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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
23/159

1-B.0

 一週間は飛ぶ矢のように過ぎ、ついに第十九回BCSのSランク戦、その日がやってきました。

 正午を過ぎた頃から混みあいだしたハンガー二階のカフェテリアは、開始時刻である十三時の三十分前にして足の踏み場もない盛況ぶりを見せています。天井から吊るされた巨大なモニターで観戦しに来た者、翌日に迫った自分のBCSの為の情報収集が目的の者、はたまたどんちゃん騒ぎがしたいだけの者。多種多様なプレイヤーが、フォグバーグ中から集まってきていました。フォグバーグに限らず、PBOのワールド各所に存在する街々で似たような光景が広げられているのです。

 そんな彼らの足元、ハンガー一階部分は、いつもとレイアウトが異なっていました。巨大な空間の中央に聳え立つ、無数の格納庫。いつものそれと違い、豪華さが段違いです。また、出口が見当たらないのも特徴でしょうか。奥の方の何基かはすでに誰か入っているのか、赤いランプを灯しています。

 これは、あと三十分で始まるSランク戦のための特別な演出です。明日に開催されるAランク以下のBCSは、街の中にいればどこにいても突如として体がポリゴン化してフィールドに送られる、という情緒もへったくれもない始まり方をするのですが、Sランク戦は話が別と言うわけです。何と言っても、BCSのSランク戦はPBOにとっても大きな興行の一つ。その戦闘の様子はPBO内に止まらず、公式の動画チャンネルでも配信され、多くの人の目に触れることになります。

 もちろん、端の方には「BCSなんて関係ねぇ!」とばかりにフィールドへ繰り出していく猛者の為、普通の格納庫もいくつか残っていました。

 いくつもの巨大なモニターには、第十九回BCS『ウルトラ・タグ・ゲーム』のルールや出場Sランク選手のプロフィールなどが表示されています。チーム部門出場選手の中には、もちろんアコたちの顔も。モニターの下では公式によるスポーツ賭博が開催されており、面構えの違う連中が勢ぞろいしていました。他方、別の一角では、試合開始前から飲んだくれている集団がテーブル席を占拠しています。自然、若い層のプレイヤーが距離を取り、混雑していても棲み分けはできているように見えました。そんな中、一階を臨むテラス席の辺りの集団からどよめきが起こりました。

 彼らの視線の先、現れたのは一人のプレイヤー。緑がかった長い黒髪をポニーテールにまとめ上げ、マントに軍帽と言うコスプレがかった衣装を纏った女性プレイヤーです。タイミングよく巨大モニターにその凛々しい顔とプロフィールが映し出されます。どうやらソロ部門の選手のようです。単勝オッズは四倍前後。威風堂々たる風格を漂わせ、立ち並ぶ格納庫を一瞥すると、無造作に一番手前の格納庫に入っていきました。巨大なゲートが重い音を立てて閉じていき、ビーッという音が鳴って赤いランプが灯ります。

 その間、テラス席からは黄色い声の嵐。これに限っては、フォグバーグでしか見られない光景でした。実は、例えば今回のSランク戦チーム部門出場する十九チームのうち、十七チームがフォグバーグに拠点を置くチーム。今、手すりから身を乗り出しているようなミーハーな者の中には、普段は別の街を拠点にしているのに今日だけはこのフォグバーグにまで出張ってきて、ここで観戦するというものもいるのです。

 その時、テラス席の最前列の少し奥から、先ほどとは種類の違うどよめきが起こりました。

 金髪の超小柄な美幼女が、ハンガーに足を踏み入れたところでした。無数の視線が一点に集中されます。不躾な視線から庇うように、大柄な女と細身の女が前へ出ます。それでも幼女は気にした風も無く、そんな彼女に引き連れられて一団は手近な格納庫の中に消えていきました。そう、CRSTことリアシュ、ウドミ、アコの三人です。ウドミとアコは背中に大きなバックパックを背負っていました。

 ざわめきに見送られながら、背後のゲートが閉じ切ったことを確認し、最初に口を開いたのはリアシュでした。

「少し早く来すぎましたかしら?」

「そんなことはないんじゃないですか?他にももう入ってる格納庫がありましたし」

「遅れるよりはずっと良いですわ」

 口々にそんなことを言いながら、格納庫を見回す面々。当然、一週間ですっかり使い慣れたいつもの格納庫ではありません。殺風景なラックやロッカーには、お茶セットの代わりにBCS専用の道具がいくつか置かれています。

 しかし、中央のカヴェナンターだけは、昨日見た姿のままでした。昨夜にリアシュによる改装を終え、その砲は今はOQF75ミリ砲。鉄色だった車体は、森林迷彩に塗り上げられています。履帯を覆うスカートの上の空間の、スコップやジャッキ、また予備の履帯といった細々とした道具も万全です。

 ウドミが背の大きなバックパックを床に下ろすのに、アコも倣いました。このバックパックは単にストレージの容量を増やすアイテムで、物理的に入らないだろうというサイズの物も重量が許容値を超過しない限り入れることができます。例えば、一メートル越えの鉄の筒とか。対人戦ということで、リアシュたちはボーイズ対戦車ライフルをBCSに持ち込むことにしていました。

 アコは、棚に置かれたチームに一つの板状の情報端末と、三人分の回復アイテムを確認すると、他の二人に配りました。回復アイテムは、最大値の三割しか回復できない最低限の効果の物が一人一つのみ。この他に回復アイテムをBCSに持ち込むことはできません。

「心許ないですね」

「どのみち、戦車に負ければ使う暇もなくゲームオーバーですわ」

 リアシュは、アコから受け取った回復アイテムを実体化させた自分の小さなバックパックに収納し、動きを止めてアコを見やりました。

「アコ、先週の今日、あなたは私と一緒にゲームがすることを、とても嬉しいとおっしゃいましたわ」

 アコも、その真剣な瞳を見返します。

「返事が遅くなって申し訳ありません。アコ……私も、あなたと一緒にこうして遊ぶことができて、本当に嬉しく思っていますわ!」

「……こちらこそです!」

 瞳を潤ませ見つめ合うアコとリアシュの間に、ウドミも割って入ります。

「リアシュ様、私は?」

「もちろんウドミとも、一緒に遊べて嬉しいですわよっ!」

「光栄ですわ」

 リアシュが、二人の顔を見回して力強く宣言しました。

「勝ちましょう、皆さん!」

 そして、お茶目に付け加えます。

「実を言うとそろそろ、Aランクへの転落も見えていますの」

 入れ替わりの激しいSランク帯。前回ウドミと出場したBCSは悔しい結果に終わったリアシュは、降格がかかっているのでした。三人はカヴェナンターの点検もほどほどに、開始までの残り二十数分を談笑して過ごしました。

始まりますよ!

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