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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
21/159

1-A.20

 水曜日はリアシュとウドミが生徒会の仕事で、木曜日はリアシュが所要でログインできず、二日ぶりに三人で大広場に集合する金曜日。手配していた足回りのパーツの用意が整っており、リアシュは、その作業をするので二人は無理に集合することはない、と言っていましたが、アコとウドミは強い口調でそれを拒否しました。曰く、リアシュ一人にやらせるわけにはいかない、とのこと。

 そんなわけで久しぶりにフォグバーグの大広場に降り立ったリアシュなのでした。

「皆さん、二日も申し訳ござい、ま……!?」

 そんな彼女を迎えたのは、彼女の予想を裏切る衣装に身を包んだ二人でした。

「な、なんですのその恰好は?」

 リアシュの目の前には黒服サングラスの二人の女性。リアルであれば間違いなく通報されていたでしょうが、ここはPBOです。通行人はちょっと珍しいものを見たくらいの態度で素通りしていきます。

「似合っておりますかしら?」

「似合ってるも何も……」

「似合ってませんか?」

「いえ、その、様にはなっていますけれど……ウドミ?アコさん?ですわよね?」

「あ、これからはリアシュ様とお呼びしますから、私のことも呼び捨てでお願いしますね!」

「え?……あの、何かおかしくありません!?」

「それで、やはり似合っていませんでしょうか……」

「いえ、その、あの……!」

 戸惑いっぱなしのリアシュを、アコとウドミは二人がかりでしばらくからかっていました。


 大通りの中央を、フリルのあしらわれたドレスに身を包んだ人形のような美幼女が歩きます。その両脇には、線は細いけれど強そうな黒服の女と、線が太い見るからに強そうな黒服の女が付き添うようにして歩いています。ボディーガードでしょうか。

 美幼女がどこの深窓の令嬢かという優雅な足取りで歩けば、通りがかる人は皆その美しさに目を奪われ、誰もが足を止めて振り返ります……」

「アコさん……いえ、アコ。どこに向かって話していますの……」

 深窓の令嬢ことリアシュが、呆れ顔で後ろを歩く二人を振り向きます。

「これがしたかったのかしら、ウドミ?まったく、今日のお昼の時もなんだかよそよそしいと思っておりましたけれど、こういうことでしたの……」

「ご迷惑でしたか?」

「別に、迷惑と言うことはありませんわ」

 でも今日だけですわよ、と咎めるように言うリアシュは、しかし、少し微笑んで見えました。なんだかんだ言って楽しいのでしょう。

 美しさに目を奪われてというよりも、好奇の視線を集めながら三人はハンガーへ向かいます。今日は、カヴェナンターの改装を行うので出撃する時間的余裕はないでしょう。


 装い改め、ブカブカのツナギ姿のリアシュが、レンチ片手にカヴェナンターに臨みます。アコとウドミに付き合ってわざわざストレージから引っ張り出してきたドレスは今、ロッカーの中です。

 アコとウドミも、ツナギは持っていないので戦闘服に着替えてその後ろに並びます。せっかく仕立てた黒服も、ロッカーの中です。いつか、再び着る機会が訪れるでしょうか。

「まずは履帯を外しますわ。ジャッキで十分かしら」

 さっそく取り掛かるリアシュを見ながら、アコはしきりに感心していました。普通、戦車の改造は大通り沿いにある専門の店から、それ専門のNPCに出張ってもらい、彼らに指示を出しながらするものです。多少値は張りますが、特に基本ソロのアコはいつもそうしてきました。楽だし、何より自分でやるよりも諸リスクが低いです。

 しかしリアシュは反対に、自分で乗る戦車は自分で見ると言って聞きませんでした。まあ、あれだけTEC(技術)が高ければそういうことにもなるのでしょうか?費用を惜しんで、ということではなく、どうやら拘りの話のようでしたので、アコは素直に従いました。

