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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
20/159

1-A.19

 ハンガーを出た三人は、大広場にて解散の雰囲気を醸していました。時計台を見上げたリアシュが「もうこんな時間」と呟き、アコとウドミに向き直って言います。

「それでは、また明日学校で。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう」

「ご機嫌よう」

 つい昨日とまったく同じリアシュの別れの挨拶にアコとウドミが続き、リアシュが光の粒になってログアウトするのに続いて他の二人も……続きませんでした。

 互いに、互いがログアウトするのを待つ、短いようでものすごく長い時間。気まずい空気が流れました。思い切ってアコから口火を切ります。

「あの……ログアウトしないんですか?」

「アコさんこそ」

 アコは一人で残ってまだ少しソロで遊ぼうと考えていました。まさか、ウドミもでしょうか?

「てっきり、リアシュさんと一緒にログアウトするものだと……」

「私もそう思い込んでいましたわ。親御さんは心配なさらないの?もうとっくにお夕食の時間だと思うのだけれど……」

「私は大丈夫です。ウドミさんこそ、お家が厳しいのでは?」

「私は、反抗期だからいいのですわ」

 アコは、反抗期なら仕方ないか、と思いました。

「えっと、リアシュさんは本当にログアウトしたみたいですし」

「ええ、お忙しい方ですから。この後、どういたしましょう?」

「ウドミさんはどうする予定だったんですか?」

「私は、街を散策でもしようかと。あの喫茶店も、こんな日に私が見つけたんですのよ」

「そうだったんですか?」

 アコは、せめてデイリーミッションをこなしてから上がろうなどと思っていた自分を恥じ入りました。そういうオシャレな過ごし方もあるんですね。目から鱗の滝です。

「それじゃあ、私もそれに付いていってもいいですか?」

「もちろん構いませんけれど、良いのですか?アコさんも何かすることがあったのでは……」

「私のことは全然いいですから!どこに行きましょうか?」

 ウドミは少し悩む素振りを見せ、それなら、と思い当たったように顔を上げました。


「あの、この道って……」

 ウドミの広い背中が進む道は、既視感のある裏道でした。

 そして、彼女が足を止めたのもやっぱり、昨日の喫茶店。ちょっと振り返ってから、そのまま入って行ってしまいます。

 相変わらず気怠げなモブが、カウンターの向こうで二人を迎えます。客は、他にいません。

「温かけを並で。イカ天と、オクラのトッピングをお願いしますわ」

「!?」

 およそ喫茶店での注文とは思えないウドミのセリフに目を剝くアコの目の前で、ウドミはカウンターの椅子を引き、腰かけます。

 モブの視線を感じて、アコはようやく、この場における異端者がなかなか注文しない自分だと気づきました。

「あ……同じものを?」

「温かけ2丁〜」

 状況を処理しきれない時はとりあえず心に素直になる主義のアコに、モブが不愛想に返事します。

 この段に至っては、アコも認めるほかありません。そう、ここはうどん屋でした。一体全体、どういう仕掛けでしょうか?疑念を煮詰めたような視線を向けるアコに、ウドミが答えます。

「先日試しに注文してみたところ、本当に出てきたのですわ。リアシュ様には内緒ですわよ」

 何をどう思って喫茶店でうどんを注文するという挑戦に至ったのかは大いに疑問でしたが、まあきっとそういうこともあるのでしょう。提示されたメニューにだけ従っていては、本当に欲しいものは手に入らないということなのかもしれません。知りませんが。

「お待ちどー」

 紅茶の注文よりも明らかに速やかに丼が提供され、カウンターに置かれます。

「いただきますわ」

「い、いただきます」

 あまりのスピード感に戸惑いながらも、アコは割り箸でうどんを啜ります。美味しいです。しばらく、ズルズルとうどんを啜る音だけが、閑散とした店内に響きました。

 チラリと横目に窺うと、ウドミは右手で長い銀髪を耳に押さえながらうどんを啜っていました。アコは、左利きなんだ、と思いました。何か話すべきでしょうか。しかし、何と話しかければ?

 そういえば、と思いつき、アコは口を開きました。

「ウドミさんはリアシュさんを様付けで呼びますよね?学校では、普通に会長、と呼んでいたと思うのですが……」

 話しかけられたウドミは、うどんを噛み切ることはせずにちゅるんと吸い上げると、もぐもぐと口を動かしてごくりと飲み込んでから、口を開きました。こういう場合、悪いのは食べている時に話しかけたアコですが、ウドミは嫌な顔一つせずに答えてくれます。

「ええ……そうですわね。アコさん、あなたはろーるぷれいんぐというものをご存じですか?何か、役柄に成り切って振舞う、ということらしいのですけれど」

「ロールプレイングですか?わかりますよ」

「まあ、博識ですのね。それで、私たちはこうしてゲームの中で別人になって遊んでいるではありませんか。折角ですから、普段はしないようなことをしたいと思って」

 モジモジと恥ずかしそうにしながらそんなことを言うマッチョな横顔に御堂椿姫の影を見て取って、アコは微笑ましい気持ちを感じていました。

「会長は……普段はとても立派で優雅な方ですわ」

「わかります。かっこいいですよね」

「ええ。でも、そんな会長がゲームの中ではあんなに……あんなに可愛らしくなられて……」

「わかります。かわいいですよね」

「そう、そうですわ。それに、リアシュ様の姿でも中身は会長なのです。あの、人を引き付ける魅力、統率力は姿が変わったくらいでは無くなりません」

「それでついつい様付けしてしまう、と?」

「まあ、そうなりますわね。以前苦言を呈されてしまったのですけれど……」

「あはは……」

 苦笑いを浮かべつつも、アコはウドミに完全に同意していました。車長と砲手の二択を提示されたあの時も、この美幼女に色々指示されたい、という願望から砲手を選んだことを否めません。

「それで、私なりに考えたのです。どのようにリアシュ様に接するべきか……」

 呼び捨てするわけには行かないのでしょうが、アコの知る限り、ウドミとリアシュはさん付けというのも素っ気ない関係です。なるほど、様という呼びも仰々しいようですが、彼女らにはあっているように思えました。

「それならいっそのこと、振り切っちゃいませんか?」

 そんなことを考えていたから、ふと、アコの心に魔が差したのでした。

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