、ウドミがアクセル全開とばかりに急発進します。アコも、恐らく敵砲手もギョッとしました。まさかこのまま強行突破でしょうか。と、思われましたが、ウドミは当然とばかりの顔で急制動。味方をも騙すほどの迫力で進撃していたのが噓のようにピタリと停車したカヴェナンターの鼻先を徹甲弾が走り抜けていき、先ほどの焼き直しのような光景が繰り返されました。
カヴェナンターは飄々と再加速し、緑の重戦車は木々に隠れました。ウドミは、射線と同時に緊張も切れたような声で言います。
「敵の焦りも有ったようで、助かりましたわ。ああ、ドキドキした……」
背もたれに預けられる広い背中が、ひたすらに頼もしく見えました。




