1-B.10
「……手前の方で良いですか?」
「ええ」
彼らは二手に分かれていました。
手前の方は森林エリアと堤防へ登る超急勾配の坂とのちょうど境目に立つ木の根元で、三人が伐採作業に勤しんでいます。隣には既に一本が切り倒され、高い堤防に立て掛けられるように倒れていました。
もう一方は、木々の奥に見え隠れする集団です。こっちの彼らは木を伐るでもなく、何をしているのか。パッと見たところこちらも三人。
狙うのは比較的射線の通る前者です。
「合わせたら六人もいますが」
「恐らく即席の混合チームです。私たちよりも北の地点にスポーンし、結託してこの低地を脱出しようとしているのでしょう」
「なるほど」
脱出と言うと、あの木こり作業が脱出につながるのでしょうか。そう言われるとアコにも正解と思われるものが何となく察せられましたが、正直、正気の沙汰とは思えませんでした。
照準器の中、高速道路の常夜灯のように次々と現れては後ろへ飛んでいく木々。徹甲弾ならば気にせず撃ってもそこまで威力が減衰することはありませんが、今装填しているのは榴弾です。榴弾を撃った経験の少ないアコは、それがどのくらいの衝撃で爆発してしまうのか知りませんでした。
ありがたいのは、常夜灯と同じく木々が異様に等間隔なこと。リズムゲームの要領で、その木々がちょうど射線上から消えるタイミングを見計らい、アコは引き金を引きました。今BCS初の発砲です。
音速に倍するくらいの速度で飛翔する物体が、林を縫って哀れな三人の木こりの足元に着弾します。そして、咲きました。一瞬の鋭い光に遅れて爆発音が耳に届き、光が消えた後には陥没した地面が残りました。三人がせっせと伐っていた大木が、あらぬ方向に倒れていきます。
空に舞う土の中に、恐らくは鋭い破片が混じっていることでしょう。一緒に舞っている三人の体がホログラムのように崩れ、赤い粒子となって空へ登っていきました。ゲームオーバーです。
ちなみに、BCSチーム部門におけるゲームオーバーの条件は二つあり、車輛が撃破されるか、チームが全滅するかのどちらかが満たされればそこでチームは敗退となります。彼らが見た通り三人チームならば、ここでさようならということです。
「おお……これが榴弾……」
一方のアコは、今しがた撃った榴弾の威力に感銘を受けていました。徹甲弾なら、こうは行きません。そもそもBCS中に車外活動をするという発想からして持っていなかったアコでしたが、コロリと手のひらを180度返し、榴弾に心を奪われていました。撃った弾が爆発するというのは存外楽しいものです。売り払った75ミリ砲、買い戻そうかな。
リアシュも少し鼻の高い様子でしたが、自慢げにコメントするほどの時間的余裕はないようでした。
「アコ、次弾装填完了しましたわ!」
そうでした、自動装填ではないのです。車長に装填手の真似事をさせてしまった以上、気を引き締めねば。
スコープ越しの視界で、一人のプレイヤーが結んだ長い金髪を靡かせ颯爽と走り、木こりトリオの一人が落ちた辺りに駆け寄りました。何をしているんでしょうか。撃ちづらいのでまとまった位置にいてください。
しゃがみ込み、しかしすぐに立ち上がったそのプレイヤーの手にはなんとチェーンソーがありました。なるほど、見ているだけだったのはチェーンソーを持っていなかったからのようです。アコの中で、チェーンソーを持っていないSランクチームの割合が三割強上昇しました。CRSTはノーカウント。
そんなアコの見ている先で、彼だか彼女だか知りませんが、チェーンソーを携えたそのプレイヤーはその足で手近な木に駆け寄ります。そして、その幹にチェーンソーを押し付けました。よく見るとそのソーチェーンは既に回転しているようです。落ちていた時から動いたままだったとすると、危ないですね。爆発に晒されても壊れなかったのは、向こうの幸運か、アコたちの不運か、はたまたチェーンソーが頑丈だったか。
そのプレイヤーを、リアシュが指さします。
「あれを撃ってください」
指定された目標に、照準は既に絞られています。アコが引き金に掛けた人差し指に力を込めた瞬間、その射線に白い壁が割り込んできました。アッと思ったときには、既に榴弾は空中にありました。
伐採に取り掛かったプレイヤーを守るように、一台の戦車が飛び込んできたのです。その砲塔側面に直撃した榴弾は先ほどと同様に咲き誇りましたが、撒き散らした鉄片がプレイヤーを傷つけることはありません。目立つ白い鉄の装甲に、少々の凹みと黒い焼け跡が残っただけでした。
呆気にとられるアコの横で、リアシュが対戦車戦を予期し徹甲弾の自動装填に戻す作業を始めます。割り込んできた純白の戦車のハッチからは、黒髪のプレイヤーが頭を出し、こちらに一瞥を寄越してすぐに戦車を脱出して、その白い鉄の塊の向こう側へ消えました。
「放棄した……?」
「先ほど全滅したチームの車輛ですわ。プレイヤーは消えても戦車は残りますから」
白い鉄塊、改め戦車の上には黄色の『全滅』タグが立っていました。
「盾にしたってことですか!?」
ちょっと人の道を外れている感がありますが、まあ所詮はゲームですしね。リアシュとしては、その白い戦車の方に興味があるようでした。小柄で軽そうですが、色々剥き出しな足回りがメカメカしくヤンチャ心をくすぐる戦車です。
「……BT-42突撃砲ですわね。砲は6ポンド砲に見えますわ。装甲は紙も同然なはずですが、流石に榴弾では壊せませんでしたか」
どうやら、見たまま装甲の薄い戦車らしいです。先ほど射線に割り込んだ時の俊足と合わせて鑑みるに、きっとCRSTのカヴェナンターと同じような発想で走力に振った戦車と思われます。その割に被弾覚悟の目立つ白ペイントなのは、何か拘りでもあるのでしょうか。
色には合点が行きませんが、納得の行くこともありました。木こりチームとそれを見ていただけだった彼らがどうして結託したのか。恐らく、防御力の低いBT-42の木こりチームは、低地からの脱出方法を提案することで命乞いしたのでしょう。アコの中で、今は木こりチーム二世となった白い戦車の向こうの三人組が、邪悪な笑みを浮かべる悪党集団のイメージで決定しました。