 そして今、アコとウドミに指示しながらカヴェナンターの履帯を脱がしていくその手際は、感嘆ものでした。

「今日やることは、履帯を幅の広いものに交換すること、そして履帯が横にはみ出すのでそこまで覆うカバーに換えることですわ」

「一日でそんなにできるんですか?」

「やります」

 戦車用のゴツいフロアジャッキと比べるとさらに小さく見えるその肩越しにこちらを振り向き笑顔でそう答えるリアシュは、ただただカッコいいです。

 もっぱら、そのフロアジャッキのクランク係となっているウドミが尋ねます。

「砲の交換は致しませんの?」

「来週もあることを考えると、対戦車攻撃力を下げることにもなる交換はBCS直前が望ましいですわ。昨日一昨日でやることは片付けて来ましたから、来週はみっちりフィールドで狩りをしますわよ」

 なるほど、そういうことでしたか。リアシュのリアルことリーゼロッテは生徒会長であり財閥令嬢。その生活が多忙を極めるだろうことは容易に想像がつきます。昨日一昨日のお休みは、来週を丸々BCS準備に当てる為に現実で頑張っていた時間だったということでしょう。頭が下がる思いです。

 さて、思いでは収まらず頭を下げているアコも手伝いながら、換装は着々と進んでいきます。リアシュが溶接作業に入り、手持ち無沙汰になったアコは、ツナギ姿のリアシュを眺めていました。サイズの合っていない、ブカブカのツナギの襟元からは白いタンクトップが覗いています。別に全然やましい気持ちなどはなく、ただボケーッと眺めていたら偶然目に入っているだけであって、本当に一切いかがわしい事ではないのですが、そんなことをしていたため、いきなり声をかけられたアコは盛大に挙動不審に陥りました。

「アコさん、タオルを取ってくださる?」

「えっ、は、はい喜んで!あと呼び捨てでお願いします!」

 アコは手元の棚からタオルを掴み取ると、リアシュのもとへ駆け寄ります。手を止めたリアシュは溶接面をパカッと上げ、こちらに手を伸ばしてタオルを受け取り、バーチャル汗を拭いました。アコはタオルを受け取ろうと手を伸ばしましたが、リアシュはそのタオルを足元に無造作に置きました。

「来週までには、できる場所は全て溶接にしておきたいところですわね」

「そんなに変わるものですか」

「少しでも軽くしておきたいですし、データベースによれば防御力にも2パーセント程度の有意な効果が認められているそうですわよ」

 PBOでは、基本的に店頭で扱われる車台や砲塔は活躍当時の技術に即して製造されています。カヴェナンターも、随所に鋲の目立つリベット接合で組み立てられていました。仕様上、接合形式を変更できるのは一度剥がしてもう一度付け直すことのできる、即ちパーツとパーツの間のみです。例えば砲塔を丸ごと溶接に変える、などの改造ができるようになるとしたら、もう少し先でしょう。

 アコは防御力が向上することについては初耳だったので、バレンタインでもやってみようかな、と思いました。ちなみに、現実のリベット接合の装甲は、被弾した際に鋲が弾け飛び車内の乗員を殺傷したとか。その要素を反映したのでしょうか。

「明日はついにエントリーですわね。アコさ……アコはソロでは何度も出ているのですわよね?」

「はい。ブランクはありましたけど、六回目の参加になります。リアシュ様は?」

「私も、かなり久しぶりになりますわ。最後に出たのは、去年の六月、だったかしら」

「私と一緒に出た時ですわね」

 いつの間にか横に来ていたウドミが付け加えました。

「その時も、このカヴェナンターで出たんですよね。どうでしたか?」

「多少練習はしたとはいえ、かなり付け焼刃でしたし、乗員も二人ではやはり足りず、悔しい思いをしましたわ」

「私も完全に初心者でしたし、リアシュ様に迷惑をかけてしまいました」

 悔しそうに俯く二人を見ながら、しかし、アコの気分は人知れず高揚していました。

 至近距離で振り回されるマイン・スコーピオンの尻尾をあれだけ避け続けることのできる操縦手が何人いるでしょうか。あれだけ機転が利いて、さらに整備までこなせてついでにこんなに可愛い車長が何人いるでしょうか。そして、そんな二人にアコ(砲手)という最後のピースが加わったのです。

 Aランクのライバルなど、容易に蹴散らせるでしょう。もしかしたら、Sランクの怪物たちにも通用すると言っても過言ではないかもしれません。いやそれは過言かもな、とアコは思いました。

 休憩を終えたリアシュが、再び騒音を奏で始めます。アコは、カヴェナンターの戦車にしては軽い、それでも十分に巨大な車体を見上げていました。

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