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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
34/159

1-B.9

 カヴェナンターは相変わらず堤防の上を走っています。開始時には、こんな一本道を走り続けるBCSになるとは夢にも思いませんでした。思えば、この大会が始まってからアコは碌な働きをしていません。やったことと言えば、超威力の砲にビビり、崩れた堤防渡りにビビり、ビビっていない時は頼れる車長の横で相槌のようなものを打っていただけ。どうせ撃つなら、砲弾の一つも撃って敵戦車を撃破したいものです。

 左では、これまた相も変わらず濁流が音を轟かせています。見下ろす分にはやはり、特に怖くもないのになあ、とアコは思いました。右に広がる森林エリアにしても、こちらも代わり映えはしません。強いて言うなら、堤防と地面の成す角度はついに、ほとんど垂直になりました。

 ただ、森林エリアの向こうの巨大な崖との距離は、目に見えて近づいてきていました。だと言うのに高さの差はあまり縮まらないのは気になるところですが、まあ、上手い具合に通れるようになっているのでしょう。マップを見直しても、道を示す白く太い線は、堤防から崖の上に続いています。とは言え、そんな心配をしているのはリアシュくらいなもので、ウドミは快調に飛ばしてご機嫌ですし、アコは目標を求めてペリスコープを覗き込んでいるのでした。

 さて、アコがリアシュに目標発見の旨を報告したのは、堤防決壊から数分のことでした。報告を受けて渡した双眼鏡を覗き込むリアシュのヘルメットを眺めながら、アコは先ほど見たものについて考えます。

 端的に言えば、500メートルほど先で、数人のプレイヤーがチェーンソーで森林の端の木を切り倒していました。どういう目的があってそんなことをしているのかはアコにはわかりません。仰角を取って何かを撃ちたいにしても、目標となりそうなものはせいぜいこのカヴェナンターくらいのものです。もしかしたらそうなのかも知れませんが、アコには判断がつきませんでした。まあ、リアシュならわかるでしょう。

 T34重戦車のチームに続いてのチェーンソーで木を切り倒しているチームとの遭遇に、アコの中では一つの仮説が浮かんでいました。Sランクプレイヤーは皆、林業スキル及びチェーンソーを持っているのでは。ここで言う林業スキルとはもちろんPBOにおけるスキルのことではなく、技能という意味でのスキル。PBOに林業関連のスキルは存在しません。

 もしや、このお方もチェーンソーを持ち歩いているのでしょうか。そんな下らないことを考えながら小さな背中を見ていると、振り返ったリアシュと目が合いました。そのグレーの瞳に緊迫感が浮かんでいて、アコはテレテレする暇もなく彼女の指示を待つ姿勢に入ります。

「ウドミ、速度制限(リミッター)を解除して構いません。良いというまで最高速度で走り続けてください」

「かしこまりました」

 まず指示を受けたウドミは、足元の調速機の速度制限を解除しレバーを強く倒します。カヴェナンターがかつてない速度で走り出し、アコはそのGに思わず仰け反りました。

 スロットの効果も含めて最高時速60キロを誇るCRSTのカヴェナンターですが、実はこの数字は制限を受けた状態でのもの。制限を外せば、何と時速70キロという現代戦車並の超高速で走行可能なのです。ちなみに、この状態であまり長く走り続けると当然のごとく故障します。

 ウドミの次は、アコに指示が振ってきました。

「アコ、今装填されている徹甲弾を、榴弾に換えてくださいまし」

「え?はい」

 その意外な内容に戸惑いつつも、アコは作業に取り掛かります。

 PBOにおいては、基本的に砲弾は自動装填。PBOの自動装填装置は、安価で大してスペースを取ることもなく、積むデメリットがほとんどない魔法のような機械です。他の部分ではそれなりに厳密なPBOも、自動装填に関しては緩いです。理由はひとえに、弾を込めるだけのゲームでは退屈だからでしょう。

 CRSTのカヴェナンターも、ちょっとお高い自動装填装置を搭載しています。ベルト式で、一発撃ったら自動で次弾が装填される方式。射撃間隔が短い反面、弾種を換える際には少し手間がかかります。アコたちは、徹甲弾を弾帯に、榴弾を弾薬室にて持ち込んでいるので、榴弾を撃つには、弾帯を外して自動装填された徹甲弾を一度取り出し、榴弾を込めなくてはなりません。

 作業を完了し、続く指示を請うアコに、リアシュは言いました。

「撃ってください」

「撃つ、ですか?」

 アコは思わず聞き返しました。弾を込めた次にやることです。当たり前の指示のようですが、アコが聞き返すのにも聞き返すだけの理由があります。

「A42Vは発砲音に反応するんでしたよね。撃ったら見つかります!」

 言われてリアシュは進行方向右手、崖の方角を睨みます。いつの間にやら、崖の上からA42Vの歪な影は消えていましたが、鈍重そうなあの見た目、そう遠くへは行っていないでしょう。

「リスクは承知です。いえ、あの『鬼』がいるからこそ撃たなければ……」

 いるからこそ?どういう意味でしょうか。しかし、リアシュは後で説明するとばかりにそれきり口を閉ざし、そのグレーの瞳で急かしてきます。アコがそんな眼差しに逆らえるはずもなく、致し方なく照準器を覗き込みました。

「……あの人たちですよね?」

「はい」

 アコは、とりあえず車長を信じることにして引き金に指をかけました。

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