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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
28/159

1-B.3

 緩やかに湾曲している堤防の上を、森林迷彩柄の戦車が快速で走り抜けます。左に流れる巨大河川の流れと逆向きに、北上していきます。堤防の上は、舗装こそされていないものの土は平らに固められており、先ほど公開されたマップ上でも白く太い線が通っていて一応『道』ではあるようです。無限軌道に特有の轍はカヴェナンターの前には見当たらず、少なくとも戦車用の道ではないようでしたが、カヴェナンターが二台並んでもギリギリ通れるくらいの幅はありました。

 アコとリアシュは、額を寄せ合ってそのマップとにらめっこしていました。「時間との戦いとなるかもしれない」という言葉と共にウドミに発進を指示したリアシュは、車内にてその意図の説明を始めたのでした。

 リアシュが板状端末の画面の左下を指さします。

「今いるのはここ、マップ全体の南西端と思われますわ」

「同意見です」

 これに関しては確定でいいでしょう。アコとリアシュは頷き合い、ウドミも操縦席で同意を示しています。

「大会が進行するにつれ、この島は沈んでいくでしょう。なるべく高所、つまり北に向かわなければいけません」

 現在地である島の南側は比較的低地であるようで、今もハッチから顔を出せば右手に見える大きな崖より南は崖の北より一段低く、森林に覆われていました。

「一応、マップの端に向かってしまっている可能性も考えてはいましたわ。下から確認した限り、この堤を北に進んでいけば、最終的には高地へ行けそうです。ただ……」

 リアシュが不安げに見つめるのは、地図に書かれた堤防の一点に記された、バツ印。このまま堤防上を北に進むならば、必ずそこを通らなければなりません。

「……何かしら、あるんでしょうね。障害になるものが」

「ですが、それらしきものがあれば、正確な現在地の特定にもなるのではないですか?」

「ええ。しかし、堤防にバツ印を書く意味など限られていますわ。つまり、決壊する箇所です」

 車体の左、眼下を暴れる凄まじい濁流に視線を落としながら、リアシュは語ります。

「現状から想像されるシナリオはこうですわ。いつから降っていたのかは知りませんが、十分前まで降り続いていた豪雨は、上流も含めたこの巨大な川の流域に大量の水を降らせました。あと数時間のうちにこの川はどんどん水かさを増し、いずれ堤防を越えてこの島に流れ込むのでしょう。そして、最終的に残るのは島の中央の高地のみ、あるいはそこも……」

 それまでにどれだけの時間があるのかはわかりませんが、BCSとしての意図を読めば精々数時間程度と思われます。

「バツ印の箇所で、最も早く越水が起こるものと思われますわ。あるいはもう始まっているかも」

 そこまで言われれば、リアシュの言う時間との戦いという言葉の意味も分かってきます。

「なるほど、それは急がなくてはいけませんね」

「その通りですわ。ウドミ、頼みますわよ」

「お任せください」

 カヴェナンターは心なしか一層速度を上げ、堤防の上を走っていきます。


 車長席のリアシュが顔を上げます。移動を始めてからずっとマップを見つめていた彼女でしたが、どうやら何かしらの思索は完了したようです。そして、ハッチから頭を出して周辺警戒を務めているアコに話しかけます。

「スポーンしたときは、森林エリアで都合が良いと思ったものですけれど、マップ全体で見ればまったく逆かもしれませんわ」

「本当にそうですね……せめて東の方ならよかったのに。森林エリアの東の方には、崖は無いんですね」

「ええ、坂のようになっているみたいですわ」

 リアシュの持つ板状端末を上から覗き込んで不平をたれるアコの言う通り、東側には低地と高地の間に崖はありません。

「救いがあるとすれば、なかなか接敵しないことですわね。スポーン地点が森林エリアに集中している、といったことは無いようです」

 低地帯はマップ全体の南方三割程度を占めています。完全にランダムならば、参加している十九チームのうち、この森林エリアにスポーンしたのは六チームほど。南西に限ればさらにその半分です。

「でもそれって、はじめから高地にスポーンしたチームもいるってことですよ。羨ましいです」

「ですが、高地はほとんどが開けた平地ですわ。『鬼』の存在を踏まえれば、生存率はむしろ低いと思われますわ」

 そう言われると、喉元辺りまで来ていた溜飲も多少は下がるというものです。

「この低地帯から脱出する方法は恐らく二つ想定されていますわ。一つは崖を東に迂回する方法。それと、私たちが今走っている西の堤防上を伝っていく方法です」

 前述の通り、森林エリアの東側は高地へ登るゆるやかな坂になっています。高地へ向かうならここを登っていくのが一番楽な方法と思われます。

 一方西は、北に進むにつれて堤防と林の地面が成す角度はどんどん急になっていき、いずれカヴェナンターでも登れなくなりそうです。ある程度南で登っておかないと、ある地点以北では重戦車などでは堤防に上がれなくなるでしょう。

「でも、それはマップが公開されて初めてわかることです。視界も悪かった中で、そんなことわかりませんよ」

「そして、マップ公開まで待っていては、もう浸水がすぐそこまで来ている上、あるいはそれより先に『鬼』に見つかる、と……悪辣ですわ。今思えば、傾斜が堤防に向かっていたのはヒントだったのかも知れませんわね」

「北に向かって崖にぶつかっていたらと思うとゾッとしません。結果オーライかと思いましたけど、割と意図に沿って行動できてたのかも」

 さりげないフォローを忘れないアコですが、リアシュにはお見通しだったようで、微笑と共に優し気な目をされてしまいました。

 すると、リアシュが急に真面目な声を出しました。

「アコ、ウドミも」

「は、はい」

「なんでしょうか」

 柔らかい表情を一転引き締めたリアシュに、アコも、黙々と運転に集中していたウドミも背筋を正します。

「不安にさせて申し訳ありませんでしたわ」

 リアシュの声から、不要な自責の念は感じ取られません。アコもウドミも、黙って耳を傾けます。

「運が味方して『結果オーライ』となりましたけれど、ミスはミスですわ。次はこうも行かないでしょう」

 そしてリアシュは、決意の滲む声で宣言しました。

「今後は私の知力、技術、経験、全てをもって勝ちに行きます。車長としての責務を果たしますわ」

 その宣言はこれ以上なく頼もしいものでした。

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